偽不死 其の五
言ってみれば哀れなもんだ。
欠陥を抱えて残りの寿命を全うしなければならない。それもあと数十年。
先の大戦に参加したとなるとこの男も若くて70代、もしかしたら90代でもおかしくない。
しかしどうだ見た目は30代から40代だ。
昨今ニホン人の平均寿命は120から130歳と言われている。
実際杏の高祖母つまりひいひい婆さんは、曽祖母、ひい祖母さんの介護を受け、未だ存命だ。
それでも寿命が来れば死ぬという事に違いはない。
徴兵された人間たちは当初『完全なる不死の肉体』を与えられるという恩恵をさずかる確約があった。それにあやかりたく志願兵になるものも少なくなかった。
しかし実際は、この男の言った様に、若い頃は銃弾や刀傷や爆風にも耐えうる超肉体だったのかもしれないがその実時が経ってみれば『欠陥を抱えたままの超長生き』と言うだけだったのだ。
『つまり偽の不死身だったと』
傷の男はタバコに火をつけ、言った。
『ああそうだ。お前にこの痛みわかるか?』
男の言葉には怒気と言うより自己憐憫や哀愁が垣間見える。
『わかるさ。多分お前より』
傷の男は言った。直後
ドン
と鈍く重厚な音が響く。
傷の男の脛が弾けた様に見えた。
偽の不死身と呼ばれた男は躊躇いなく発砲したのだった。
傷の男は痛みに背中を丸め、低く呻いた。
『でもお前は良い。ここで死ねるのだから。』
欠陥不死の男は傷の男の額に銃口を当てがった。