15.ねーちゃんを、捕まえた
俺は激しく動揺していた。
メイド服に猫耳……だとぉ……!
安孫子め……グッジョブ!……じゃなくて。ねーちゃんの弱みを握ってなんて卑怯なことを。嫌がるねーちゃんに、こ、こんな可愛い服を着せて愛でるとは……っ。俺の見てないところで、こんな極上の獲物を独り占めするつもりだったなんて……。
う、羨ましい……っ、じゃなくて―――許せないっ。
どんな表情を作って良いか判らず、顔が強張ってしまう。
テーブルに座って参考書を開いたままキョトンと俺を見上げている、ねーちゃんの上目使いは凶悪だった。俺は言葉に詰まってしまい、端的にこう言うのが精一杯だった。
「ねーちゃん。迎えに来た」
ねーちゃんは、俺の背後からひょっこり顔を出した安孫子をキッと睨み付けた。
安孫子は肩を竦めて手を合わせ、一応謝る素振りをしていた。しかしまるで悪いと思っていないのは―――傍目にも明らかだった。
ねーちゃんは、諦めたように溜息を吐いた。
「わかった。着替えてくる」
「え?もう?」
勿体無い!という思いから、声が出てしまった。
「え?」
「いや、うん……待ってる」
ねーちゃんは俺が咄嗟に言った言葉の意味が、よく解らなかったようだ。
良かった。これ以上彼女の気持ちを逆撫でしたくない。
「安孫子……さん、姉を泊めていただいて有難うございました」
心の中でいつも呼び捨てなので『さん』付けがサッと出てこない。
だけど今回はちょっと感謝している。ねーちゃんが逃亡先に選んだ場所が王子の家じゃなくて、ホントーにホントーに……良かった。
「大丈夫。ウィン=ウィンの関係だから。お互い、利益あったし」
クフフ……と忍び笑いする、安孫子。
いやらしい顔だ。思い出し笑いをしているらしい。
そういえば……ねーちゃんのコスプレ写真を何枚も撮ったって言っていたな。
「あの……さっきの服の写真って」
「コスプレ写真のことかな?」
「見せて貰う事って……」
ガチャ。
ねーちゃんが、着替えて荷物を持って出てきた。
俺は文字通り飛び上がった。
「あ、あの、じゃ……安孫子……さん、有難うございました。ねーちゃん―――行こうか」
「……うん」
ねーちゃんは、俺の目を見ずに頷いた。
でも、良い。帰って来てくれるのなら。
そして、ねーちゃんは安孫子に向き直って律儀に頭を下げた。
「安孫子、ありがとう」
「どーいたしまして。また、遊びに来てください」
「……う、うん」
安孫子は爽やかに笑っていたけど、ねーちゃんは複雑な表情だった。たぶん遊びに来るたびにコスプレさせられる事を警戒しているのだろう。
俺はそんなねーちゃんを見下ろしながら、思ったよりあっさり帰る気になってくれた事に安堵していた。
とにかく、ちゃんと話し合わなければならない。
そして謝罪しなければ。
許して貰えるかどうか、分からないけれど……。




