偽不死 其の四
『とりあえず出よか』
傷の男は言い、杏の手を引く。
『い、いやっ、あのあなたは?』
『怪しくないものだ』
男はジョークのつもりだろうが言い方とトーンと状況を間違えてるせいで少しも面白くない。
『待て!!!』
振り返るとあの男がオートマチックの銃口をこちらに向けていた。
『おいおい、人質殺したら意味ないだろ?』
傷の男は正論を吐いた。正直やめてほしい。この場面で正論は挑発だ。
『馬鹿かてめえは。人質はこの原発がありゃいいんだよ。ただ政府は原発の存在を認めたがらねえ。お前らは交渉が難航したときのためだけの人質でしかねえ。』
さすがにこの男の言うことも通っている。
政府は約50年前、原子力発電所を正式に廃止したと発表している。廃炉が見つかったら事だ。
ましてそれがテロリストに占拠されたとあっては。
『おいおい、お前らは“第三次世界大戦”の勇士だろ?愛国心はどこいった?』
傷の男は言った。
この男たちが第三次世界大戦の勇士?
『そうだ!俺らは徴兵され不死身の肉体を与えられた!食扶持に困ってた弱みに付け込まれてな。誰も望んじゃいなかった。だがどうだ?戦争で活躍すりゃ、意味のない端た金で形だけ持て囃され、戦争が終われば用無し。金を使い切るのに50年かからなかった。今の世の中になりゃなんだ!?俺たちはただの老害さ!欠陥だらけの不死身の肉体を抱えた老害だ!』
そうか、この男たちはあの戦争のニホン兵たちだ。
不死身の肉体。
ニホンの医学はついに人間の平均寿命を2倍強にまで伸ばした。
そこから"更に先”にいくのに時間はかからなかった。
死なない肉体、不死。
不死とは、死なないと言う定義ではなく損傷や病に影響されず、寿命が来るまでは活動し続ける体。
これにはメデイアやマスコミも過剰反応し、様々な憶測が飛び交った。
『実際蓋を開けてみればどうだ?食っても食っても飢えから解放されない餓鬼のようになってしまった仲間もいた。肉体が老いているのに死ねない仲間もいる。俺たちはまだマシな方だ!こんな失敗許されるか!!』
男は銃口を向けたまま興奮している。
なるほどこれが、不死の欠陥の実態だったのだ。