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第五話

 少年と少女は門の前でしばらく待たされた後、奥から現れた執事に案内され、領主の館の中へと通された。

 執事に案内されるまま応接室へとおもむき、そこでも待たされること少々。


 そうしてようやく、応接室の扉が開き、領主らしき男が姿を現した。

 男はよわい四十ほどの肥満体の男で、上流貴族が着るような豪奢ごうしゃな装飾の施された衣装を身に着けていた。


 また、彼の後ろには、先日出遭った武装集団のリーダー格の男が、用心棒という様子で付き従っている。


 肥満男は、二人の旅人が座っているソファーの、テーブルを挟んで反対側のソファーへと腰掛ける。

 リーダー格の男は、肥満男の斜め後方に立った。


「いやあ、お待たせして申し訳ない。この村の領主、バルミラ・ドルク・アドラルトです」


 肥満男はそう名乗り、少年が持つ宮廷魔術師の徽章きしょうを改めて確認した。

 そして一つ鷹揚おうよううなずいてから、本題について質問してきた。


「しかし、王女殿下と宮廷魔術師どのが、一体どのような御用でしょうか? 門番からは、この村の統治についてのお話だと聞いておりますが」


 この質問には、旅人の少女──フェルナリート王女が返答をする。


「はい。単刀直入に言いますけど、アドラルトきょうが行なっているこの村の統治は、あるべきものとは思えません。税は重く、領民は苦しんでおり、村では貧困を原因とした死者まで出ていると聞きました。また、近隣にゴブリンがみついても討伐の兵を出さず、結果として村はゴブリンたちに襲われ、貴重な家畜や、人の命までもが奪われています。──アドラルト卿、あなたは直ちに、自らの統治のあり方を改めるべきです」


 その少女の愚直な言葉を、肥満男──領主アドラルトは、静かに聞いていた。

 しかし、少女の話が終わると、アドラルトは確かに失笑をした。


「フェルナリート姫──どうやら姫様は、重大な勘違いをなされているようですな」


「……勘違い? 私が何を勘違いしているというの」


 王女の額に、薄く汗が伝う。

 対するアドラルトは、悠然と、諭すように語り始めた。


「いいですか、姫様。私はこの地の領主です。この地をどう収めるかは、私の裁量なのです。そこには姫様、あなたの意見はもちろんのこと、仮に国王殿下自身のご意見であっても、私がそうと決めなければ、通りません。言わば私はこの地の王であり、私の決定こそがこの地のルールなのですよ」


「そんなバカなこと……!」


 フェルナリートはテーブルをたたいて立ち上がり、目の前の肥満男をにらみつける。

 そして、助け舟を求めるように隣にいる宮廷魔術師に視線を送るが、少年から帰って来たのは、冷たい言葉だった。


「姫様、アドラルト卿の言っていることは、間違ってはいませんよ。国王殿下が卿に封度ほうどを与え、卿は殿下に軍事的奉仕を約束する。それは契約的なものであって、それが有効なものである以上は、与えられた封度の支配権は、アドラルト卿のものです。その封土と、そこに住まう民にどのような治世を敷こうが、それは卿の裁量の範囲内です」


「そんな……でも、だからって暴君であって良いわけが……!」


 フェルナリートがお付きの宮廷魔術師に食ってかかると、そこにアドラルトの言葉が重ねられる。


「暴君とは人聞きの悪い。私は私の考えと判断に基づいて、適切な統治をしております。フェルナリート王女のご意見は、確かに承りました。今後の統治の参考にさせていただきましょう。──さて、ではほかにご用件がなければ、お引き取り願えますかな?」


 アドラルトは勝ち誇るようにそう言って、応接室の入口の扉を手で指し示した。

 フェルナリートは、なおも食い下がろうとするが、その口から言葉は出てこない。

 用心棒の男がその少女の姿を見下ろし、にやにやと笑っている。


 フェルナリートは、瞳に涙を浮かべてうつむいてしまう。

 彼女の脳裏には、この村で出会った村人たちの姿が浮かんでいた。


 自分がここで敗れてしまったら、彼らはこの地で一生、目の前の肥満男の食い物にされ、苦しみ続けることになるのだろう。

 人々は飢え、魔物の襲撃におびえながら暮らさねばならないのだろう。


 だというのに、自分には何もできない。

 国王の娘、王女という立場にありながら、これだけの小さな村の人々すら、救うことができない……。


 そう思っていたとき、少女の肩にぽんと、手が置かれた。

 自分の肩に手を置いた宮廷魔術師の少年を見ると、彼は「安心してください、姫様」とでも言うように、穏やかに微笑んだ。


 そして彼は前を向き、口火を切る。


「いいえ、要件はもう一つありますよ、アドラルト卿」


 その言葉は、静かなる反撃の狼煙のろしであった。


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