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火球

 あたしの名前は“沙耶乃(さやの) グティレス、日本人とアメリカ人のハーフで、航海の途中だ。

 乗っている船の名前は宇宙船アヴリオン。

 その船の船長をやっている。他にも肩書はあるがそれはいい。

 今は西暦二二七五年、地球は遥か遠くになって、目的地が近づいている。

 そろそろあいつを起こそうと思う。

 上手く人口冬眠装置から目覚めてくれればいいが。




 しばらくしてそいつを起こしに行った、どうやら無事めざめたらしい。


「おはよう、気分はどうだい。」


 あたしの挨拶にぶっきらぼうに返事をした。 


「特に問題ないですね。」


 問題ないようだ。感情を表に出さない喋り方は、初めて会った時から変わっていないが、特にそのことに文句はない。


「ほら服だ、これに着替えてメインルームに来てくれ。」


 あたしは着替えの服を放り投げると、部屋を出た。覗きの趣味はない。

 メインルームと言ったが、そんなにいくつも部屋はある訳じゃなく、あたしと今おこした奴が眠っていた部屋と、メインルームの三つで、後は各種機械設備の場所になる。

 メインルームで椅子に座りながら彼の経歴をもう一度調べ思い出していた。

 “四条 双月(しじょう そうげつ)” 二〇〇四年九月二十七日生まれ、男性、血液型A型。

 高校卒業後、働いていたがある時、人口冬眠装置の被験者に応募し、世界で初めての成功者となる。

 その後も被験者に何回かなり、五十年の月日が流れる。

 何回も人口冬眠に入るとは、物好きか、世の中が嫌になった奴がすることだね。

 もっともそのお陰で、人口冬眠装置の実用化が進んだのだから馬鹿にはできないが。

 あたしが四条と出会ったのもそんな時だ。

 その頃の人類は飛躍的に宇宙開発が進んでいて、その立役者になったのが人口冬眠装置と新エネルギーのオジェクロンだ。

 オジェクロンは、火星で見つかったオジェクト鉱石を、元に開発したエネルギー炉で、少ない燃料で長時間かつ高エネルギーが得られる優れものだ。

 それらの躍進で太陽系内惑星はほぼ進出していた。

 次に人類が目指したのは外宇宙で、人類生存の可能性がある惑星と、異生命体の有無の議論がされていた。

 そしてその条件に合わさる惑星、人類が到達可能な距離、この二つが合わさる天体がピックアップされていく。

 それが決まると、次の課題は乗組員を探さなければいけないことだったが、生きるか死ぬか分からない探査計画に、奇特な連中は以外にも多かったことを覚えている。

 あたしはあらゆる分野での知識の高さから、乗組員の第一号に選ばれ責任者にもなった。

 しかし内実は、あたしの優秀さを妬んだ上の連中が、わざと推薦したのは知っている。

 分かっていたが、それに乗ってやった。そんな下らないことをする奴がいる所にいても、どうせまた同じような目に合う。

 そいつらに会わなくて済むなら一石二鳥だ。勿論純粋に研究対象として興味があったのは間違いない。多少、じゃないかもしれないが危険は承知の上だ。

 それからは誰をパートナーにするかを決める日々が始まった。

 みんな大層に憧れでしたとか、死んでも本望ですとか、人類の最初の一人になりたい等々、現実と夢を分かってない奴が大半だった。

 そんな中で目を引いたのは四条だ。

 面接時、淡々と理由を語っていたのは印象に残った。

 その理由とは、この時代に残っていても、知っている人がいないからと話していた。人口冬眠を繰り返し受けていたら当然じゃないかと思ったが、そこは突っ込まない、こいつにはこいつの考えがあるのだろう。

 その他のデータを見ても悪くはなく、特に理解度と適応力、冷静さは群を抜いていた。これはこの探査において重要な部分である。

 他に幾人か候補はいたが、結局、四条一人にした。

 何人も連れていくには、死のリスクが高いし、多いとかえって纏まりがなくなる。第一あたしが、面倒を見る人数が多いのは御免だ。

 ん、その本人がどうやら来たようだ。


「お待たせしました。」

「これからのことを説明するよ、そこに座りな。」


 そう言って、テーブルをはさんで、あたしの向かいの椅子に座らせた。

 あたしは、替わりに立ち上がり、後ろにあるモニターの横に並らび説明を始める。


「あたし達が地球を旅立って二百年、航行は順調で惑星“KIERLWBA二五”、面倒なので通称キーバとするが、この惑星には後十二時間後に到着する予定だ。目的はこの惑星で人類が生存可能な星かどうかを調べること、及び重要な資源があるか確認すること。事前の地球からのデータでは居住可能性20%と出ていた。これでよく送るつもりになったなと言いたいが、喜べ。先行してこの宇宙船から飛ばした、惑星調査機のデータに驚くべき結果が出た。」


