11 元旦と私
だ円形で足つきのガラス器にプリン。
プリンの上には生クリームを台座にしたシロップ漬けのさくらんぼ。バナナやりんごにみかんといった王道のフルーツに囲まれたこれはプリンアラモード。
屋敷から階段を下って集落までくると、初日の出を迎えたばかりの時間なのになかなかの人出だった。一族以外の住人たちは、お参りをここで済ませるらしい。昨日は気がつかなかったけど、集落の奥にも祠があるそうだ。
どの店も開店時間を繰り上げていて、普段は絶対この時間にやってないであろうカフェまで開いていた。
ゆうべからずっと起きているわけだから、朝からスイーツだって抵抗などない。嘘。いつでも抵抗ない。
「美味いかよ」
「はい!」
固めのプリンはなめらかで、果物はどれも瑞々しい。カラメルのほろ苦さと甘さが強めの生クリーム、たまごの滋味あふれるプリンのバランスのよさといったら! バニラアイスまで添えられている。店内はあたたかいから問題なし! 美味しい……。
「ここ、うちの親族がやってんだよ。去年は普通に茶屋だったんだが」
「さすが食道楽一族……」
「あそこんちも大概新しいもん好きだからなー」
白い木枠の洋風窓は、澄んだ朝の光をとりこんでいる。元旦にふさわしい晴天だ。
年明けのお参りと、初日の出。儀式を終えたご当主を迎えてから、このカフェに連れてきてもらえた。
合間合間の待機時間は長くて、疲れなかったといえばウソだけど、ゆったりと過ごす広間の居心地は悪くなかった。飲んだり花札をしたりとそれぞれが好き勝手にしていて、私はそれを眺めていただけで。それなのに疎外感はあまりなかったのだ。
時折おばさんたちがみかんをくれたり、お汁粉をもってきてくれたりもしたせいかもしれない。特に会話らしい会話はしていなくとも、むしろそのせいでもあるのか、おばさんたちの人徳なのか。 お汁粉はこしあんで焼餅がひとつ。
忙しくない年越しは、こんなにもすばらしいものなのか。
思えば市井さんに拾われてから、怒涛のように過ぎた三か月弱。密度が高すぎて、去年の正月どころか平木での生活がすでに薄らいでいる感があった。
市井さんのコーヒーのソーサーにケムが正座している。膝に角砂糖を載せて姿勢がいい。
カップを戻そうとして諦めた市井さんが、テーブルにそのまま置いた。
「……つうか、こんな笑っちゃいけない年越しは初めてだったな」
「ぷふっ」
バナナに刺そうとしたフォークの狙いが外れてしまった。思い出させないでほしい。
「なんだあれ。あんな威風堂々と朝日を浴びる妖なんて見たことねえわ」
大鳥居からのぼる初日の出はたなびく薄雲をバラ色に染めていて、本来であればとても神々しいものだったように思う。
海のある方角を向いた本殿が、朝日を浴びてゆっくりと色鮮やかさを増していくのも神秘的だった気がする。
ケムが鳥居のてっぺんで両手両足を広げて立っていなければ。
控えめにいっても台無しだった。
「それはいいとしてだ。兄貴にそれとなく聞いてみたんだけどよ。おかっぱのこと」
この国の名前は日本ではないのだから、日本人形と言っても通じない。だから、おかっぱと最初説明したんだけど、普通に市松人形で通じるのは後でわかった。市松って人の名前由来じゃなかったかな……。時々こういうことが起こるから不思議だ。
無意識に出た言葉が通じなかったり、通じないかもと気をまわして別の言葉を探していたらそうでもなかったりと、出来の悪い娘扱いされた原因のひとつじゃないかと思う。
「宝物殿に、おかっぱは一体あるんだと。だけど歴史的価値はともかく、別にいわくも何もないらしいんだよなー」
「じゃあ関係なさそうですか」
「どうだろうなー。んでも呪いとかそっちのほうじゃないようだし、ほっといてもいいんじゃねぇか」
「かもしれません。もう慣れたから怖くないですし」
「その時々肝の太いところがほんといいと思うぞ」
カフェを出ると、まだ細道は混雑していた。それでも流されるほどではない。
この後はもう明日の年始会を待つだけだ。寝るなり散歩するなり好きにしろと言われている。明日の昼からは市井一族、明後日は各名家が全国あちこちからやってきての年始会らしい。
市井さんはさっきコーヒー飲んでいたから、このまま起きてるつもりなんだろうか。
道行く異形たちの中には、晴れ着らしきものをまとってるのがちょこちょこいる。あいつらも季節感ってあったんだ……バレリーナみたいなのもいるけど。
私はどうしようかな。まずは着替えたいかもしれない。あの地下のお風呂は、いつでも入れるようにしてるって話だし。
また屋敷まで階段上がらなきゃだから、気合を入れなくてはならない。
「市井さんはお屋敷に戻るんですか」
「んー、どうすっかなぁ。少し動きてぇな。てか、お前今日の鍛錬どうした」
「お正月ですよ!?」
「だなー。ふもとからここまで二往復にまけてやる」
「におうふく!?」
「運動着持ってこいつっただろうが」
「持ってきましたけど!」
嘘でしょう!? 好きにしろって言ってたのに!
やることやってからってことですか! それはそう!
「巡回も兼ねてだからなー俺もつきあってやっからがんばろうなー」
「はいぃ……」
着替えに戻るぞと、市井さんは足取り軽く屋敷までの階段へと向かっていった。
巡回って何するんだろうと思いつつ、それよりもまさか二往復って走るのかとそっちばかりが気になる。まさかだよね。歩いていいんだよね。そりゃやってできないことはないけれど、つらい。それはつらい。
足取り重く彼の後についていこうとしたら、聞き覚えのある声に呼び止められた。
「さつき?」
一瞬誰かわからなかったくらいに汗だくの母がいた。なにその汗。







