第3話 新しい“命“の構築が…
用語説明!
A•R•M ⇨アーム AR空間における様々な取り扱いを担える専門的な集団。特別なトーテミルを含めてAR世界での秩序の安定を前提として活動しているが、現実との線引きが難しく立場が弱くなる場合も多い。
和式術⇨わしきじゅつ 東エリア三番区 通称東3区を中心にその周辺エリアを管轄にもつAR企業。元はゲーム業界に強い力があったが、次元歴に変わる直前にVR・ARに特化した企業に変わり、現在では国内の大手AR企業。
──事件の数時間後。
東3区は封鎖され、警察とA.R.Mによる合同調査が行われていた。
しかし、AR空間内で起きた“死”の決定的証拠は、なにひとつ見つからなかった。
銃も、刃物も、毒もない。
そこにあったのは、ただの「演出」と「演出の中で倒れた人間」のみ。
「……また、証明できないのか」
A.R.M本部の仮設ブースで、ラクトは低く呟いた。
「現実の殺人なら警察の仕事だ。我々が入る場所じゃない」
上司の声が無線越しに響く。
その言葉は、どこか逃げのように聞こえた。
「でも、AR空間内なら……我々の管轄なんじゃないんすか?」
リナの疑問はもっともだ。
だが今のA.R.Mには、“AR内の死”を扱う法的根拠はない。
まるでこの事件そのものが、現実と仮想の隙間に落ちていったようだった。
AR世界での演出に過ぎない結果と、企業用トーテミルのセラフィム変更による死亡者の不確定さ。
何より、その後の和式術と警察の素早い対応がこちら側の対応を上手くさせてくれなかった。
そのときだった。
頭上の空間が、強制的に切り替わった。
ARモニターによる全国放送だ。
《国民の皆様へ。新制度『生命力』の導入を正式にお知らせいたします。
生命力とは、AR空間における各個人の行動に対し、安全性と秩序維持を目的とした数値管理の仕組みです──》
「は?」
リナがぽかんと口を開けた。
《生命力がゼロになった場合、AR空間内での行動は制限され、一定時間の回復を待つ必要があります──》
「……いや、待て。それ、つまり……」
ラクトの背筋に冷たいものが走った。
さっき目の前で見た、“生命の喪失”。
それを、「ゲームシステムの一環」に組み込む。
国が、それを“演出”として管理下に置く。
「これ……最初から、計画されてたんじゃないのか……?」
答える者はいなかった。
AR空間と現実の境界は、ますます霞んでいく。
そしてこの日、世界は“もう一つの生”を手に入れた




