18 平木家と私
いつもごひいきありがとうございます。
さていよいよ本作2巻が明日4/20発売となります。もしかすると金曜日くらいから店頭に出てたかもしれませんけども!
1巻に続き、本編のほかに市井視点が加筆されています。
さつき視点からは見えにくいあれこれが!
明日は2話公開で4章を終えます。
それからまたしばらくお休みをいただきますが、2巻の売り上げで!いろいろと今後が変わりますので!是非!是非!
「あけましておめでとうございます。ご無沙汰しておりますが、先日は妻たちが大変お世話になったようで。お礼はまた改めてと考えております。それで娘はご迷惑をおかけしておりませんでしょうか」
見ないふりをしたところで、市井さんに声をかける父を止められるわけでもなく。
諦めてなんとなく会釈してる感じにうつむいてみたけど、別に私は見られていない。
平木が五大名家のひとつだったのは随分昔のことだ。当然市井家よりもかなり格下なわけで。
年始会の間、ご当主と同じくらいに挨拶をひっきりなしに受けていたおばさんが、私と親し気に話をしているところに割り込んでコレだ。私は自分が世間知らずな自覚はあるけど、父よりはマシなんじゃないかと改めて思った。本当に、異形の方がずっと空気読む気がする。
すうっと表情をこそげ落としたおばさんが、ぐいっと市井さんの前に出た。つい市井さんと一緒に一歩下がってしまった。
「――とんでもない。さつきさんはとてもよく勤めてくださってますとも」
ずっと朗らかで明るい笑顔ばかりを見ていたから気づかなかったけれど、こうして見るときれいめモードの市井さんとよく似ている。
「……娘は軍でお勤めと聞いておりますが、何故ハル夫人が」
「イヤですよぉ。市井家の後ろ盾なしに、異常現象対策部に勤められるわけないでしょう。平木家はもう随分前に五大から落ちてますし?」
「――っ」
ころころと少女のような笑い声なのに、左右対称につりあがった口角が、なんというか、とても肉食感が強い。隣の私にだけ聞こえる程度の声で、「うへぇ」と市井さんがこぼした。
父は右頬をぴくぴくさせ、美代子は市井さんに笑顔で小さく手を振っている。兄はふたりの後ろで四十五度のお辞儀をしてぴしっと固まっている。
「ご心配は無用ですよ。だっていい子でしょう。頑張り屋なのに控えめで愛嬌もある。しかも稀有な能力持ちときてますし。さつきさんは市井家総出で大事にしておりますのでね」
「能力、ですか? さつき、お前まさか虚言を吐いてないだろうな!」
「きょげん」
いきなり話を振られて意味がわからなかった。きょげん……虚言か!
そりゃあ、彼らは私に異形を視る力があることを知らなかったけども、そんな音速で嘘吐きだって決めつけなくたっていいじゃないか。私が家にいた頃、嘘なんてついたことないのに。
別に今更悲しいとかではなく、ただびっくりして言葉に詰まってしまったのが悔しい。
「おやまぁまぁ、呑気にされているじゃありませんか。ご子息、清さんでしたか。清さんから、おとといのお話、ちゃんとお聞きになってない?」
「呑気……? 聞いておりますとも。大佐殿に助けていただいたことでしょう。さつきはその場にはいたようですが……お恥ずかしい話、これは魔力なしですから」
「父上っ」
父の袖を引いて囁くような悲鳴をあげる兄は、若干顔色が悪い。その兄の手を父は怪訝な顔で振りほどいた。
「清、黙りなさいっ。――愚息が失礼しました。これもまだまだ若いものですから、妖についてさほど教育が進んでおらず」
「ええ、教えられる方がいらっしゃらないようで。残念なことですわぁ」
若いもなにも兄は二十歳で市井さんとひとつしか違わない。確かに市井さんの方が偉そうな分年上に見えるけどって思っていたら、脇をこづかれた。思っただけなのに……。
え?って、わかりやすい口の形をした父から市井さんに、おばさん――ハルさんの視線がうつる。
「彬仁。あんたの話はちょっと盛ってるのかと思ってたわ。ごめんねぇ」
「んなことするかっつうの」
「だって、仮にも名家がこんなあっさり役割を忘れるなんて思わないじゃない。ついこないだまではまともだったはずだし」
「いつだよそれ」
「先々代は気のいいおじいちゃんで、年始会では飴のはいったお年玉をくれてねぇ……」
「大昔だわ」
「いやだ。ほんとねぇ」
「大体いい人だっつのと有能なんかどうかは別だろうよ」
「それはそうだけど、なにも人格と能力まとめて劣化しなくてもいいのに」
先代は私が生まれる前に亡くなった祖父だし、さらにその前の代となれば当然私にはさっぱりだ。飴のはいったお年玉かぁ。私のじいちゃんはお年玉袋にチーズ鱈入れてくれてた。長生きしてくれてたらよかったのに。
そういえばうちの家系のことって、私が子どもの頃の女中頭がこぼしていたことがあった。
「先々代は後継の長男と一緒に事故で亡くなったから急遽次男が後を継いだって」
それで使用人の待遇が落ちたのだとかなんとか愚痴っていた覚えがある。でも今の若い女中たちとかは、さほど不満もないようだったし、昔が平均以上だっただけなのか、女中頭の思い出が美しかっただけなのかのどちらかなんだろう。
市井さんたちふたりは、ああ、と同時に腑に落ちたようだった。
「な、なんでしょうな。先ほどから少々無礼ではないですか。いくらなんでも」
「無礼ときましたか。無礼、無礼ねぇ?」
ハルさんは、頬に右手をあてて首をかしげつつ視線で市井さんを促した。何をっていうか、やっちまいなって感じの視線。え、かっこいい。
「はぁ、どうやら清さんはちゃんと報告したのに理解できなかったと見受けますがね」
市井さんが大股で二歩詰め寄って、父がのけぞった。兄は額に手をあててうつむいている。
「市井の本拠地であるここに、雑魚とはいえ妖を持ち込んだ。この意味を理解されていますか。あなたの家族がこうして今もここにいられるのは、さつきさんのおかげですよ。神隠しにあうところを、彼女が連れ戻してくれたんです」
……そういう状況だっただろうか。もうおかっぱが踊り狂ってるシーンしか脳裏に浮かばないんだけど。
「それは大佐殿が」
「最終的に討伐したのは私ですがね、そもそもさつきさんの導きがなければ、妖に連れ去られる奥方たちのもとへ行けなかったし、妖の空間――狭間から帰ってくることもかないませんでした。なおかつ、妖を奥方と娘さんから引きはがして、私が討伐できるよう整えたんです。わかりますか。これが平木家固有の能力ですよ。滅多に発現はしなかったらしいですが、聞いたことくらいあるでしょう」
そう言われてみればそうだったかもしれない。確かに異形を母たちからはぎとった。どうしよう。私、すごく有能みたい!
おそらく父は兄の話を流し聞きしていたんだろう。呆然として、まさか、とか、そんな、なんてつぶやいている。
「今回の件についての市井家の対応は、早ければ明日には決定されるでしょう。時期もよかった。長老格がそろってますからね。平木家への正式な抗議や各名家へ通達は確定として、制裁がどの程度になるものか――若輩である私には予想しかできませんが、いまだ謝罪の申し入れも行っていないとあっては、ねぇ?」
「い、いえ、申し入れ、は、もちろんこれから」
父は目をぎょろぎょろとさせてから、今気がついたとばかりに私を見た。
「――さつき!」
「え、やだ」
私は役立たずなんだから、いまさらお役に立てるわけないじゃないですかー。やだー。







