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焼き魚はもう食べない
横たわる偽の不死の元軍人。
顔面全体が黒焦げに見える中、薄っすら手形が見える。
薄く開いた瞼からは眼球が窺えるが、高温の影響か、瞳孔は焼き魚さながら白目と化し、上唇はほぼ完全に焼け、辛うじて白い歯が覗いていた。
杏は吐き気を催す。初めて目の当たりにする焼死体。酸っぱい様な、炭の様な、生ゴミの様な匂い。
視覚からも嗅覚からも人の死を実感してしまう。
『俺は行く。歩けるか?』
男の言葉に一瞬我に帰る。
この男が殺した。人殺しだ。
それも、あろうことか掌の体温で。
『聞いてる?』
『は、あ、、、はい。』
エレベーターのボタンを押す。
気まずい待ち時間。
『あの、、、』
杏は男に話しかけた。
『ん?』
『さっきの人に、若僧って、、、。』
『ああ、俺から見ればあいつは赤ん坊以下だから。』
傷の男は笑っているが冗談には聞こえない。
『え?それはどうゆう、、、』
その時 チン とエレベーターの到着を知らせる音がした。
『俺は歳で言えば400歳くらいだよ。』
傷の男は、一見無邪気にも見える笑顔を見せエレベーターに乗り込んだ。
が、これも冗談には聞こえない。