第一話 現実に幻想を重ねて
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次元歴十五年。
日本は、現実と幻想が交錯する世界の最前線にいた。
かつて現実と呼ばれたこの世界には、いまやもう一つの“層”が存在する。
AR──拡張現実と呼ばれるそれは、街並みや空間、そして人々の姿すらも覆い、現実の輪郭を霞ませた。
人々は「現実にあるもの」と「そこにあるように見えるもの」の境界を曖昧にしながら生きている。
その入り口となる装置こそが、《トーテミル》と呼ばれるAR空間生成デバイスだ。
腕輪型、ペンダント型、ポール型、箱型。
個人用から企業用まで、形状は多岐にわたるが、機能はひとつ。
限られた空間に、現実とは異なる幻想を“上書き”すること。
それが、現代人にとっての新たな「遊び場」であり、「生活空間」となっていた。
俺──如月ラクトは、そんなAR社会の秩序を守るための組織「A.R.M」の一員だ。
今日は、東エリア三番区──通称「東3区」にて行われる大規模ARセレモニーの警備任務に就いている。
「ラクト先輩〜! 今日の会場、すっごい豪華ですよっ」
隣を歩く星川リナが、元気な声で言う。
彼女も同じアーム所属のメンバーで、年齢は二十代前半。性格は明るくお節介で、少しだけ騒がしい。
「和式術が主催してるからな。企業用ベーストーテミルまで使っての演出だ。金はかかってる」
和式術──ゲーム関連企業から発展したAR業界の中核企業のひとつ。
今回のセレモニーでは、同社が開発した最新のベーストーテミルを用いて、東3区の一帯をまるごとAR化していた。
ベーストーテミルは、企業が展開する大型のARトーテミルで、範囲内に入るとAR空間へと自動的に誘導される。
今回のAR空間では、外見も、視界も、音すらも幻想で上書きされる。
参加者には「承認」か「拒否」の選択が表示されるが、どちらを選んでもAR化された空間には入ることになる。
──そして。
視界をよぎる違和感。
まるで、現実にないはずのものが“確かに存在している”ような感覚。
(……この空間、どこか変だ)
トーテミルによって生成されたAR空間は、本来現実の上に乗せられた“幻”に過ぎない。
だが、それでもなお。
俺の中にある“感覚”は、この世界が“何か”を偽っていると告げていた。
「ラクト先輩? また、変な違和感っすか?」
「……ああ。何かがおかしい。今日は気をつけろよ」
そう言いながら、俺はAR空間に足を踏み入れた。
そして──事件は起きた。
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