小学5年生
夏休みは毎年8月11日までに宿題をすべて終わらせなければならない。
だって12日からは家族でおばあちゃん家に行くことが決まっているから。
おばあちゃん家の近くには牛舎や入江があったり、叔父さんの硝子工房があったり、電車が2両編成で走ってたり、まるで別世界で面白いからとっても好き。
小学5年生の夏休みも11日までに宿題を終わらせて、夜には車に乗り込んで、翌朝には『別世界』に着いていた。
おばあちゃん家に来ても大人たちは毎日何かと忙しそうにしていて、従兄の『お兄ちゃん』といつも近所を探索している。
今年もまずはお兄ちゃんと一緒に、歩いて5分程で着く小さな入江で遊ぼうと誘う。
「海に入ってはいけないよ、人魚様に連れてかれちまうからね」というおばあちゃんの言いつけをきっちり守り、お兄ちゃんの大きな手を掴んで海まで行く。
海までの一本道はところどころでカニが潰れていて、見慣れたそれに恐怖や可哀想とは思わず海が近いことに胸が高鳴る。
砂浜の入り口手前の道路脇にある自動販売機の前で足を止めたお兄ちゃんは「お茶を買うから先に砂浜で遊んでいていいよ」と言う。
小走りになって先に砂浜に足を踏み入れた。
1年ぶりに聴いた波の音に興奮しながら、海に吸い込まれるように歩みを進める。
使われていない船も小さな灯台もたくさんのテトラポットも何の変化もない。
今年も真っ白で大きな入道雲が海と空の隙間から出てきている。
辺りを見渡していると、沖に近いテトラポットの上に何かが乗っている。
太陽や海の反射光を遮るよう手で目元に影を作り、それをよく観察した。
キラキラ光る海のような金色の髪と砂浜みたな白い肌、同じ年くらいの子がテトラポットの上に座って海を眺めている。