王の話 其の二
AI率いるニホン国は中東の新興国『ラシャ』を攻めた。
ラシャは中東の様々な地からの移民たちで成る小さな島だった。
他国との国交はなく、孤立して国家。
この国は完全社会主義を目指していた。
国家と言うより共同体と言うニュアンスに近かった。
政治はどの国よりも民主的で、内乱や財政問題も見受けられなかった。
“何処よりも暮らしやすい国、ラシャ。”
国交こそなかったが、この国をそう表現する評論家もいた。
そんな国を侵攻する。
大衆は反発した。
大義のない侵略はただの暴力だと。
政府側としての説明はこうだった。
『ラシャはペイジアと癒着している』
ペイジアと言うのはニホンの北に位置する同族経営の独裁国家。
核開発、覚醒剤の製造など問題の多い国だが未だこの国の脅威は計り知れず、国際社会の問題児だ。
AIが言うにはラシャは、このペイジアと結託して武器の精製、テロ要因の補充、覚醒剤の密輸の手助けなどに関わってるというのだ。
無論そう言った情報は今までメディアで取り沙汰されることはなかった。
だからこその大衆の反発は大きかった。
しかしこのAIのラシャ侵攻宣言の一週間後、ラシャに異変が起きた。
隣接国家の報道では、大規模な爆音と地揺れが起き、国境付近では放射能が検出された。
孤立国家
これは核実験によるものか?
一部のメディアが軽はずみに報じたのを皮切りに、一気に論調は傾いた。
『やはりAIの意見は正しかった。』
その思想から『ラシャ侵攻肯定論』に至るまで時間はかからなかった。
ニホンの持つ唯一の軍『防衛隊』にとって初めての侵略戦争だった。
死者は出たにせよ、ほぼ計算通りの戦果。
スピーディーな決着。
ニホンの得たものは大きかった。
ニホンの株は一気に値上がりし、他国首脳もこの戦争の成果を褒め称えた。
強いニホン万歳。
強いニホン万歳。
皮肉なことにニホン人は忘れかけていた愛国心を戦争によって取り戻した。
この戦争で得たものはもう一つ、
世論の『ニホンの軍隊保有支持』だった。