 まあこのデータにビックリしたのはあたしの方だが。


「なんと、居住可能確率九十五%のデータが帰ってきた。大気成分は八十五%地球と類似、水もある。植物も間違いない。動物もおそらくいるだろう、が本当に驚くことはそこじゃない。……知的生命体がいる可能性も極めて高いことが分かった。」


「!」


 今まで特に反応がなかった四条だったが、さすがにこれを聞くと表情が変わった。


「調査機から送られてきた写真に、人口建造物と思われるものが写っていた。年代は分からないが多数存在する。」


 説明を続けようと思った時、四条から冷静な質問が来た。


「知的生命体がいると、かえって厄介なのでは、その辺はどう対処するようになっているのです。」

「あんたの言う通りだ。知的生命体がいるというのは諸刃の剣だ。建造物で判断すると、中世辺りの文化度だと思うが決めつけは危険だ。地下に大規模な都市があるとも限らない。仮に知的生命体がいるとして、交流可能なのかどうかも問題だ。原始人レベルだとまだいい、逆にあたし達より高度な、知識を持った者の方が厄介だ。下手な対応をすると殺される可能性は勿論、地球の立場も危うくなる。この辺についてお偉方の判断は、現地判断に任せる。だそうだ。基本友好的な態度を示せと言っていたが、地球と連絡を取れる訳でも無い。だからこちらの判断で動くしかないだろう。これは実際に行ってみないと分からない。今あるデータだけでは、これ以上は解析不能だ。念のため知的生命体がいそうな場所、及び人口建造物をさけた着陸場所を探そうと思う。その後にコンタクトはしようと思っている。」


 特に異論はなさそうだ、それよりも今から言うことの方が、受け入れてくれるか気になるね。


「それとあんたに知らせることがある。この宇宙船にはもう一人探索隊のメンバーがいる。」


 四条が怪訝な顔になる。知らない人物が乗っているとなると無理もない。


「ラソキスこっちに来な。」


 声をかけた先は、あたしが寝ていた部屋である。

 声と同時に部屋の扉が開き、中から人影らしきものがこっちに向かって、とてもゆっくり近づいてくる。

 やれやれ一丁前に恥ずかしがっているのか。

 全身の姿を現し、あたし達の前に来るとそいつは挨拶を始めた。


「初めまして、ラソキスと言います。以後よろしくお願いいたします。」


 ラソキスは、お辞儀をしながら挨拶をした。まるで人間が喋ったような違和感のないものだ。我ながら上出来である。

 こいつはあたしが設計した探索兼護衛用ロボットだ。

 人間と同じ位の背丈、人と同様の各部関節を作り、手の平と指の形状もできるだけ似せ皮膚の替わりに全身灰色の特殊鋼板を覆わせた。

 軽さと強度のバランスは難しかったね。

 なんとか重量を百キログラムまでに抑えたのは、自分でも上出来だったよ。

 お陰で各部関節のクッションに無理がいかず歩くときの機械音も最小限に抑えることが出来た。

 頭は中世の鎧を模したデザインになったが、特に意味はない。目の部分はワンレンズサングラスの形をさせて中にカメラを三つ入れている。

 カメラは読み取るだけでなく、映像も出せるようにしてある。

 鼻、口、耳は必要無かったので省いた。集音マイクは体の何ヵ所かに内蔵している。

 エネルギー源は勿論オジェクロンだ。背中の鞄みたいな所に積んである。

 頭脳はAIだ。シンギュラリティはもう終わっている。

 昔はAIが人類を滅ぼすとか言っていた連中がいたそうだが、今ではAIそのものより、それを悪用する人間の方が厄介になっている。

 AIがいくら優秀でも、人間の心の奥底まで読み取るのはまだ先の話になりそうだ。まあ今のあたしには、どうでもいいが。


「こいつは、あたしが連れてきた調査と護衛を兼ねたロボットさ。ロボットと言っても人間より全てが格段に上、探索、偵察関係の性能にも優れている。もちろん不慮の戦闘が起こった場合にそなえての装備もある。」

