表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋の花名  作者: 鳥海月
コスモスの季節
1/2

1 郵便局員の恋 

儚き桜がひらひら舞い散る季節が終わり、

夜空に大輪の花を咲かせる季節も終わった


やっと巡ってきた季節

大好きな秋桜の季節


今年こそ…

この思いを伝えたい




秋雨前線に開放されたかと思ったら今度は台風の連続…

やっと晴れたと思ったら、すぐに雨。

つい最近まで暑かったのに、一気に肌寒くなった。


今日は朝から洗濯をして出勤。

洗濯物はたまる一方。

室内干しは嫌いだから外に干したい。

でも雨だから外には干せない。

太陽の光を浴びたふわふわの洗濯物が恋しくなる。


仕事に行っても雨の日はどうも憂鬱。

お客様は少ないから少し息抜きもできていいんだけど、やっぱり嫌。


だって、あなたも来ない…





「浜村くん、高梨さん!」


一日の営業が終わり、書類を作っていた私の後ろから上司の声がした。



「はい!」


私、高梨伊織はすかさず返事をする。

書類をそのままに上司のデスクに近づく。

上司の倉山は渋い顔で手元の書類を見ている。


折角綺麗な顔なのにもったいない。

目が疲れたのかメガネを取ると大きく伸びをし、こちらを見た。



「あれ?浜村くんは?」


「浜村さんはさっき休憩室に行かれましたよ。」



私の返答に倉山さんは続けた。



「じゃあ後でいいや。高梨さんにお願いがあるんだけど…」


「はい」


「明日のことなんだけど、午前中俺が会議で、午後は浜村くんに外回りをしてもらおうと思うんだ。だから窓口は主に高梨さんになるんだけど、いいかな?勿論午後は俺も入るけど。局長とも話して、多分雨も続くしお客さんもそんなに多くないと思うから大丈夫だろうと判断したんだけど。」


「大丈夫です。助けて欲しいとき呼びますから。会議早く終われるように頑張って下さいね。」


「高梨さんに行って欲しいよ。リーダーは高梨さんに弱いからなぁ。」


「そんなお偉いさん達の会議には行きたくありませんよ…」



2人で笑っていると浜村さんが事務室に入って来た。



「どうしたんすか?楽しそうじゃないですか!」


浜村さんは目を輝かせながら会話に入ってくる。



「明日のことだよ。浜村くんは別件もあるし今からみっちり説明しようかね!高梨さん、書類終わったらあがってね!」


「おつかれ!」



倉山さんと浜村さんはそう言って打ち合わせを始めた。

私もデスクに戻って黙々と仕事をする。



30分程度で終わり、書類整理とゴミ捨てと軽い掃除をする。

終わったことを2人に告げ更衣室に向かう。



携帯をチェックすると、友人からのメールと母親からの着信。



19時。



着替えて裏口から外に出ると、丁度局長が帰ってきた所だった。


「お疲れ様です!今日は会議から直帰じゃなかったんですか?」


「ちょっと忘れ物をね。高梨さん気をつけて帰ってね、お疲れさん。」


「お先に失礼します!お疲れ様です!」


そう言って会釈をしてから、私は地下鉄に向かう。

雨は止んでいた。




地下鉄から徒歩3分の所にある郵便局、それが私の職場。

局長、先輩の倉山さんと浜村さん、非常勤の大崎さんと一番下っぱ社員の私の5人で営業している小さな郵便局。

働いて4年。

色々大変なこともあるけど、優しい人たちに囲まれて毎日頑張って働いている。




「高梨さん?」


地下鉄の階段を降りていたら後ろから声がした。



「石田さん!」


一気に体温が上昇する。

石田さん。

石田創樹さん。

私が3年前からずっとずーっと憧れてる人。



「今、お帰りですか?」


石田さんが隣に並んで話しかけてくれた。

私は石田さんを見上げ、ドキドキしながらその声を聞く。

石田さんは背が高い。166センチの私が見上げるほど。



「はい!石田さんもですか?今日は地下鉄ですか?」


石田さんは郵便局の近くの会社にお勤めの方。

私より5歳年上のお兄さん。

週に一回、金曜日に天気が良かったら窓口に来る人。


確か前に窓口で話したとき、車通勤だから滅多に電車は使わないって聞いた。



「そうなんです。昨日友人と飲みに行って、そのまま車を置いて帰ったんです。ので、今からそいつの家まで取りにいきます。」


はにかみながら柔らかく話す石田さん。

この雰囲気が好きなんだけど、友人という言葉にドキッとした。


彼女かな??


