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終わりの終わり

     終わりの終わり


 3月10日、俺はたぶん普通に藤間中学校生活最後である今日を過ごすつもりだったはずだ。

 そして、俺は4月から藤間高校に通うはずだったろう。それから、3年を過ごし会社に勤め、結婚し、子供ができ、退職をして、年金生活を送りながら死ぬというはずだろう。俺はそんな未来予想を勝手にしていた。

 だが、予想は大きく外れた。

 人生は何が起こるかわからないというのは本当らしい。現に俺は理解ができていないことが起きているのだ。

 誰がこのことを予想できていたのか?俺が校舎の裏で雨に打たれながら頭から血を流して倒れていることを。

 そして、誰が予想できていたのか?この事件から数十日後、思ってもみなかったことが目を覚ました俺の身に起こっていることが。


 まさか、自分が見知らぬ他人になっているということが……


         1


「え~、生徒の皆さんの中には今日で藤間中学を卒業し、藤間高校に通う人もいるでしょう。え~しかしわずかですが……」

 3月10日、俺たち約200人の中学3年生は藤間高校を卒業する。しかし、この藤間学校は小中高とエスカレーター校なので、『卒業』という言葉には実感が湧かない。

 そんな、藤間も普通の高校であるわけで小学、中学の間に転校してきたり逆に転校する奴だっている。俺はそんなことは一切ないので、4月からは藤間高校1年生となる。

 すごくつまらない卒業式が終わったあとは先生からのどうでもいいお言葉がある。俺は体育館から教室へと続く廊下を歩く。

「はぁ~。だるい。」

 腕をいっぱいに伸ばす。そうすると、後ろから肩を叩かれる。

「彰(しょう)、おつかれ。」

 俺の背中をつついたのは中島 華(なかしま はな)幼稚園からの腐れ縁だ。こいつとは、こんな感じの関係がたぶん、大学生になってもこの関係が続きそうな気がする。あと、こいつの茶髪で頭の上に乗っているお団子ヘアースタイルも。

「おつかれ、華(はな)。つか、俺ら何にもしてないよな。強いて言えば、あーちががんばったぐらいのもんだろう?」

「あぁ~、確かに千佳(ちか)ちゃんは生徒代表挨拶で噛まずに言ってたもんね~。」

 俺らが話している人物は天谷 千佳(あまや ちか)うちのクラスにいる生徒会長である。俺はいつも天谷の『あ』と千佳の『ち』であ~ちと呼んでいる。クールであるが、乙女ちっくだったり、冗談が通じなかったり、まぁ、兎にも角にもめんどくさい人である。黒髪ポニテが特徴である。

「まぁ、とりあえず、高校生になってもよろしくね。彰。」

「おう、よろしく。」

「おやおや、お熱いですな。岡崎(おかざき)よ。」

「私の未来の旦那にくっつかないでよ。中島(なかじま)さん。」

 軽くハイタッチを済ませた俺たちの後ろにうるさ……いや、ガヤの平田 勇一(ひらた ゆういち)と塚村 広(つかむら ひろ)がいた。平田はただの友達で小学校からの付き合いの男だが、塚村は警視総監の娘であり、それでいて学年での美人ランキングのトップに君臨するほどの美貌。そして、きれいなセミショート。他にも塚村が好きだと言う奴は沢山いるのになぜか俺の事が好きらしい。未来の旦那というのも塚村が勝手に言っていることである。 俺はそれにうんざりしているのだ。

「さぁ、キスしろ。キス!」

「ちょ、ダーリン。しないわよね?キスは私とですものね?!」

「あ~っも、うるさいうるさい。するわけないだろうが!!」

「そ、そうだよ。す、するわけないじゃんか!!」

 俺たちは強く否定し、手を横に振る。

「ちぇ、しねーのか。」

「ふぅ、よかったです。中島さん?くれぐれもダーリンとキスなどしないように。しようものなら私があなたをたい……」

「し、しないしない!絶対しない!!」

 華は顔を真っ赤にして強く否定している。

「てか、なんでお前らまでいるんだよ。」

「まぁ、別れのあいさつだ。」

「私もダーリンにお別れのキ……」

「そうか、なるほど。」

 俺は塚村の言葉の続きが聞きたくないので早口で言う

「じゃあ、今度は高校で。」

「またね。」

「じゃあな。」

「コホン。では、ごきげんよう」

 ふたりと別れたあと、俺たちは顔を見合わせて教室に帰った。


         2


 俺たちはふたり並んで教室へと向かう。

「あぁ~、余計に疲れた。」

 俺がそんなことをグチると華が笑いながら

「ホントはそうでもなかったりして。」

と、言ってきた。いやいや、つかれますって奥さん。だって、あのふたりですもの。今は違うクラスだからいいものの、あれが同じクラスだったらもう……

 俺が想像して身を振るわせているのを見て、

「ほら、想像して笑ってるじゃんか。」

 誰が笑うか!!!


