◆ バスケ部員 地崎の証言
バスケ部員 地崎視点です。
念願のバスケ部強豪校に入学が決まって、春休みからずっと練習に参加している。
今年はすげえ奴が入ったって、同中の先輩が噂していたから気になっていた。
そして、奴はホントにすげえ奴だった。
中体連の全道大会でいつも8強に入るチームに所属している、あの『森』だった。
まず、なんといっても最初に目を引くのはその外見だ。
少し透ける栗色の髪に、色素の薄い瞳。
「モデルか」っと突っ込みそうになるくらい整った精悍な顔つき。
180を超える身長と、バランスの良い手足。
何故か俺の中学の女子生徒にもファンがいた。確かハーフだとか何とか、聞いた事がある。あの髪は地毛らしい。
そして奴がすげえのは、外見なんか気にならなくなるくらいのバスケセンスだ。
体が大きいからポジションはセンターなのかと思いきや、何をやらせても上手い。多分、動体視力や視野の範囲が半端なく広いんだ。おまけに背筋が強え。空中戦で後からジャンプしたのに、一番最後までその空間に残っているのが、森だ。
俺だって中学ではエースだった。
しかし悔しいとか嫉妬を通り越して、ただ奴のプレーに見惚れてしまう事がある。
一方本人と話すと、コートの中では頼もしいのに、外に出るとイマイチ大物感が無い…。
何でだろう…?
お高くとまってなくて、性格が気さくだからか?お笑い好きだし、意外と単純でいい奴だし…。
それとも、あれか?…妙に細かいっていうか、タオルとか女子かっていうぐらいきちんと畳んで、人が見ていない隙に人のもキチっ…と端を揃えて置いている様子をこの間目撃してしまったからか?
女子にモテているって、自覚があんまり無いからか?
「バスケしか取り柄無い」って本人は言っていたけど(俺にしてみれば仮にそうだとしても、十分羨ましいが)観覧席に陣取っている女子生徒の大半が自分を見に来てるって気付いて無いのにも驚いたな。コート内ではあんなに、いろんな事を同時に把握してるのに。
それに女子マネで一番可愛いと評価の高い鴻池雛子に、明らかに特別扱いされているのに気付いて無かったって……どんだけ鈍いの?
…鴻池は森と同中で女子バス部員だったそうだ。森は「中学でほとんど話した事無いから、良く知らない」って言っていたけど、あれ絶対森を追ってこの高校に来てるよな。多分女子バスやめてマネになったのも、森目当て。
…しかし、あれだ。
今日、はっきりわかった。
奴に付き纏う、そこはかと無く漂う残念な雰囲気の正体に。
奴は『シスコン』だ…!
しかも、重症の。
高校生になって、おっそろし~い監督やコーチ、イカツイ先輩や部員が大勢いる中で。
しかもアイツは気付いて無いか知らんが、女子がいーっぱい注目している中で。
「ねえちゃ~ん!」
って、嬉しそうに観覧席の姉貴に手を振るって、奴は―――どんだけ、残念なんだ…!!
そういえば会話の端々に「姉貴がさ…」って、かろうじて言い方変えてるけどちょくちょく話題に出すし、今思うと彼女の話題を出すときほんのり頬を染めていたかもしれない。
見た目があまりに懸け離れているので、義理の姉弟だって言うのも頷ける。
それならば本来の『シスコン』というのと、ちょっと意味合いが違ってしまうのは理解するけれども。
森のあの、甘い口調にぞわっと鳥肌が立つのは、俺だけか?
奴の口から姉貴の話題が出る度、なんだか砂を吐きそうな衝動に駆られるのは。
しかもそのねーちゃんが、お菊人…コホン。もとい、和風な見かけでちんまくて、なんかあまり表情が無く、しかも最上級生と聞いたがどちらかというと高1か下手したら中学生でも通りそうな見た目で―――あまりにも森と遠い存在に見える。
森本人はといえば、性格も陽気で見た目もキラキラ~としてて、洋風。
森とねーちゃんと並んだら………。
違和感あるなぁ~外国人が中学生の女の子に悪い事しようとしてるって、誤解されるかもしれない。
早上がりの今日、更衣室でいつになく慌てて着替える森に声を掛けたら、どうやらその『ねーちゃん』と待合わせらしい。
毎日一緒に暮らしている姉貴相手に、どんだけ余裕ないの……?
間違いなくヤツは『どシスコン』だと、確信した瞬間だった。