そう思ってしまう。



「地下鉄で会うなんて今までなかったので、びっくりしました。」


色々考えながらもやっぱり会えたのは嬉しくて、ついつい早口になってしまう。



「高梨さんは上り方面ですか?」


改札を通りながら聞かれる。



「はい。石田さんは?」


「僕も上りです。途中までご一緒してよろしいですか?」


「よろしくお願いします!」


きっと顔が真っ赤だ。

自分でもわかるくらいだから。

心臓の音が大きすぎて…

石田さんにも聞こえてしまいそう。




ホームにむかい、そのまま同じ電車に乗り3駅。

その間は本当に楽しくて、あっという間だった。

石田さんの情報もちょっとわかった。


窓口で住んでいる地域の話をしたことがあったけど、今日新たに一人暮らしということが判明。

石田さんは私の家のちょっと先で一人暮らし中。


偶然にも私が降りて電車を乗り換える駅と石田さんのご友人のお家がある駅は一緒で、一緒に地下鉄の改札を抜ける。



「高梨さん、乗り換え電車まだ時間ありますね…」


石田さんが電光掲示板を見ながら呟く。



「そうなんです。まぁ、慣れてますので。石田さん気になさらずに行ってください。私ホームで待ちますから。」


私がそう言うと、石田さんがこちらをむく。

目が合ってドキドキする。

すると石田さんが少し控えめに言った。


「…もし宜しければ近くまで送りましょうか?」



!!!



「いやっ、あのっ…」


嬉し過ぎて言葉にならなず、どうしようか迷っていると石田さんの優しい声がした。



「僕も同じ方面なんで、高梨さんさえ良ければです。あ、そういうの気にする方がいらっしゃいますかね?」


「いえ!全っ然!むしろ気にしないんですけど。じゃなくて、気にする人とかそんな人いないんですけど。そんな車に乗せてもらうとか、彼女さんに悪いかなって。全然普通に帰れますし、遠回りになりませんかね?ご迷惑になりませんかね?もう何言ってるのかわかりませんね。」


言ってる途中からわけがわからなくなってしまった。

意味わかんない女って思われてそうでちょっと凹む。




「はははっ!高梨さん、落ち着いて。」




石田さんが笑った。

いつものはにかむような笑いじゃなくて、声出して笑った。

びっくりして思考がストップする。

笑わせたのは私ですけど…。



「すみません。」


「いや、謝らないでください。高梨さんはいつも元気ですね。全然迷惑じゃないですし、今は彼女もいませんし、帰り道の途中なので遠回りではないですよ。こんな機会もないですし、高梨さんが良ければ是非送らせて下さい。少し今から歩きますが。」


石田さんが柔らかく話す。

何か幸せすぎて泣きそう。

彼女いないし、車に乗せてもらえるし。

でもいきなりだし、本当に悪い気がしてくる。


「本当にいいんですか?何だかすごく申し訳ないんですけど…」


「大丈夫です。では、行きましょう。5分もかかりませんから。ちょっと先に連絡しときますね。失礼します。」


そう言って石田さんは携帯で電話しながら歩き出す。

私もその後をついて行く。



急な展開に頭がついていかない。

舞い上がっているからかもしれない。


かなり急接近になってしまった。

しかも彼女がいないこともわかってしまった。

けど、告白なんて到底できっこない。



こんなことになるならもうちょっと可愛い服を着ていれば良かった。

仕事終わってきちんと化粧直しておけば良かった。

石田さんと並んで歩く自分の姿が気になってくる。



「高梨さん、すみません。」


「はいっ!」


一人で色々考えすぎて、呼ばれただけでびっくりしてしまう。

さっきから印象が悪くなってる気がしてならない。



「友人がまだ戻ってないので、このまま車を取ってすぐ帰ります。なので、そんなに硬くならないでください。気を遣わせてしまって申し訳ないです。」


「とんでもない!こちらこそお気遣いいただいて、ありがとうございます。」



2人で道を歩く。

なんだかデートみたいでドキドキしてきた。


石田さんはゆっくり歩いてくれる。

ふと隣を見上げると石田さんと目が合う。



「もうすぐ着きますので。気を遣わせてしまってすみません。」



ドキドキとかなり大きく鳴る心臓の音。

ばっちり合った目。

石田さんの声。


緊張と嬉しさで声が震える。



「と、とんでもない!」




〜♪〜♪♪〜♪〜




タイミングよく石田さんの携帯が鳴る。

石田さんが話し出す。



「あ、帰ってきてんの?

