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ARu世界に問うてみる。  作者: 遥彩 萌
第一章 プロローグと拡張世界
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第2話 幻想は現実を覆う

AR→拡張世界 


トーテミル→AR区画を作り出す起動端末。


 AR空間に一歩足を踏み入れると、現実の街並みは一変した。


 古代の神殿を模したような荘厳な石造りの広場。空には巨大な輪郭の魔法陣が浮かび、色とりどりの光が風に乗って舞っていた。現実のビルや道路は、すべて幻想に塗り替えられている。


「はぁ〜……何度見ても、すごぃな……」


 リナがぽつりと感嘆を漏らす。視線の先では、群衆がAR衣装に身を包み、まるで舞台俳優のように振る舞っていた。


 誰もが自分の“理想の姿”でこの空間に存在している。


 現実の姿など、ここでは意味を成さない。


「派手すぎて、逆に違和感しかないな……」


 俺は人混みの中を進みながら、視界の端に意識を集中させていた。


 ベーストーテミルによるAR空間は完璧すぎる。だからこそ──“完璧”から少しでも外れた“歪み”は目立つ。


 視覚、聴覚、嗅覚、触覚。それらすべてが幻想に塗り替えられた世界。

 それでも俺の感覚は、どこかに「現実」の存在を探し出そうとしていた。


 セレモニーの中央舞台には、今日の主役が登場した。


 ──“魔法使い”だ。


 長く引きずるローブに、煌めく杖。幻想世界における典型的な演出だ。だが、彼の立ち姿はどこか、現実離れしていた。


 和式術が雇ったプロの演出家、あるいはARアクターだろう。

 だがその動きは、あまりにも滑らかで、あまりにも“生々しかった”。


「この魔法使い……データじゃないな。実在してる」


 俺のつぶやきに、リナが訝しむように眉をひそめる。


「どういうことっすか? この演出、全部AR演算で組まれてるって──」


「そう思い込ませる演出だ。だが違う。あれ、実体がある」


 リナが無言で頷く。彼女にも何か感じ取れたのだろう。


 ──その瞬間だった。


 “爆風”が起きた。


 視界が一瞬、真っ白に染まり、耳をつんざく破裂音が広場を包む。


 光の中心には、倒れ伏す観客の姿があった。


 すぐさま騒然となる場内。悲鳴、ざわめき、逃げ惑う足音。AR空間内ではこれすらも演出かと錯覚してしまう。


「ラクト先輩! 今の……!」


「あの“魔法使い”が、攻撃を放った……現実で、だ」


 俺は咄嗟にブレスレットを起動する。

 《セラフィル》──半径二メートルを一分間だけ現実へ引き戻すA.R.Mの特製トーテミル。


 AR空間の歪みを一時的に排除し、倒れた人影へ駆け寄った。


 目の前にいたのは、アバターではない、“人間”だった。


 だが、すでに反応はない。AR演出による昏倒ではない。現実で倒れていた。


「死んでる……?」


 リナが呟く。だが現場には、血の痕跡も凶器もない。


 まるで“ARで殺された”ようにしか見えない。


 これが、現代の殺人のかたち──ARの“幻想”で覆い隠された、“現実”の死。


 セレモニーの始まりは、惨劇の幕開けだった。



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