表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

第四話

「ねぇユート~、私たち、いつまでこうしてるの? もうあれから三日だよ」


 村長から貸し出された部屋のベッドの上で、少女が不満を口にする。

 少女は、同じ部屋で書き物をしている少年に向けてふくれっ面をさらし、腰掛けたベッドの上で足をぶらぶらさせることで、自らの退屈さを表現していた。


「ユートは毎日毎日、領主の館の近くに行って何かしてたり、魔法で誰かと連絡を取ったりしてるみたいだけどさ。私なんて、剣の訓練するぐらいしかやることないんだよ。それにしたって相手がいないと限界あるしさぁ。あーもう、残りのゴブリンを退治にでも行けばよかったよ」


 その少女の言葉を聞いて、少年はため息をつき、書き物をやめて少女のほうを見る。


「やめてください。ゴブリン相手だって、奴らの巣穴で十もの数を相手にすれば、不覚を取って命を落とすことだってあります」


「……何よ、ユートまで私の剣の腕をバカにするの?」


 口を尖らせて言う金髪の少女に、少年はあきれた口ぶりで言葉を返す。


「そんなわけないでしょう。王室付きの近衛騎士とだって互角以上に渡り合う人が、何を言ってるんですか。どんな達人だって、数の力と時の運に負けることはあるんだから、過信は禁物だって言ってるんです」


「はぁい。……でもユート、本当に今、何をやっているの? それにこの間村長に聞いてた、行商人の荷馬車がどうとかっていうのも意味が分からないし」


「週に一度──明日ですね、『行商人の荷馬車』が来るのは。朝方に来て、夕方には出て行くそうですから、その荷馬車が出て行ったところで、領主の館に談判に行きましょう」


 再び書き物を始めた少年の言葉に、ベッドに腰掛けた少女は首を傾げる。


「どうして荷馬車が出て行った後なの?」


「ここ最近、この周辺の村や街道、山道などで、盗賊による被害が相次いでいるんですよ。この場合の盗賊っていうのは、いわゆる山賊のような、行商人や村などを襲撃して略奪を働く集団のことを言うんですが」


「???」


 少年の説明になっていない説明に、少女の頭上には疑問符が増えていくばかりであった。




 翌日の夕刻。

 荷馬二頭立ての、かなりの量の荷物を積載していると思しきほろ付きの荷馬車が三台、領主の館から出て行ったあと、二人の旅人は領主の館を訪ねた。


 館の門の前では、荷馬車を見送った二人の門番が、早くも門の前に座り込んでカードに興じていた。

 彼らは旅人たちの来訪に気付くと、面倒そうにカードを中断して立ち上がるが、旅人たちが目深に被っていたフードを下ろすと、途端に色めいた。


「お、何だ、この間のお嬢ちゃんじゃねぇの。何か用か?」


 門番の一人がそう言いながら、さりげなく少女の横に回り込んで、その肩に腕を回そうとする。

 旅人の少女は、その門番の不躾ぶしつけな手をはたいて拒絶し、眼光鋭く睨みつける。


「この村の領主に話があるの。通してもらえる」


「ちっ、痛ってぇなこのメスガキ。……領主の旦那に話だぁ? 旅人風情が、旦那に何の話だよ」


「この村の統治についてよ」


「……はぁ?」


 少女の言葉を聞いて、門番たちはまず怪訝けげんそうな顔をしたが、次には吹き出し、大笑いを始めた。


「ぎゃっははははは! お嬢ちゃん、そりゃお嬢ちゃんが、領主の統治の仕方に対して意見しようってことか? ひー、腹痛てぇ!」


「あのな、お嬢ちゃん、それはお嬢ちゃんの考えることじゃないの! 分かるぅ? 領主の旦那だって暇じゃねぇんだから、お嬢ちゃんみたいなお子様を相手にしてる暇ないの。ほら、帰った帰った」


 意外にも門番の役割を的確に果たす男たちに、旅人の少女は憮然ぶぜんとする。


 それを横で見ていた少年が、男たちの前に歩み出た。

 懐から、以前村長の家で見せたのとは別の徽章きしょうを取り出し、門番の男たちに見せる。


「王国宮廷魔術師のユート・フェルレインです。この地の領主、アドラルトきょうに面会を求めます。通していただきたい」


「王国……宮廷魔術師ぃ!?」


 二人は少年の取り出した徽章を、まじまじと見つめる。

 門番の男たちは、その真贋しんがんあらためられるだけの知識を持ち合わせていなかったが、それは確かに宮廷魔術師の地位を表す徽章であった。


「じゃあ……そっちのお嬢ちゃんは……?」


 門番の一人が、おそるおそる少女を指さす。

 それに対し、宮廷魔術師を名乗った旅人の少年は、淡々と返答する。


「ワイルーン王国第一王女、フェルナリート・レヴリス・クロスフォード王女殿下です」


「だ、第一……王女ぉ!?」


 顎が外れたというようにあんぐりと口を開けた門番たちの前で、自分の身分を証明するすべを持たない少女は、マントの下、胸当てに守られた胸をむんと張り、腕を組んでふんぞり返ってみせる。

 その様子を、お付きの宮廷魔術師がジト目で糾弾きゅうだんする。


「……姫様、それ、どう見ても王女様っていうポーズじゃないですからね」


「あれ……? そっか」


 少年から指摘された少女は、てへっと舌を出して誤魔化した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