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エピローグ

 それから数日後。

 フェルナリートは王城の私室にて、退屈そうに勉強机の前に座っていた。


「うー、結局お城に戻らされることになるなんて……ユート、謀ったわね」


 彼女は恨めしそうに、教育係である宮廷魔術師の少年を見上げる。

 その少女の上目遣いのまなざしは、たいていの男を一瞬で魅了してしまうであろうものだったが、肝心の目の前の少年にだけは、効力がなかったようだ。


「はいはい、文句はあとで聞きますから、今は頭を動かしてください。姫様だって今回のことで、剣の腕だけでは世渡りできないことは分かったでしょう」


 少年は少女の言葉を冷たくあしらいつつ、机の上に開かれている本の文章を指示棒で指す。

 フェルナリートはそれを受けて、本の文字をむむむっと凝視するが、すぐにへたって、机の上に突っ伏した。


「ねえユートぉ、人間にはそれぞれ、得意不得意っていうものがあるんだよ。ユートだって、私みたいには剣を扱えないでしょ?」


「相変わらず、屁理屈へりくつだけは一丁前ですね」


「だぁってぇ。勉強したくないんだもーん」


「ダメです。王族たるもの、最低限の見識は身につけていただかないと」


「あーもう、また旅に出たいよ~」


 そう言って子どものようにじたばたとする王女の姿に、宮廷魔術師の少年はいつものようにため息をつく。


 ──くだんの村での出来事は、近隣の村で盗賊行為を行なおうとしていたアドラルトの私兵たちが、待ち伏せていた王国騎士団によって現行犯逮捕・制圧されたことにより、過たず白日の下にさらされることとなった。


 これにより、盗賊行為の実行犯であるアドラルトの私兵たちはそろって死刑に処せられ、またそれを幇助ほうじょしたアドラルト卿自身は、封度ほうどを没収された上、国外追放の刑を言い渡された。

 そして領主不在となったかの村は、国王の直轄領として統治されることとなり、それに先立って、村の近隣に棲みついたゴブリンの残党も、王国騎士団によって退治された。


 一方で、問題解決の立役者であったフェルナリートとユートの二人は、その後当然の帰結として、城への帰還を余儀なくされた。

 ユートが王都と連絡を取って密偵や騎士団を動かしたときに、宮廷魔術師が城を離れて何をやっているのかと問われ、職務に忠実な少年は事の次第を正直に説明したのである。


 そうして城に連れ戻されたフェルナリートは、父親と母親──つまり国王と王妃からこっぴどくしかられた。

 しかしその後も彼女に反省の色はなく、ユートに対して事あるごとに「また旅に出たい~」と駄々をこねている。


 だがそんなフェルナリートにも、一つだけ、こたえていることがあった。

 彼女は机に突っ伏したまま、ぼそりとつぶやく。


「でもなぁ……結局のところ、あの件を解決したのって、ほとんどユート一人でやったようなものなんだよね。私なんて、ただ戦ってただけ。……ユート一人いれば、私なんて必要ないのかな」


 その少女の本音のつぶやきを聞いて、宮廷魔術師の少年は「そうですね。だから姫様ももっと勉強しましょう」──とは、言わなかった。

 その代わりに、彼は「そうでもないですよ、姫様」と前置いて、こう続けたのである。


「少なくとも、僕一人では世直しの旅をしようなんて考えなかったですし、そうであればあの村の窮状も、姫様がいなければ救われませんでした。……僕は基本的に受け身の人間ですから、姫様みたいな人に振り回されていたほうが、向いている気がします。案外僕と姫様は相性が良くて──ずっと一緒にいたほうが、いいのかもしれませんね」


 そう言って自嘲じちょう交じりに微笑む少年に、フェルナリートは唖然あぜんとした顔を向ける。

 そしてそれから──少女のほおが、どんどんと赤くなっていった。


「──ユートのバカ! あんたは何でそう……バカバカバカぁっ!」


「わっ、ちょっと、姫様、突然なんですか!? モノ投げないで!」




 そんな二人はまた遠からず、城を出て旅をすることになるのだが──それはまた、別のお話である。


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