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◆ 地学部員 王子の災難

地学部員 王子視点です。



弟の元へ駆けていく、森の背中を暫く見ていた。


彼は正面玄関の柱に凭れて、嫌味なぐらい長い手足を緩く組み森を待っていた。

その表情はなんだか大層愛しげに見える―――というのは、俺の邪推だろうか?


先日初めて顔を合わせた。

2人の間には、特に姉弟以上の親しさは見受けられなかった。


―――少なくとも、森の方には。


彼女の側に『特別な』感情がある素振りは見られなかった……と思う。

森の弟に対する態度は、完全に『姉』が弟に向ける類のものだった。


けれども彼女の弟から俺に向けられたのは、明らかに敵愾心だった。

邪魔者を見るような不遜な視線―――俺を見る彼の態度に、はっきりとした敵意が込められていた。


『重度のシスコン』と森は言うけれど、彼は自分の義姉にそれ以上の感情を抱いているのではないだろうか……?

……そうじゃないと、説明が付かないだろう―――あの俺を射殺すかのような殺気には。




それにしても。


2人が並んでいる所を改めて目にしたが、まるで似合っていない。

……外見だけで言えば、俺のほうが彼女の横に居ても違和感が無いと思う―――単純に嫉妬から「そう考えたい」と願っているだけなのかもしれないけれど。


「あれって、もしかしてバスケ部の1年生じゃないですか?確か今年『外人が入部して来た』って噂になってたと思いマス!」


安孫子が眉の上に手で庇を作る仕草をし、目を凝らした。

中性的な無駄のない体付きで、長い髪をツインテールに纏めている。美人という訳では無いがそこそこ可愛らしい顔つきをしていて、パッと、男子から受けそうな雰囲気がある。しかしいちいち仕草がオタクっぽい。何を言うにもするにも、演技がかっていて大袈裟なのだ。


「すっごい爽やかでキラッキラしてますねえ。モテそう。『リア充』そのものって感じ」「……もしかして森先輩の彼氏ですか?」


ふくよかな館野が眼鏡をクイっと持ち上げつつ、ニヤリと首を突っ込んだ。

俺はドキッとして、慌てて否定した。


「違う、違う。森の弟だよ」


「「弟……!?」」


安孫子と館野は、驚愕していた。


「全然、似てない……!!」

「サイズ、違い過ぎだろ?!」

「いや、その前に国籍違うんでない?!」


異口同音にその驚きが言葉となって溢れた。

分かる。その気持ち、スッゴク良く分かる。


「おーい、おしゃべりしていないで帰れよ~」


立ち止まったまま騒ぎ始めた俺達に、先生が車の窓から注意を促した。


「あ、はーい。お疲れっす」


返事をすると先生は頷いて「早く帰れよ~」とのんびり言いながら窓を閉めて、車を走らせ去って行った。







先生を見送った後、暫く3人で並んで歩いた。


「晶先輩っておウチのコトあんまり話さないので、知りませんでした。それにしても似てませんねー。もしかして再婚組?」

「うん。俺も昨日初めて知ったんだけど義理の弟なんだって」

「そうですよね。それじゃないとあの身長差、説明付きませんよね。っていうか見た目も全然似てませんよね。弟さん、髪ほとんど金髪じゃないですか?ヤンキーかと思いました」

「『ヤンキー』って……古い単語知ってるなあ。彼のお母さんが外国人だって森は言ってたよ」

「『弟』って感じじゃ無いですけど、『彼氏』だとしても似合ってませんよね。キャラクター違い過ぎですもん」


そうそう―――2人は似合ってない。

安孫子、グッジョブ!偶には良い事言うじゃないか。

俺は「うんうん」と頷いた。


……やっぱり森には、あのキラキラした弟より俺の方が似合っているよな…?


「王子先輩の方が似合ってますよ」

「えっ…!」


心の中を見透かされたかと思い、嬉しいと言うよりギョッとした。


でもそうかな……?やっぱり、そうだよな。


安孫子は、くふふっと気味悪く微笑んだ。


「王子先輩と、晶先輩の弟さん―――すっごくお似合いです」


―――は?


「美少女系の王子先輩が―――意外に『強気責め』で、体育会系の弟さんが『受け』ですね……!!」


―――ナンノコト?


「晶先輩に会いに行くって口実で、王子先輩はおうちに遊びに行くんです。弟さんは目が合っても知らんぷりで。だけどだけど……彼女がキッチンに立った時、ついに2人は―――!くぅっ……溜まりませんね。『友達の目を盗んで弟と』って…どんな気持ちですか?背徳感で燃え上がっちゃいますよねっ」


ぞわわっ

一気に鳥肌が立った。


「ヤ…ヤメロっ!!」


カッとなって怒鳴る俺を意に介さず、安孫子は素に戻った。


「あ、ここでお別れです。お疲れっす!ネタ提供ありがとうございましたっ」


チャッと安孫子お得意の敬礼をして、彼女は走り去って行った。


こ、このやろ~~

気持ち悪い想像―――するなっ!……さ、させるなぁっ!!


後ろで館野が、腹を抱えて笑っていた。

ずり落ちたメガネを指で戻しながら、俺の肩に手を置いた。


「見た目可愛いのも、結構損ですね。お気の毒―――ぷっ」


そういってまた笑い出し、苦し気にヒィヒィぽよんとしたお腹を擦っている。


「安孫子の想像が気持ち悪い。吐きそう……」


弱々しい声で呟くと、少し落ち着いた館野が同情するように言った。


「本当は弟の目を盗みたいんですよね。王子先輩は」

「なっ何を―――」

「安孫子の妄想話を森先輩が面白がったら―――悲惨ですね!!」

「!!」


館野の言葉に、俺は衝撃を受けて固まった。

森にだけは―――そんな想像……されたくないし、喜ばれたくないっ!


「あ、俺ここです。お疲れ様っす!」


館野がふくふくした爽やかな笑顔で、サッパリと去って行った。







お…お前、そんな神々しい恵比須顔で―――

―――そんなヒドイ台詞、吐くんじゃねぇっ……!!




拳をぎゅっと握りしめて、やり場の無い怒りで俺は肩を震わせたのだった。



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