王の話 其の四
王は人間が長年夢見てきたフューチャーモデルをことごとく実現した。
まずは貧困の差を無くした。
自由競争理念そのままに、競争の敗者への福利厚生も手厚かったため勤労意欲は増し、景気は好調ラインで推移した。
難病の治療法の会得。
機能障害の改善。
王が開発した『ナノマシン』と呼ばれる人工細胞でこの二つをクリアしてみせた。
王の虎の子たるこのナノマシン。
これはさしずめパンドラの匣を無理矢理こじあけるためのバールであった。
と言うのもこのナノマシンを駆使し、これまで禁忌とされてきた『クローン』人間の実現が可能になった。
これまでもクローン人間は『造形』可能であったがクローンと呼べる代物ではなかった。
当人の過去の記憶、身体能力、知能、それらが生き写しと呼べるまで再現出来なかった。
しかしナノマシンによるクローンは完璧だった。
クローン技術は王政府が特許を保持し濫用を防いだが、現実、クローン人間は社会に溶け込んでいった。
クローンが造れるのであればゼロから人間を造れるのでは?
そのフューチャーモデルも案の定成し得る。
人工卵子と人工精子の受精。
わけなかった。
ここまでくると人々の上昇志向も飽和状態。
慣れてきたと言った方が正確であろう。
人々は王の起こす、謂わば『奇跡』に次第に慣れてきた。
そして行き着いた果てが『寿命』と言う概念についてだった。