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「こんな日に限って遅刻なんて……最悪」
暖かい日差しが降り注ぐある朝。水木由莉は満開の桜に目もくれず、女子寮から特殊薬物部隊へと走っていた。
額には大粒の汗がとどめなく流れ、すでに息は荒い。カバンについた鈴は由莉を追いたてるかのように、チリンチリンとリズムよく鳴っている。
エレベーターに飛び乗り腕時計を確認しているうちに、フロアにエレベーターの到着音が響いた。
「おはようございます」
重い扉をゆっくりと開けると、長身の男性がマグカップを右手に、左手には分厚い書類を持ちながら振り返った。
「ああ、おはよう。君が今日来る予定の新人の水木ちゃんかな? 俺は小川。副主任だよ」
手に持っていた書類を机に置きながら、制服に付けられたバッチを由莉に見せた。初めて見る副主任バッジに感激しつつも優しそうな人で良かったとほっと胸を撫でおろしていると、
「おおやっと来たか。警察学校の教官やってる俺の同期が生意気な奴がいるって言ってたから期待してるな」
SDT東京本部を指揮する武田が由莉の肩を強く叩いた。その隣で険しい顔をしているのは主任の高野だ。
「よろしく、必殺遅刻人さん」
嫌味口調の高野に一瞬由莉の顔がゆがんだが、何事もなかったかのように互いに堅い握手を交わした。
しばらくすると、それぞれの現場から戻ってきた一課のメンバー、十人全員が部屋に集まってきて、一同が椅子に座り落ち着いたところで武田が口を開いた。