「いつの間にそんなロボットを持ち込んだのです。登場した時は無かったと思いますが。」

「知らないのは、無理もない。出発した時はまだ出来ていなかったからね。各部パーツをこの宇宙船に事前に積み込み、ここで組立てた。だからあたしはあんたより一週間早く目覚め、こいつを組み立てていたのさ。ギリギリだったが何とか間に合ったよ。」


 流石に感心をしているみたいだね。素直に嬉しいよ。


「グティレス博士、この方がおっしゃっていた四条 双月様なのですね。」

「ああそうだ。呼ぶときは四条さんでいいだろう。敬語は鬱陶しいので減らすようにしてくれ。」

「了解しました。よろしくお願いします、四条さん。」


 日本語はややこしかったが、言語調整も上手く行っているようだ。


「……よろしくお願いします。」


 四条はまだ少しぎこちないが慣れてくるだろう。そうでないと困る。


「こいつは、最高の相棒になるはずだ。向こうに着いた時に、真っ先に降りてもらって調査をしてもらう。そしてある程度危険が、無いようならあたしらも晴れて他天体に第一歩を印す。問題なければ宇宙服を着るつもりもない。」

「なかなか大胆ですね。」

「この宇宙船には後十日分しか空気、水、食料が残ってないんだ。そんな物を着ていなくちゃ生きられないなら、どのみち長くないよ。」

「まあそうですが、ところでソキウスさんのエネルギーはどうなっているのです。」

「あんたも知っていると思うがオジェクロンさ。燃料となるオジェクト鉱石もそれなりに積んである。ドンパチやったって百年は余裕で持つよ。」


 ドンパチと言う言葉にラソキスが反応した。


「グティレス博士、この武装はただのお守り、と言っていたじゃありませんか。」

「こっちにやる気が無くても、相手がその気なら仕方ないだろ。あたしらが死んでもいいのかい。」

「そんなことは望んでいませんが、平和的に解決できるならそれが一番かと。」

「知性がある奴ばかりとは限らないんだ。こちらが話している内に襲われたらどうするんだい。だいたい……」


 この後少しやり取りは続いたが、話が前に進まないので強引にねじ伏せてやった。


「次の話に移る。細かい調査は現地に着いてからソキウスにしてもらうが、大気は事前調査の段階で、ほぼ問題ない確率が高い。水も多少異物や細菌があったとしても、浄化装置を通過させれば何とかなるだろう。最初に問題になりそうなのは食料である。ここまで地球に近いと、食べられる物はあると推測できるが絶対ではない。よって到着してからの最優先事項は食料の確保、次にこの星の地質、生態系の調査、最後に知的生命体の調査とする。」

「せっかく来たのですから、それなりに生き延びたいですね。」


 四条も直ぐに、おさらばするのは嫌なようだ。

 ラソキスもそこへ割って入る。


「私もすぐに一人は勘弁してもらいたいです。」


 人間に近い頭脳を持っているんだ、一人が寂しいと思うのも当たり前か。


「あたしだってはるばるこんな所まで来たんだ、すぐにお陀仏は勘弁したいが、こればっかりは着いてみないと分からないよ。」

「グティレスさんは、なぜこんな過酷な探索に志願したのです?」


 無口なようで、あまり聞いてほしくないとこを突いてくるね。ここは一つかましてみるか。


「この星のアダムとイヴになりたかったのさ。」


 その言葉に四条は言葉を失い、少し顔をそむける。ほぅ以外に純情かもね。


「あはははは、冗談だよ。理由はいろいろあるのさ、その内話す機会があれば言うさ。生きていればね。」

「二人しかいない人間なのに嫌われますよ。」


 ぼそっとソキウスは呟いていたが無視をした。




 それから一通りの準備を済ませ、装備も確認した。

 僅かなばかりの仮眠を取っている間に目的地は近づいてきていた。

 映像からみる惑星キーバは、見れば見るほど地球に似ている。

 回りまわって地球に帰ってきたのかと錯覚しそうだ。

 ほどなく宇宙船は降下態勢に入った。

 宇宙船はゆっくりと降下をはじめ惑星キーバへ降りて行く。

 段々と赤みを帯びて。



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