4/9
第4話 「銀の冒険者」
門をくぐった男は、すぐに困り果てた。ダンジョンに潜るには冒険者登録がいる、と道行く者の会話から知れたものの、肝心の自分が、声を出せないのだ。受付の前で口を開いても、漏れるのは無音ばかり。係員は怪訝な顔で眉をひそめた。
そのとき、横から張りのある声が割って入った。「ちょっと、あんた大丈夫?」。振り返れば、剣を背負った若い女戦士が腕を組んで立っている。男はとっさに手を振り、目の前に半透明の窓を呼び出した。そこへ文字が浮かぶ。「声が出せない。冒険者登録がしたい」。
女――フィーナは目を丸くし、それから興味深そうに窓を覗き込んだ。「へえ、魔法で喋るわけ。変わった人ね」。彼女は慣れた様子で係員に話を通し、登録の書類を代わりに埋めてくれる。
差し出された冒険者証を、男は鋼の指で受け取った。銀色のプレートが、窓の光を鈍く照り返す。フィーナはふと、彼の足元に目をやって尋ねた。「で、あんたどこへ行くつもり?」。




