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第六話

「もう一つの要件とは何ですかな、お若い宮廷魔術師どの」


 前のめりになっていたアドラルトは、一度ソファーに深く座りなおした。

 宮廷魔術師の少年──ユート・フェルレインは、淡々と話し始める。


「最近、この近隣の村や街道で、盗賊による被害が多発しているのをご存知ですか、アドラルトきょう


 ユートの言葉に、余裕だった肥満の領主の表情が、わずかに揺れ動いた。


「……いや、存じ上げませなんだ。ああそれで、我が領地にも来るかもしれないから気を付けるよう、ご連絡下さったというわけですな。これはわざわざ、かたじけない。それでは我が領土でも、警戒と防備を怠らぬように──」


「いえ、その心配には及びません。その盗賊団は、もうすぐ捕まる予定となっておりますので」


 再び、アドラルトの表情がぴくりと動いた。

 彼は慎重に言葉を選ぶようにして、ゆっくりとした口調で問いかける。


「……と、おっしゃいますと? その盗賊団の根城でも、発見したのですかな」


「そうですね、そんなところです。──おかしいとは思っていたんですよ。襲われた村からの報告では、略奪者たちは二十人近くいたというのに、王国騎士団や密偵を派遣し、近隣の山中などかなりの広い領域を捜索しても、そのアジトらしきものが一切見つからなかった。それだけの人数が一つの組織として動いているなら、根城の一つぐらいありそうなものだというのに」


「……盗賊たちは、日々野宿をして暮らしているのかもしれませんな」


「ええ、その可能性は多少無理があるとはいえ、否定しきれませんでした。ところでアドラルト卿、卿は二十人ほどの私兵を、常勤で雇っているとお聞きしました。この規模の村の治安・防衛用の戦力としては、かなりの大規模戦力かと思いますが」


「……ふむ、随分とあちこち話が飛びますな。ええ、ちょうど今お話しされたような盗賊に襲撃されても対応できるよう、防衛には力を入れておりますが」


「だったら何でゴブリンを……!」


 フェルナリートがいきり立って立ち上がり、横から話に割り込もうとする。

 しかし宮廷魔術師の少年はそれを手で制して座らせ、静かにアドラルトに問いかける。


「その二十人ほどの私兵は今、どこにいますか?」


「……質問の意図が見えませんな。彼らの多くは、この館内の宛がわれた部屋にて待機中ですが」


 アドラルトはそう答えるが、その返答を受けて、少年は首を横に振った。


「いいえ、それは違います。三台の荷馬車の中に隠れて合計十八人、先ほどこの館を出て行きました。──そうですね?」


 ユートの言葉に、隣のフェルナリートが「えっ」という声を上げた。

 一方、領主アドラルトは無言のまま、目の前の少年をにらみつける。

 しかし少年は、ひるむことなく話を先へと進める。


「なるほど、盗賊団のアジトは見つからないし、この村だけ盗賊の襲撃を受けないはずです。何しろこの村の領主が、盗賊団をまるごと私兵として雇っている後援者パトロンなんですからね。村人たちが行商人の荷馬車と思っていたものが、実は領主が私兵を盗賊として送り出し、略奪物を持ち帰るための荷馬車であったとは」


「…………」


「なお、僕の方で前もって王国騎士団と密偵に連絡して、出て行った三台の荷馬車に関してはマークしておくように伝えてあります。うちの密偵たちは優秀ですから、うまいこと現行犯で捕まえてくれるでしょう。──欲を出し過ぎましたね、アドラルト卿」


 その宮廷魔術師の少年がかけたチェックメイトに、悪徳領主アドラルトはまずは憎々し気に少年を睨みつけ、次にはがっくりとうなだれ、腹の底から響くような苦悶くもんの声をあげた。

 決着は、そこでついたかのように見えた。


 だが、その様子をアドラルトの背後で見ていた男──アドラルトの私兵であるはずのリーダー格の男が、高らかに笑い声をあげる。


「はっはっは、こりゃやられたな、アドラルトの旦那ぁ。この坊主、なかなかどうして頭がキレやがる」


「ぐっ……グリット、何を悠長なことを言っておる! こうなったら貴様とて、ただでは済まんのだぞ!」


「はっ、なぁに。それならそれで、楽しむまでのことよ。なぁ旦那、とりあえずこいつら──」


 グリットと呼ばれたリーダー格の男は、そう言いながら、アドラルトが座っているソファーを乗り越え、踏みつけながら、強引に前へと出てくる。

 そして、目の前の少年少女との間を隔てるテーブルに足を引っ掛け──


「──ぶっ殺しちまおうぜ!」


 そのテーブルを、思い切り蹴り上げた。


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