不死身(ふじみ) 其の一
桃は無言でワーゲンの運転席に戻った。
『タバコ、だめか?』
『だめ』
数秒おいて車を走らせる。
『ねえ、大丈夫なの?』
杏は尋ねた。
『体は前も言ったけど大丈夫。ただ状況は少しまずい。』
桃は心なしか、先ほどまでの覇気が感じられない。
それが杏の不安を更にかきたてた。
『私は本当に、家に帰れないの?』
『、、、わからない。あいつらに会うまでなら7:3くらいの確率だったけど、今は車のナンバーも見られたあとだ。ほぼ確実にお前の家も軍が押さえてると思う。まぁ要は俺の判断ミスだ。スマン。』
責任を感じて意気消沈しているのだろうか。
そんなタマには見えなかったが。
『あなたのこと教えてくださいよ。なんであの時あの発電所にいて、私を助けてくれて、軍警と揉めて、あなたは何者なの?』
しばしの沈黙。
『長くなるけど、寝ないか?』
桃は戯けて見せたが、無理に笑っている様に見えた。
杏は頷いた。
『少し触れたけど俺は不死身だ。不老不死、老いないし、病気もしない。真っ二つになろうが、ある程度粉々になろうが死なない。ビビるだろ?
政府が俺に投与した“ナノマシン”と言う人工細胞のおかげだ。俺みたいな不死身人間は戦争の為に募った志願兵の中から選抜して造られた。俺たち不死身人間は戦争で活躍しまくった。ニホンは世界のトップに君臨した。核の脅威にも打ち勝てる俺たちは重宝された。
でも王が不死身人間を作り始めたのは別の目的があることを知った。』
『別の目的?』
杏は初めて口を挟んだ。
『王は人間社会を100年周期で浄化する方針を固めた。王がどう計算し直しても、このまま順当に人間の科学力を進化させてしまうと地球は必ず滅ぶことになると言った。必ずだ。信じられるか?
つまり浄化し、文明をリセットしてはまた発展させ、文明の進化の方向性を少しずつ変えているんだ。
そこで不死身人間の出番だ。
浄化に影響されない俺たちは、浄化された地上にある程度社会と呼べる状態を構築して人間社会の発展を助ける。』
『何故?』
『考えてみろ。100年周期で正解か不正解かを判断しなきゃならないんだ。猿から始めてたら何億年かかるかわからん。』
『ちょっと待って、そもそも浄化って?』
『まんまの意味さ。地上を洗うんだ。文明と人間を“一掃”する。』
『え、え、え、わかんない。じゃ、100年たったら皆殺されるってこと?』
『そう。まあ正確にはお前ら全員俺が知ってる限り“最低4回は死んでる”。』
『はあ!?』