悪い、今日は無理。ちょっと送る人がいるから。

いや、違う!

もういいって、今向かってるから勝手に持っていく。

じゃあな。」



石田さんのフランクなしゃべり方が新鮮。

いつも郵便局では敬語だから。

でも、いよいよ私が邪魔してる気がする。


「すみません、高梨さん。友人が戻ったみたいで。」


「むしろすみません、私が邪魔しちゃいましたかね?」


「いえいえ。流石に2日連続はちょっと。私も今日は車で帰りたいです。雨の朝の電車は久々でしたが、なかなかきついですね。」



石田さんは苦笑いで答える。

でも、お邪魔な気がしてたまらない。

やっぱり今日はこのまま失礼しようかと思う。



「石田さん、あの、」

「創樹!」



私が話しかけた瞬間、前方から同時に声がした。

私も石田さんも声がした方を見る。


そこにはスーツ姿の男の人がいた。

とってもオシャレで、石田さんと同じくらい背が高い。

でも大きく手を振っている姿は可愛い。



「すみません、あの車の隣にいるのが友人なんです。土谷です。結局気を遣わせますね。早めに切り上げます、本当にすみません。」


石田さんが謝ってくる。


むしろ私が邪魔してる気がするのに。

でも今ココで駅に戻ったりしたら、ご友人の土谷さんに失礼な気がするし…

申し訳なさすぎる。


「いえ、こっちこそ本当にすみません。」


もう、謝るしかできない。




「創樹!これ、あずさが創樹にって。蓮根。」


土谷さんは話しながら車の方からぐんぐん近づいてくる。

あずさ…??

女の人の名前だよね。

浮かれきってた頭がやけに冷静になる、そんな気がした。



「お、サンキュー。」


石田さんは笑いながらビニール袋を受け取る。

そして車の方に歩き出す。

私は石田さんの後ろを少し離れてついていく。

石田さんにビニールを渡した瞬間、土谷さんの視線が私の方に流れ、目が合う。



「はじめまして。土谷です、土谷要です。突然ごめんね。彼女ちゃん職場の人?」


「いえ、あのっ」


突然でフリーズしちゃう。

冷静になったと思ったのは、やはり気のせいかもしれない。

でもちゃんと足だけは動かす。

彼女じゃないし、同じ職場の者でもないです!

いいたいことはあるのに言葉にならない…



そのとき隣から石田さんがサラッと言ってくれた。


「要。彼女はうちがお世話になってる郵便局の人だよ。高梨さんっていうんだ。ほら、彼女に気を遣わせちゃいけないから、今日はここで失礼するよ。」


「あ、創樹が前話して…」

「か、要!」


土谷さんが何か言いかけたとき、石田さんが遮るように言った。



「わりぃ」


土谷さんは笑って答えた。



せめて自分のことくらい自分でいわなきゃ。



「あの!」



2人の視線がこっちに向く。



「私、高梨伊織と申します。こちらこそ突然すみません。」


それだけ伝えると、土谷さんがすかさず言った。


「いおりチャン?綺麗な響だねー!」


「あ、ありがとうございます。でもフツウの名前ですし、種も仕掛けもありませんし、画数多くて大変ですよ!」



「「ははっ!」」



石田さんと土谷さんが笑う。


え?何で??

