■ おまけ小話
清美の姉 晶視点です。
晶が中3の冬、バレンタインデーの後の出来事です。
※話の流れを見直して、本編から割愛したエピソードを小話として掲載しました。読み飛ばしても本編の流れに影響はありません。
私の高校受験の直前、ちょうど2週間ほど前はバレンタイン・デーだった。
清美のモテっぷりは小学校の比では無く、その日彼は誰かが譲ってくれたらしい大きな紙袋に、チョコレートを一杯詰めて帰って来たようだ。
「ようだ」というのは、ダイニングテーブルに、でん、とその袋が乗せられていて大き目の付箋に清美の几帳面な字で―――
【良かったら食べて。お返しは用意しなくて大丈夫】
と書かれていたからだ。
母さんと私は「やっぱりもうお返しは本命だけだよね、きっと」と頷き合った。
中学生ともなると小学生のように親と一緒にチョコを用意する子はいないだろう。親から親へのお返しとしてのホワイトデーの準備は不要だと、清美は言っているのだ。
私達は大量のチョコを賞味期限順に並べて冷蔵庫に入れ、手作りっぽいものは先に消費するように気を付けて、女の子達のご厚意をいただく事にした。
塾や図書館にも毎日チョコを持参した。
王子にもお裾分けを勧めたが、王子は王子で沢山貰っているらしく「いや、もう……」といって、気持ち悪そうに表情を曇らせていた。
「モテるね」
というと、
「ほとんど、友チョコだよ」
と、苦笑していた。
「友チョコ?バレンタインチョコって、友達にもあげたりするの?あ!ごめん。いつも弟が貰ったチョコを消費する行事だって認識しか無かったから―――私『友チョコ』とか用意して無かった……!」
私が謝ると王子は首を振って、暗い顔で笑った。
やっぱりチョコの話題を出すだけでも辛いくらい食べているに違いない。
モテるのも大変なんだな、と私は王子に同情した。
副題『可哀想な王子様』
晶には自分がバレンタインデーに男子にチョコを上げると言う発想がありません。
この日は晶にとって、清美が貰ったチョコを食べたりお返しを用意する日で、自分は完全に裏方だと言う認識です。そして清美も晶からチョコを貰った事はありません。




