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0章よりもさらに過去に飛びます。
説明文的なものが多いかと思われます。
世界情勢がピリピリとしている昨今、神聖シャン・グリロ帝国と軍事帝国カーンの間で、人とモノの行き来は少なくなってきた。
二カ国で何かしようとする場合、大抵エルド・ラド国、もしくはゼン国が仲立ちに入ることが多くなった。
ただ、ゼンの国は二つの国からかなり離れているため、そこまで話に入ってこない。そして、エルド・ラド国も「中立」を貫いているためそこまで干渉してこないのだ。
つまり、どちらかが攻撃に出てしまえば、すぐさま戦争になるということである。
実際、十数年前に小さな二国間で小さな戦争が勃発。ゼンの国が何とか重い腰をあげて仲裁に入り、一年半ほどで戦争は終結した。
その時に、シャン・グリロ帝国はカーン帝国に隣接する大地と大きな島、それに付随する数箇所の小島を「賠償」としてしとめたのだ。
カーン帝国側からしてみれば、喉元にナイフを突きつけられているに等しい。
だからなのかもしれないが、その領地はシャン・グリロ帝国皇帝の直轄地となり、カーン帝国も工作員を派遣して破壊活動に勤しんでいた。
「皆の者よ、このままではまずいな」
シャン・グリロ帝国皇帝の執務室で皇帝とその側近たちが対処法を講じていた。
「いっそのこと直轄地ではなく、誰かに恩賞として与えては如何でしょう?」
この国の宰相が言った。
「恩賞として与えるにしても、危険度は増します」
「ヴェルツレン公爵、それはあまりにも……」
「では、その与えられたものがカーン帝国側に寝返ったらどうしますか? 我々の科学力ごとあちらに持っていかれるに等しいのですよ」
エメラルドの瞳を細め、ヴェルツレン公爵は宰相へ向かって言葉を投げた。
現在、主要要塞として、その土地は軍事基地が多すぎるのだ。そしてそこにヴェルツレン公爵家の次男であるトーマスが、責任者として赴任しているのだ。
「私もヴェルツレン公爵様の意見に賛成でございます。ただ、恩賞としてではなく、皇族のどなたかが治めるのも悪くはないかと」
同じくエメラルドの瞳を持つ、アットウェル伯爵が意見を述べた。
「ふむ、その方が下手な恩賞よりはよいかも知れぬな。如何かな? ヴェルツレン公爵よ」
この国の軍を担う男、アーベル将軍がアットウェル伯爵の意見にすぐさま賛成した。
「最終決定権は陛下です。私としては、どなたを赴任させるべきか分からない」
「朕の第五皇子、ゴドフリーでは駄目なのか?」
その言葉にその案を述べたはずのアットウェル伯爵も、賛成したアーベル将軍も言葉を失っていた。
軍の人間にも、民衆にも高い支持を集めるゴドフリー皇子。ヴェルツレン公爵家の遠縁から輿入れした側妃が産んだ皇子でもある。
そして、その高い支持を集めるがゆえ、皇帝はその子供を疎んじていた。
「確かに、ゴドフリー殿下であれば問題はないかと思われます。何せ、陛下のお子でありますからなぁ」
宰相があからさまに賛成してきた。
おそらくは、与えられたシナリオだったのかもしれない。厄介者を排除するためだけに考えられたシナリオ。そうであれば納得がいく。
宰相は「恩賞」という形で誰かを配置。もし、それにここいる全員が賛成すればおそらく赴任するのはヴェルツレン家の誰かであっただろう。そして、反対した場合、皇子に赴任させるというシナリオだ。それにまんまとアットウェル伯爵とアーベル将軍が乗せられたのだ。
そこまで疎んじるのか。そう思ったのはアーベル将軍だけではなかったはずだ。
だが、すぐさま「妙案」として採決され、ゴドフリー皇子の赴任が決定した。
このとき、ゴドフリーは十八になったばかりだった。