状況を把握しきれず戸惑う私をみて尚更笑う土谷さん。

笑いをこらえながらスーツのポケットから何かを取り出した。



「いやー、イオリちゃんウケるね!今日時間なくて残念。緊張させてごめんね。俺と創樹とまた今度ゆっくり飯でもどう?これ、俺の名刺。」


「おい、要!」



石田さんが慌てて土谷さんをとめる。


私は意味がわからないまま、渡されるがまま名刺を受け取り、呆気にとられる。



「今度連絡するから、創樹に連絡先教えといてね。俺も彼女呼ぶから、きてね。じゃあまたね!」


「おいって、要!」



石田さんがとめるも、土谷さんは構わず帰ってしまう。


私は名刺と、土谷さんの後ろ姿と、慌てる石田さんをグルグルと見ていた。




「高梨さん、本当にすみません!」


いきなり石田さんが謝る。



「いえ、全然大丈夫です!びっくりしましたけど、楽しかったです。」


これはホントの気持ち。

新たな石田さんを見れたし、石田さんのお友達さんとも知り合えた。


ただ慌ただしい展開に色々整理がついてないし、気持ちが落ち着かない。

いきなりのお友達さんの登場に焦ったし、全然喋れなかった。

キャパシティの小ささに凹んできた。

そもそも今日はメイクも服装もイマイチだし。


まさに、後悔先に立たずだ。



「本当気遣わせてばかりで…とりあえず、車にどうぞ。送ります。」


石田さんは車のロックを解除しながら歩き出す。

その石田さんに言われて気づく。

むしろ、謝らせてばかり。


「あの!全然迷惑じゃないですし、気も遣ってませんし、むしろ石田さんに気を遣わせてしまってこちらこそ申し訳ないです。それに謝ってばかりでホントにすみません。だから石田さんは謝らないでください!」



石田さんは目を大きく開いて、そのあと控えめの笑顔になった。


「ありがとうございます。そう言っていただいてホント感謝してます。高梨さん、助手席の方にどうぞ。」



私は何も考えず石田さんの後ろを歩いていたため、運転席の後ろにいた。

本当に余裕がなさすぎる。



「あっ!すみません!」



ダメっぷり全開で涙がでてくる。

こんなはずじゃないのに。

今日は良いことも悪いことも極端すぎる。

助手席側に移動し、もう一度謝りドアに手をかけた。



車に乗り込むとまた緊張が走る。

車の中は石田さんっぽい、ほんのり爽やかな香りがした。


運転も丁寧で、乗ってて心地よい。

私の危なっかしい運転とは大違い…



「高梨さん、要の言ってたことは気にしないで下さいね。」


石田さんが話しかけてくれる。



「土谷さんですか?」


「連絡先とか、名刺とか。」


「あ…」



そっか…

冷静に考えるとドキドキしてきた。


さっきは流されるままで全然考えてなかったけど、これって、連絡先を聞くチャンスになるんだ!

でもどうしよう?


