第9話 初日の夜
ヴィクトール学園の寄宿する学生寮は三ヶ所、存在する。第一寮は一年生、第二寮は二年生、第三寮は三年生と各学年ごとに分けられている。
例外を除き、他の寮に入ることは禁じられている。第一寮は巨大な洋館。ライムストーンの壁面に、赤色に染められた木材が外部に露出している。建物自体はカントリーハウスの様式を取り入れている。
玄関に備え付けられている大理石で作られた台座に支給されたスマホを置く。
台座は瞬間的に感知し、両扉の玄関が開く。
あんぐりと口を開いてしまった私たち。
魔法なのか科学技術なのか定かではない。はっきり言えることは、学生寮ではないだ。
基本は質素な造りの内装。柱の至る所に監視カメラ。床を清掃しているのはロボット。
学園長曰く、学業以外の所は機械に任せてあり、自由に学生生活を謳歌するように、らしい。
スマホに表示された部屋番号を見ながら、学生寮の中を進んだ。
「ここですね」
自分たちに宛てられた部屋の前で止まる。【0808】。ここが私とアイナの共同部屋。
恐る恐るドアノブに手を伸ばすアイナ。
「アイナ、そんなに緊張しなくても......部屋には誰もいないんですから」
即、異議を唱えるアイナ。
「いや、扉を開いた瞬間に内側に設置されている爆弾が作動。私たちは爆散するわ。きっと」
「昨日一緒に見た映画の話ですよね、それ。なら、私が開けましょうか?」
「大丈夫。従者を守るのも主の使命」
私はアイナに聞こえない音量で発する。
「一体、何と戦っているんだ......私の推しは」
アイナはドアノブを捻って、中に入る。
部屋の中の光景に驚くアイナと、久しぶりの感覚とやっぱりアホゲーで安心した気持ちの私。
「何、これ......?」
例えるなら、高級ホテルのロイヤルスイートルーム。天井にはシャンデリア。テーブルや椅子はもちろん、何故かキッチンも冷蔵庫も完備している。奥には五人は入る巨大な円型のベットが置かれている。円型のベットって......さすがアホゲー。見慣れている私にとってはお腹がよじれる勢い。情緒不安定のアイナの前で、絶対に笑ってはいけない。私は自分の拳を全速力で自分のお腹を殴った。この痛みはきっと報われる日が来ると信じたい。
に、しても......
「どうかしましたか」
「何故、バロンは普通の反応なの」
こう見えて、親の顔よりも見てきた部屋だし。女性同士の逢瀬をこの部屋でずっと画面で見ていたんだから......
それにしても、案の定と言いますか、アイナは聞いていなかったか。
「............もしかして、アイナ。学園長の話、聞いていませんでしたね」
私の発言はアイナにとっては図星だった。口笛を吹き、腕を頭の後ろに移動し、片足を曲げ、もう一方の足をさすっているし、視線は絶対に私と合わせない。
「し、仕方がないじゃん!? 誰かさんのせいで話が頭に入ってこなかったんだから」
「従者のせいにするとは、主失格ですよ」
「くっ......バロン。覚えてなさい」
「楽しみです。はぁ〜 では、初めから説明しますね」
私がロリ学園長から聞いた内容をそのままアイナに教えた。
「っと言うように、私たちの部屋は完璧な施設です」
前世で暇な時にロリ学園長の真似をしていたので、アイナにはロリ学園長の口調で【0808】の部屋の設備を説明した。
話し終えた私。床で四つん遣いのアイナ。
「ま、待ってぇぇ!!!!!!!! お願い許してぇぇええええ!!!!!!」
アイナの笑いのツボが刺激されたのかゲラゲラ笑っている。
「笑いすぎですよ、アイナ」
「だって。似てるってレベルじゃないもん!!!!」
「練習しましたから」
胸を張る。近くにあった等身大の鏡を横目で見た。
(やっぱり、デカい......)
ジト目のアイナ。怨み恨みの言葉を呟いている感じがする。
「バロン。」
「はい?」
「私はまだ、成長期だからね。これからよ!!」
「は、は〜あ。頑張ってください?」
ゲーム時代のアイナはヒロイン達に胸を揉まれると次第に大きくなる設定がされている。さすがに奇乳にはならないが、卒業式のワンシーンと入学式のワンシーンを見比べると、その差は歴然は確認できる。
(まぁ、《《あのエロ博士》》の薬を乱用すれば、奇乳レベルに昇格する......)
「アイナ、お風呂行きましょうか」
「行かない」
「あの、失礼ですけど、臭い姫は嫌われますよ」
「違うわい!! 今日はもう遅いし、部屋にあるシャワールームで済ませよう!」
指差す方角に、三人くらい入れる簡易的なシャワー室がある。あれもエヴィリオン・ヴィクトール学園長が備えた設備の一つ。
シャワー浴びてから、直行でベットでヒロインと............
良い子はここまで。
「かしこまりました。では、お先にアイナからいただいてください」
顔の骨格どうなってるんだって驚き顔をしているアイナ。
「一緒に入らないの?」
「......アイナ。《《呪い》》がなければ間違えなく、変態扱いされますよ」
「なんでよ!?!?!?」
「いきなり、『一緒に入らないの?』なんてハレンチな言い放つ主に困惑してます」
「だって......」
私に抱きつくアイナ。上目遣いで私を見てきた。
「......誰もいないんだよ」
しばし静寂は流れる。
私は上を見て、涙を流す。
「アイナは最高です!!」
「そ、そう? ありがとう......」
腰にあるアイナの手を握る。
「わかりました、一緒にシャワー浴びましょうか」
下を向いて、頬を赤らめるアイナ。
「お願いします」
「それにしても、アイナ。いつから積極的になったんですか。《《呪い》》とは、関係ないんですかね???」
「ち、違うから!?!?!?」
私はアイナの手を引き、シャワー室へ進んだ。




