第5話 教室には主人公専用席がある
「緊張する」
胸を抑えて、身を縮こませるアイナ。
「大丈夫ですよ、お嬢様」
「ここは屋敷じゃないんだから......アイナと呼んでよ」
ごもっとも。原則でヴィクトール学園に従者は付き添えない。だから、私がここで『お嬢様』と呼べば、どっちかが最悪退学扱いになる。
「わ、わかりました」
「何故、苦渋の選択するしかないって顔を出しているの!?」
「......えっと、アイナ。これからよろしくお願いします」
「敬語も禁止!」
「そっちは、追い追いということで。敬称なしの名前読みで限界です」
「わかったわよ」
前を進むアイナの頬が、ほんのり赤く染まっていた気がする。
後ろを歩く私はポケットに入れている手帳を取り出した。
「えっと、今日の予定は......校長室に行くだけか」
手帳には、前世の『リーリウム・オスクルム』知識が全て記載されている。一冊だけだと思いますか?
ご心配ください、残りは日用品などと一緒に寄宿舎へ運ばれているころ。
転生先が『リーリウム・オスクルム』だと判明した瞬間から、アイナの学園生活三年間を全て手帳に書き記した。
理由はただ一つ。
「推しの幸せが私の幸せ!!!」
勢いのまま拳を上に突き出した私。入学式を終え、自分の教室に向かう新一年生が奇異な目で私を見ている。
「ちょ、ちょっと。急に大声出さないでよ」
「すみません、ア......アイナ。つい興奮してしまって」
「そんなに学校生活が楽しみなんだね。私と一緒!!」
幸せだ。推しと楽しみを共有できるなんて。
「でも、」
アイナはポケットからハンカチを取り出した。
「さすがに涙は拭いな」
「ありがとうー......ございます」
アイナのハンカチ。念の為に複数枚持たせている。これから登場する女の子と話すためにはなくてはならない必需品。
ここで私がアイナからハンカチをもらってもシナリオには影響しない。
教室は【1-E】。一クラス三十人。窓側の席、後ろから二番目がアイナの席。一番後ろが私の席となっている。
アイナの席はちゃんと原作通り。唯一違うのは、私が座っている元クラスメイトは教室にいなかったこと。
教室に入ってすぐに前後隣の女子生徒に話しかけるコマンドが表示され、会話した記憶がある。覚えている限り、特別なシナリオにはいかない。完全に背景と同化しているモブ。
だから、私が代わりに座っていても影響はないっと無理やり解決した。
思わず歓喜の息を出してしまった。
「本物だ......」
アイナがクラスメイトと談笑している後ろで教室内を観察。二人ほど制服が違う。『リーリウム・オスクルム』のシナリオに登場するメインキャラクター達は、他のモブキャラクターと見分けられるように制服が改造されている。
アイナの前に座る女性キャラは頬杖をつき、外を眺めている。
金髪ショートヘア、翠色の瞳、制服にゆったりとした白のパーカー。派手で麗しい容姿。火魔法の使い手、夏目綾。
もう一人は......やっぱり、《《消えた》》か。
現時点のアイナのステータスでは感知できない。私が感知できるのはおそらく吸血鬼の能力のおかげ。彼女と本格的に接するのは六月から。アイナには六月一日までにある魔法を覚えてもらう必要がある。
考えにふけっていると担任の先生が入ってきた。黒のパンツスーツに身を包む陣内和佳。補足として言うけど、彼女も攻略できます。
今日は入学初日という事で、ガイダンスだけで終了した。
アイナは振り向き私に話しかける。
「バロン......これから」
アイナが何かを言いそうになった時、担任の陣内和佳先生が近づく。
「ブルゲリアンさん、それからバロンさん。学園長がお呼びです」
周囲が少しざわめく。ヴィクトール学園の学園長は訳あって姿を見せない。一部の生徒と教師しか顔を知らない。
入学式ではスクリーンが登場。モニターの人物は姿をぼかし、声は編集された状態でありがたいお話をしていた。当然、新入生は唖然とドン引きした表情しか出していなかった。
そんなぶっ飛んだ学園長に会える、さすがはブルゲリアン王国の第一王女と注目の的となっていた。
それに比べて、私を見るクラスメイトは少しおかしな表情をしている。
まー、わかりますよ。アイナならともかく、銀髪赤目しか特徴のない私。得体の知れない学園長が学園生活初日で、自分たちと同じクラスメイトが会う。それだけで私はものすごい人物なのかと認知された。
「行きましょう! バロン」
「はい! お......アイナ」