ひとりうだうだ考えていると、ちょうど車が信号で停まった。

それと同時に石田さんの笑い声が聞こえてきた。

運転席の石田さんを見ると、爽やかな笑顔がすぐ隣にあって、更にドキドキしてきた。



「しかし、高梨さんがあんなに天然だとは思いませんでしたよ。」


「え!?私ですか?」



まさかの発言に思わず声が裏返る。

石田さんは更に笑い、こちらを向くと目が合った。



「いつも窓口ではしっかりしていらっしゃるので、意外でした。私はいいと思いますけど。」



そんな風に見られてるなんて恥ずかしい。

さっきはあんな失態だらけで凹んでたのに、褒められたのかなって浮かれてしまう。


信号が青にかわり車が動き出す。



「そうですかね。そんな風に見られてるなんて恥ずかしいです。窓口でもバタバタ一人焦ってるんですよ。」


「明日、ちょうど郵便局に伺う日なので楽しみにしておきますね。高梨さんの仕事っぷり。」



石田さんは少し意地悪な顔で笑っている。




「そんなプレッシャーかけないでください!明日、金曜日ですもんね。雨なのに来られんですか?いつも雨の日は香月さんが来られません?」



チラッと隣を見ると、私の言葉に石田さんが目を大きく開く。



「高梨さん、お見事ですね。まさに雨の日は香月がいくんですけど、明日は香月が出張なので私が行きます。営業の合間にですけどね。」


「営業も大変ですよね…私も窓口で頑張ってるんですけど、なかなか。」


「高梨さんはいつも頑張っていらっしゃいますよね。この間入り口の前でおばあさん2人が高梨さんはうちの孫みたいに可愛いって褒めてましたよ!」



石田さんに褒められまくって浮かれてしまう。



「石田さん、褒めすぎです!恥ずかしいじゃないですか、騙されてますよ。」



石田さんはツボにはまったのか、しばらく声に出して笑っていた。



うちの近くの見慣れた景色が見えてきた。

信号が赤になり、車がとまる。

車で、好きな人の隣に乗って話しているとあっという間。



「石田さん、あの次の交差点すぎたあたりで大丈夫です。車も寄せやすいですし、ここからは歩けますので。」


「いえ、きちんと送らせてください!真っ暗なんですから。」


「でも、ホントに悪いんで。」


「じゃあ、高梨さんの番号教えてください。」



石田さんの思いがけない発言に言葉がつまる。

私の聞き間違いかと思って石田さんを見ると真剣な顔で見つめられる。

心臓がまたドキドキしてきた。



「え?私の?携帯ですか?」



「はい、私は別に好きで送ってるんで損とか思ってないですけど、高梨さんが自分ばかりって思うなら、私に教えてください。Give&Takeでしょう?」


そう言って石田さんは、私に携帯を差し出す。

タイミングよく車が動きだす。



「それに入れてください。因みに、あの交差点からどういきましょうか?」




携帯を受け取り、道を説明する。

いざ入れるとなると緊張する。

でもトントン拍子にコトが進んでいって嬉しいことに変わりはない。


そんなこんなで、あっという間に家の前まで着く。



「あ、ここで大丈夫です。番号とアドレスいれてます。ホントに色々ありがとうございました!」



お辞儀をして車から降りる。

助手席のドアを閉めると石田さんが窓を開ける。



「私の方こそすみませんでした。無理矢理お連れしてしまって。番号もありがとうございます…」



そこまで言ってから石田さんが止まった。

また私が何かしたのかと少し不安になる。



「石田さん??」


「いや、失礼。ここからどう帰ろうか考えてまして。では、また明日。もう冷えてますので中にお入りください。今日はありがとうございました。」


「石田さんこそお気をつけて。どうもありがとうございました。また明日。お疲れ様です。」



そういうと石田さんは柔らかい笑顔で出発した。

会釈をして角を曲がるまで見送り、私もマンションの中に入る。


エレベーターで5階まで上る。

その間に今日のことを反芻する。

思い出すだけで心臓はバクバクだし、顔があつくなる。

部屋に入り靴を脱ぐと一気に気が抜けて、その場に座り込んでしまった。



本当にやばい!やばすぎる!

幸せで死ぬかもしれない!

たくさん話して、並んで歩いて、助手席乗せてもらって、お友達さんにご挨拶をした。

嫌いな人にはしないだろうから、嫌われてはいないと思う。

ただ、ずっと引っかかっていることがある。

あずささんだっけ…

彼女候補なのかな?ってどうしても気になってしまう。


でも明日も石田さんは郵便局にきてくれるから。

明日に備えよう。

今日はせっかく幸せなことがあったんだから、くよくよせずに過ごしたい。


お風呂にお気に入りの入浴剤いれよう。

ごはんもちょっと贅沢しちゃおう。

まずはお風呂掃除だ!

そう言い聞かせ、立ち上がり荷物をおき、着替えてから浴室に向かう。

掃除を済ませ、ご飯の支度をし、食べてからお風呂に入る。

合間に友人や母にメールを返す。

でも石田さんからはこない。

付き合ってもないから当たり前なんだけど。



お風呂から上がるとメールが1件届いていた。

見知らぬアドレスだった。

件名には石田さんの名前があって、画面にくらいつく。

ドキドキしながら本文を読む。


-----------

(石田です。)

-----------


今日はありがとうございました。

お疲れの中連れ回してすみませんでした。

また明日よろしくお願いします。


番号もよろしくお願いします。


-----------



心臓がヤバイくらいドキドキする。

顔もニヤニヤが止まらない。

ベッドに横になり、何度もこのメールを読み返す。

失礼ないよう手短な返信をする。



今日あったことを思い出しながらごろごろする。

石田さんの笑顔を思い出すとドキドキする。

マクラに顔をうずめ、きゃーと叫ぶ。

明日も会えるからとっても嬉しい。

明日はちゃんとメイクしていこう。



ごろごろしている内にいつの間にか眠っていたらしい。

目を開けた瞬間、煌々と光る蛍光灯が視界をいっぱいにした。

飛び起き時間を確認する。



3時。


カーテン越しの窓も暗いし、安堵する。

危ない。

浮かれすぎの自分に苦笑してしまう。

目覚まし時計をセットしてきちんとベッドにはいる。

さぁ、明日も頑張るぞ。

そう思い、もう一度眠りについた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