 そんなこんなで教室につき中に入ろうとすると、

「遅い!どこで油を売っていたの!?」

「いや、もう3月なんで売れないんじゃないの?あーち?」

「誰も灯油の話はしてない!!」

 周りで聞いていたクラスメートは、クスクスと笑う。

 それがいやなのかあーちは顔を真っ赤にしてそっぽをむいた。俺はそんなあーちをほったらかして席に着く。すると、ひとり俺のそばによってきた。

「彰くんは、こんな日でも相変わらずなんだね。」

「こういうのが俺っぽいだろ?」

「あはは、そうだね。」

 そう話すこいつは笠原 彩芽(かさはら あやめ)だ。彩芽とは小学2年で同じクラスになり、保健係で一緒に仕事をして以来こうやって話をしている。こんがりと焼けた肌とショートヘアが特徴の的な体育会系女子である。彩芽は華やあーち、勇一に広とも仲がいい。

 そして、こいつは今日でこの学校を去り、違う高校に通うことになっている。初め、こいつはこのことを言わずに俺たちの前から消えるはずだったのだが、違和感を感じた華が彩芽に「何かあったの?」と聞いてみたそうだ。それから、俺たちにもその話は聞かされた。その話をするときは彩芽はすごく泣いていたが、遠くに行ってしまうわけではないので「今まで通り変わらない」と言う俺らの声を聞いて安心している。

「おまえ、向こうでも元気でな。」

「……うん、ありがとう。本当に、ありが、とう。……わた、しも、この学校、に居たかっ、たんだけど、」

 泣きながら話す彩芽の頭を俺はなでながら言い聞かせた。

「大丈夫だ。高校が違っても俺らの友情は変わらんし、今もこれからも変わらん。」

「……うん。」

「また、夏になったらみんなでプールや花火大会に行こう。」

「……うん。あり、がとう。」

「いいね、海。絶対に行こうね。」

 振り返るといつからいたのかわからないが、目が少し潤んでいる華がいた。

「かき氷は嫌いなんだが……」

 俺はすぐさまに答える。

「え~?どこが嫌いなの?」

「かき氷なんてただの水に甘い汁をかけただけだろ。」

「うわ……」

「それ言ったら終わりなんじゃないのかな?」

 俺たちはこんな他愛のない会話あと、20分ぐらいするのであった。


         3


 それからは担任が涙ながらに別れの挨拶をする。クラスの何人かは泣いていたが俺は別に対して泣きはしない。だって、よくよく考えて見れば小中高と一貫しているので別に永遠に会えないわけではないのだ。まぁ、彩芽を除いては。

 先生の話が終わるとあとは解散なのだが、俺、華、彩芽、あーち、広と勇一は俺たちのクラスに集まった。集まった理由と言えば、

「ねぇ、彩芽の一旦さよなら会はどこにするの?」

 一旦さよなら会とは、彩芽が別の高校に行くのでなかなか会えないけど、また近々会おうね会のことである。この計画を持ち出したのは俺と華であるが、こんな変な名前にしたのはあーちである。

「まぁ、始めは予約したカラオケに行く。で次に、ショッピングモールに行って買い物なりゲーセンに行ったり。晩飯の場所はバイキングのお店を予約してある。これでいいか?」

「お、めずらしいな。お前、そんなに張り切るときってあったっけ?」

 俺は勇一のその言葉にムッとする。別に俺は絶対に張り切ることがないというわけではない。ただ、そのときをこいつが見てないのだ。現に、

「そんなことないよ?彰くんががんばっているところを見たことあるよ。」

「そうです。私のダーリンはいつも努力を惜しまない人です。」

と反論してくれている。……けど、広が言っているような人では俺は決してない。


 ふと、時計を見ると11時半が来ていた。

「悪い、俺は用があるからさき帰る。集合場所はカラオケに2時な。昼は各自で食うこと。いいな?」

 俺が早口で言うと「りょ~かい。」「うん。」「わかったわ。」「はい。ダーリン。」「遅れんなよ。」と返事が返ってきた。

 俺はその言葉を聞くと、急いでくつ箱に向かう。もうすぐにでも降りそうな雨を気にしながら。




      

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