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視察はカーン帝国のこともあり、内密に行われることとなった。
案内役はトーマスである。
「まずはスラム街から案内します」
その言葉にゴドフリーがぎょっとした。
「帝都主観で見れば、主要地点以外全てスラム街だと思ってください」
それだけ伝えればいいのだ。
「トーマスさん、また人手足りなくなりましたか?」
すぐに一人の男が声をかけてきた。このあたりを仕切る、ヴィクという男だ。
「いや、数日は内容把握に時間を取るから、しばらくは休み。母親の具合はどうだい?」
「お陰様で。先日の実験報酬でいい薬を買うことが出来ました」
「そうか。お父上は?」
「相変わらずです。……帰って来れませんからね」
「手紙も無理か。……そうそう、出来ることならこの人たちを案内して欲しい。報酬ははずむよ」
「いいんですか!?」
「ただし、君の行きたい場所に案内してくれればいい」
「了解です」
ヴィクがにやりと笑った。この男は大の皇族嫌いである。それ故、あえてゴドフリーたちの案内役を頼んだのだ。
これしきのことでくじけるような男は、この領地には要らない。それがトーマスの考えだった。
「アーベル将軍が護衛するくらいの方、ですか」
「いや、小生もこちらに赴任することになった。ここへは志願してきたつもりだが」
「そうですか。で、トーマスさんはどうするんですか?」
「私? 私は実験報告書を書くからね。後はヴィクに頼んだ」
「分かりやした」
その言葉を聞き、トーマスはゴドフリーに向き直った。
「そういうわけですので、あとはこのヴィクに聞いてください、殿下」
この言葉はヴィクにとっても地雷であろう。それを知っていてあえて口に出した。
誰にも見られない角度で、トーマスはほくそ笑んだ。