第3話 襲来する探し人
ラクトは、歩きながら考えていた。
湊ハクが、なぜ先回りして自分に彼女の話をしたのか。
顔見知りであることが、すでに悟られていたからなのか。
――いや、顔見知りと言うほど、白銀ゼーレのことを知っているわけでもない。
では、なぜ。
「あの……すみません」
背後から、また声がかかる。
今度は女性の声だった。
今日に限って、やけに声を掛けられる。
「はい、なんですか」
振り向いた瞬間、女性の指先がラクトの頬に触れた。
「無用心に振り返るのは、感心しませんね」
「……ゼーレ」
つい先ほど、顔写真を見たばかりだったせいか。
再会の実感は、不思議なほど薄かった。
「宣言通り、会いに来ました」
微笑みながらそう告げるゼーレに、ラクトは一瞬、安堵しかけ――
だが、ハクの言葉が脳裏をよぎる。
反射的に彼女の肩を掴み、ビルの隙間へ引き寄せた。
「おい、お前――」
「“お前”って呼ばないでください!!」
鋭い声が、ラクトの動揺を真っ二つにする。
「……ごめん」
「ゼーレと呼びなさい。失礼ですよ」
「わ、わかった……」
「それより」
ゼーレは、急に真剣な表情になった。
「ラクトも含めて、この国の人は――今、自分たちが置かれている状況を、ちゃんと理解していない人が多すぎます」
「ちょ、ちょっと待て。ここで話す内容か?」
「確かに! ラクト、頭がいいですね!」
勢いよく頷いたかと思うと、ゼーレは明るく言い切った。
「じゃあ、もっと安全な場所で話しましょう。ARMの本部で!」
「それはダメだ!」
「大丈夫ですって。ラクトが聞きたいことは、だいたい分かってますから」
そう言い残し、彼女は迷いなく歩き出す。
ラクトは、ついて行く以外の選択肢を失っていた。
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東エリアARM本部
会議前だったこともあり、フロアは比較的静かだった。
少なくとも――彼女が何者かを知っている様子の者はいない。
「せんぱーい。彼女ですか? 職場に連れて来なくてもよくないですか〜?」
星川リナが、わざとらしく声をかけてくる。
「違うから。相変わらずうるさいな」
「突然女の人連れてきたら、誰でもそう思いますって!」
言い合いが続きかけた、その時。
奥の部屋の鍵が外れる音がして、二人は同時に口を閉じた。
上司が姿を現す。
「えー……今回の依頼主は非公開だが、ある人物を探し――」
言葉が、途中で止まった。
初めて見る表情だった。
驚き、戸惑い、そして――理解が追いついていない顔。
上司の視線は、ゼーレに釘付けになっている。
「どうも!」
その空気を壊すように、ゼーレは明るく手を挙げた。
「多分、その探してほしい張本人です。白銀ゼーレです!」




