13 所掌と私
「やる気失せねぇ? この町が廃れようが、それは俺らの仕事じゃないしな?」
「やる気……」
市井さんは時々こうして私を試すように揶揄う。なんと答えれば正解なのかがさっぱりわからないけど、別に困るわけじゃない。思うことをそのまま言っても別に否定されたりもしないし、大抵は笑ってくれる。
悪さをする妖を討伐するのが仕事だと前に市井さんは教えてくれた。この町がいい人ばかりじゃないとか廃れたりとかは関係のないことだ。
「でもいつ蛙が出てくるかわからないし、出てくるたびに私たちがわざわざここまで来るのは大変かなって」
「ふはっ、だよなぁ。そのほうがめんどくせえ。お、このみかん美味いぞ」
「ですよね」
美味しかったからむいてあげたんだもの。市井さんはみかんの皮をむくのが面倒くさいらしいから。
石川さんが隣でふふっと笑う。何かと思ったら伊賀さんがなんともいえない妙な顔つきをしていた。またいちゃもんつける気なのかと、そっとケムをにぎりしめる。
「やめろよ! 何も言ってないだろ!……ただ、わかってんだなって思っただけだ」
なんのことかと問い返す前に石川さんが人差し指を口に当てて両目をつぶった。
「この仕事はさー、人間のどろっどろしたところを見ちゃうからね。鐘守だってそうだったでしょ」
確かにあのトミエさんの所業はどろどろを煮詰めたようなものだったと思う。
「市井のような五大名家に連なる者なら教育を受けてるけどー。妖退治だ! 世のため人のため! なーんて一般人は思いがちなの」
「はあ」
五大名家。名家といわれる家はほかにもあるけれど、この場合は妖討伐に特化した市井家を筆頭にした異常現象対策本部を構成する、五つの家門のことを指す。
各家にはそれぞれ得意とする分野があって、特殊班なら市井家所縁の者が、調査班にはまた別の家の者が多い。多いといっても、伊賀さんのように市井家家門でも調査班所属の人もいる。伊賀さんはそれも気に入らないそうだ。私にはそれ関係ないから絡まないでほしい。
そして平木家もかつては本部に籍をおいていて、外れると同時に五代名家からも降りている。市井家以外は、その時代で入れ替わりもあったらしい。
「ここがいい例だよねー。あまりにも助け甲斐のない土地柄っていうか。さつきちゃんは平木家出身だけど、名家から外れて久しいし? その手の教育は受けてないだろうに、しっかり割り切れてるんだなって佐吉くんは言ってるわけよ」
「……ありがとうございます?」
確かに世のため人のためなんてひとかけらも思ったことがない。いなくてもいい人間に対して優しい人なんていないって思っているだけだ。
その名家の教育とやらがどういうものなのか見当もつかないけど、そうすると市井さんは、それがわかってるかどうかってことを見てるんだろうか。
どうなんだろうと窺い見ると、やっぱり悪そうに笑って「俺はさつきをかわいがってるだけだぞ」とのたまった。微妙。
「とにかく! 俺がここまでの移動中に飛ばした式神が、今の時点までに集めた情報なんですけど!」
強引に話を戻した伊賀さんによると、結構な数の式神を飛ばしてあちこちを探ったらしい。魔動二輪車を運転している最中にそんなことまで出来るのかと思えば、石川さんにちくりと一言注意をされていた。安全運転大事。
私をストーキングした式神って音声も拾えるドローンみたいな道具を、一般家庭にももぐり込ませていた。私としてはちょっと引くけど、この世界にプライバシーとかいう概念はない。ないけど、おおっぴらに言うことじゃない意識はあるらしく、伊賀さんも少し声のトーンを落とした。
「時間が時間なんで寝ている家が多くて、数は拾えなかったんです。でも年寄夫婦がべろべろに酔っぱらってくだをまいてる家が一軒あって。支離滅裂だからはっきりしないんですけど、どうも部屋に閉じこもって出てこない娘の愚痴っぽいんですよ」
「相変わらずお前はほんと根気よくそんなん聞いてるよな」
「何が役に立つかわかりませんしね!」
「おう、えらいぞ。んで?」
わぁ。伊賀さんすっごいうれしそう。初めて全開の笑顔を見たかもしれない。市井さんのいつもの棒読みなのに。
「合間合間にですね、ミサマって言ってるんです。ミサマが連れてってくんねぇかなって」
「ミサマ、ミサマか。……あの祠、祀ってあるのは鷺じゃなかったか」
「事前調査ではそうなってました。聞き取りもしてたし、町のやつらもそう思ってるのは間違いないと思います」
「まあ隠してるうちに歪んで伝わるのはよくあるけどー……鷺は水鳥だから違和感なかった感じかねぇ」
……私以外の全員が理解してるっぽい。ミサマってなんですかってどのタイミングで聞いたらいいんだろう。そのうちなんとなく察せたりしないだろうか。無理かな。そういうの得意でない自覚はある。いつ聞こう……。ケムはまだみかんを食べてない。みかんを抱きかかえたままうつぶせでじっとしていた。
「さつき。たまごのほかに大蛇がいるっつってたな」
「はっはい!」
急に話を振られて大きな声で返事してしまった。思わずカウンターのほうを見てしまったけど、宿の人が出てくる気配はない。
え、と伊賀さんが小さく驚いたような声をもらした。
「背びれありますし、目もいっぱいありますけど、おおざっぱに蛇かなって」
「怖くないんだよな。でかいのに」
「大きくても怖くないのはよくいますけど……、そうですね。怖くないです」
「あー、これアレだな。ちょっと手ごわいつか、なんならうちの仕事じゃないかもだな」
「そうだねぇ……」
石川さんも考え込んだ風情だ。またついていけない。どこから聞いたらいいだろう。ミサマを先に聞く? 戸惑う私に市井さんが気がついてくれて。
「ミサマは巳様。蛇の神って扱いだ。お前の見た大蛇が祀られてたんだろうよ。怖くないってことは祟り神になってはいないと思うが、そうなると所掌が違うんだよなぁ」
所掌。なんかお役所みたいなこと言い出した。
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