クーデター 其の四 『桃と梅』
翁我派遣コンビの桃と梅。黒の詰襟、正中線に金のトライバルの軍服。
共に迫る賊軍を迎え討つにあたり、猛るでも震えるでも互いを鼓舞するでもなく、ひたすらに、それが日常であるかのように戦闘態勢を整える。
『自分は不死身だ』と言う意識がそうさせるのか。
『なあ、話しかけていいか。』
梅は桃にに話しかけた。
『いい。』
桃は短く答えた。
『死なないってのはどんな気分だ?』
『何故訊くんだ。お前も不死だろうが。』
桃はあくまで冷淡だった。
『俺は元死刑囚だ。』桃の淡白な返答をよそに梅は語り始めた。
『何人も殺した。幼子をな。んで、ある日房に男が来た。役人らしい。どうやら司法と取引をしたらしいんだわこれが。なんだかタラタラ言われたが要は、俺の犯した罪は贖罪になり得る刑がないんだそうな。死刑でも軽いって言いたいんだな。まあそりゃそうだ。で、どうしろってんだって話になるわな。』
『その先は大体読める』
桃は口を挟んだ。
『まあそう言わず聞けよ。んで、役人は俺にこう言うわけよ。
“生きろ”
ってな。なんだよ、ただのラッキーじゃねえかと思ってる内になんやかやの手続きもトントン進んで俺は釈放よ。んでどっかの施設に今度はぶっこまれて。そいで気づいたら不死手術されて、、、』
『ちょっと待てよ。随分アッサリしてんな。抵抗しなかったのか?お前はまな板の鯉か?』
桃はここへきて初めて茶化すような笑みを見せた。
『まな板の鯉はいいな。まあ言っても俺は死刑を受け入れちまってたもんだからさ。代わりにっつってどんなことされても仕方ねえやって気分だったんだ。本当だぜ?こう見えてもちっとは悪いことしたなとは思ってたんだ。』
梅も自嘲するように笑う。
『で、手術が終わってみて、まあなんだこれ何か変わったのか?ってなるわな。そしたらそれからが地獄の日々よ。やれ腕を切り落としてみたり、プレス機で全身潰してみたり。あれ不思議なのな。死なねえっつってもちゃんと痛えのな。なんだ、生きろってのは苦痛に耐えて永遠に生きろって意味かよ、と。』
『それは方便だろ。俺はちなみに元死刑囚でもなんでもないのにお前と同じ目に遭ってるぜ。』
桃は言った。
『ああ、お前は違うっぽいな。』
『で、オチは?』
『あ?』
梅は気の抜けたような声をだした。
『この話のオチだ。』
『ああ、要はさ、俺と違ってなんの因果もなくこの不死身にされた奴はどう思ってんのかなってよ。』
『お前はどうなんだ?』桃は質問を質問で返した。
『俺は』
梅は一瞬だけ返答に間を空けた。
『俺は贖罪だよ。成り行きではあるけどな。』
桃は短く笑ってから答えた。
『奇遇だな』と。