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ARu世界に問うてみる。  作者: 遥彩 萌
第一章 プロローグと拡張世界
15/18

第15話 光のような幻想的に

 淡い光が空間に滲んでいた。

 ラクトは立ち尽くし、その眩さの中心にいる少女を見つめていた。


 ──銀髪の少女。


 彼女は、静かに目を瞑り、目の前に立つベーストーテミルに手をかざしている。

 ただそれだけの仕草なのに、明らかに装置が反応していた。


 ラクトが触れた時には沈黙していたそのトーテミルが、今、まるで命を宿したかのように脈動し、脈々と光を放っている。


 その姿に目を奪われながら、ラクトの口からふと問いがこぼれた。


「……なぁ、君の名前は?」


 問いかけに、少女は目を閉じたままふわりと微笑み、囁くように応えた。


「ん? 私の名前はゼーレ。白銀シロガネ ゼーレ。あなたは?」


「俺は、如月ラクト」


「ラクトかぁ。うん、いい名前だね」


「……そんなふうに言われたの、初めてだよ」


 思わず漏らしたラクトの返答に、ゼーレはくすっと笑った。


 光を纏う白の衣、その縁を縫う青い透光布が、装置の輝きに照らされてほのかに揺れる。

 その横顔には、無垢でありながらも、何かを見透かすような静けさがあった。


 ──不思議な存在だった。


 なぜここにいるのかも、何者なのかも、ラクトにはまったく分からない。

 だが、この空間において、彼女が“特別”であることだけは、明白だった。


「もう、間もなくだよ」


 ゼーレが瞳を閉じたまま、小さな声で呟いた。


 それは彼女自身に語りかけるようでもあり、ラクトに知らせるようでもあった。


 ベーストーテミルの発光は、徐々にその強度を増していく。

 辺りの空気が微かに震え、光の粒が宙を舞い始めた。


 ──解除が、始まっている。


 ラクトはただその光景を見守ることしかできなかった。

 自分には反応しなかった装置が、彼女の存在ひとつで動いていることに、畏れすら感じる。


 その時、不意に微細な電子音が鳴った。

 ゼーレの衣の胸元あたり、どこかに仕込まれた小型の端末のようなものが震えている。


 彼女はそれに軽く目を落とし、少し寂しそうに笑った。


「今日は一旦、さよならしなきゃ。……私、もう時間なんだ」


「……え?」


「御礼は、また次に会えた時でいいよ? えへへっ」


 突然の別れの予告に、ラクトの言葉は詰まる。


 その軽い口調に、返す言葉が見つからず、ただ「お、おう」と返すのが精一杯だった。


 ゼーレはふと顔を上げ、ラクトに向き直る。


「でも、また会えるのか?」


 思わず漏れた問い。

 それはきっと、目の前の少女の存在に惹かれたからではない。

 ただ――彼女を、この場所で見送ってしまうことに、心のどこかがざわついたのだ。


 ゼーレは、優しく、確かに微笑んだ。


「もちろんだよ。……だって、あなたのこと、まだ全然知らないもん」


 その瞬間、ベーストーテミルが限界まで発光する。

 視界が一面の白に染まり、彼女の笑顔は光に呑まれ、そしてラクトは思わず目を閉じた。


 ――


 光が静かに引いていく頃、そこにはもう、彼女の姿はなかった。


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