骸族
霧が晴れると、今まで沼があったところに、丸太で作られた塀が取り囲んでいた。
塀は沼をとり囲むように建っており、高さは人間の倍程度、丁度町の塀と同じくらいだ。目の前は入口と思われる木製の門がある。中の様子はここからでは分からない。
「お父さん、これは一体?」
「私にも分からない。……いや、もしかしたら。」
「何か心辺りでも。」
「噂話で聞いた程度だが、霧と共に現れ霧と共に消え去る一族がいる話を聞いたことがある。名を骸族と言う。」
おどろおどろしい名前だ。名は体を表すと言うが、この場合は違ってほしい。
「その名の通り、肉体を持たない骸達が住んでいる所らしい。」
速攻でフラグ回収。
「どうするの。」
「興味が無いと言えば嘘になるが……」
その時だった。目の前の門が軋む音をたてながら開きだした。
外はもう霧が晴れているのに、開いてくる扉の中からは霧が湧き出てくる。
そのせいで扉の中を覗いて見るが、はっきりとは分からない。建物らしきものがあるみたいだが、生き物の気配は無い。
「誘っているのか?那柚、『察知』の方は?」
「気配はありません。」
どうやら誰も居ないらしい、と思いたいが得体の知れない何かを感じている。
それは赤峰さん達も同じらしく、警戒は全く解いていない。
そして霧の奥から何者かがこちらに近づいて来た。
全身にローブをまとい、顔もフードで覆われ俯いているため、人間のようなものとしか分からない。足音も無く門まで来ると立ち止まり喋りだした。
「ここは骸族の里、入られますか。」
赤峰さんの言う通りこれは骸族の建物らしい。どうやって出現したのかと言う疑問もあるが、今一番思うことは、那柚さんの察知に反応してないですが、あちらの方ですかと聞いてみたい。
「いきなりの招待だが、ここが骸族の里と言う証拠はあるのか。」
その質問はやばい気がする。
案の定、問いかけてきたものは緩やかに頭をもたげ顔が見えてきた。那柚さんが口に手をあてながら声を上げる。
「ひっ」
女性ならほとんどそうなるだろうし、男性でも同じ反応する人は多いだろう。
持ち上げた顔は、やはりと言うか、髑髏そのものだった。
「これでよろしいでしょうか。」
口の部分が声と連動しながら動いている。骨だけでどうやって音をだしているのだろうと考えたが、ここは地球じゃなかった、と気づき考えるのをやめた。
「すまない。私も噂話でしか聞いたことが無かったので、試させてもらった。ありがとう。」
「いえ、生者でしたら当然です。正直いいますと、長よりあなた方をお連れするように伺っていましたが、私の姿を見ると逃げだすので無駄だと思っていたのです。改めて伺います。中へ入って下さいませんか。長がお待ちです。」
いきなり現れて骸族が来たと思えば、長に会ってくれとか、話が飛びすぎる。
赤峰さんがこの世界は地球に非常に近い、と言っていたことが遠くに聞こえる。
「あなたに聞いても分からないかも知れないが、長が私達に会う理由は?」
「この世界のため、としか。」
「……相談をする時間をくれないか。」
「分かりました。ここでお待ちしています。」
赤峰さんは俺たちを集め話し始めた。
「二人ともどう思う。」
俺はまだこの世界のことをよく分かっていないのに、聞いてくれる気遣いがうれしい。
「あまり行きたくないけど、お父さんのいう通りにします。」
「俺もどう判断していいか、なので赤峰さんに任せます。」
「分かった。」
そう言ってしばし赤峰さんは考え込んでいたが、
「すまないが、私は行ってみようと思う。危険が無いとは言えないが、こんなチャンスは二度と無いかもしれない。長が直々にというのも気になる。本当は二人を巻き込みたくはない。しかし、那柚と体力に不安のある御雲君をここから帰すことは返って危険だろう。悪いが一緒に来てくれるか。」
俺と那柚さんは二つ返事をした。何となくそんな気はしていた。
噂話でしか聞いたことがないものが、目の前に現れたら興味を示すのは当然だし、今を逃せば二度と巡り合うことはないかもしれない。
俺があの時怪我をしなければ、ここでのめぐり逢いは無かったのだろうか。
それとも必然だったのだろうか、そんなことをふと考えてしまう。
赤峰さんは例の骸族と話している。これから入ることになるだろう。今までとは、また違った緊張感に包まれてきていた。
「では、私について来てください。」
中に入ると霧はあるものの、建物の様子が大分良く分かるようになった。建築物はほぼ全て木造で古い日本建築、ここだけ日本の中世以前で時が止まっている感じがする。
人気は全くないが、骸族は中にいるかもしれない。
ほどなく正面に大きな社が見えて来た。おそらく長の建物ではないだろうか。ここは神社に近い形状の建物だ。
先導の骸族は、玉垣を抜けその中に入り、拝殿らしき建物まで俺達を案内した。
「長、お連れ致しました。」
「うむ、ご苦労、下がってよいぞ。」
拝殿の中から、年老いた男性の低い声が聞こえ、その主はゆっくりとこちらに近づいて来た。
やや遠めからでもはっきり分かるシルエット。長はフードなど被ってなく、体と腰に布は巻いているが、骸骨そのものが、よく分かる姿で現れた。
那柚さんは、それを見てやはりひるんだが、俺はなんだか耐性がついていた。
「お呼び建てしてすまない。この里の長をやらしてもらっている、恒石じゃ。」
日本人のような名前に若干親近感が湧く。
「初めまして、私は赤嶺 影徹、こちらは娘の那柚と、一緒に旅をしている御雲というものです。」
「こちらこそ。特に御雲とやら、まだこちらに来て間もないのに、さぞ驚いたことじゃろう。」
この言葉に三人ともぎょっとした。
この里に入ってから、いやこの森に入ってからそんなことは喋ってなかったのだから当然の反応だった。
「なぜそんなことを。」
「匂いがね。この世界の人間とは違うのさ。心配しなくても時機に分からなくなる。」
鼻が無いのに鼻が利くとは意味が分からない。
「そんなことはいい、本題に入ろうじゃないか。赤峰とやら火球を調べに行くのだろう?」
「どうしてそれを。」
「儂らも気になっておったんじゃ、それが普通の物ではないことを。そしてお告げがあり、あんた達に協力をしろと言われた。」
「お告げとは。」
「この里は六陣精霊の一つ、アミモスを祭っている。お告げはそこからじゃ。」
「六陣精霊は、はるか昔いなくなったのでは。」
「それは間違いじゃ、いなくなったのでは無い。この世界の種族と交流をしなくなっただけじゃ。」
これが事実で、俺がもしこの世界の住人なら衝撃だろう。
いなくなったのと、いるけど返事をしないだけでは、意味が全く違ってくる。現に赤峰さん達は固まっている。
「そ、それは本当のことなのですか。」
「少し喋りすぎたようじゃ、それに関してはこれ以上わしからは言えん。ただ時は近いとだけ言っておこう。話を戻すぞ、あんた達に協力をしたい。この里の者を一人仲間に加えようと思う。」
六陣精霊の話は、これ以上掘り下げられないみたいだ。
なりより今度は、協力者の話である。だが信用は出来るのだろうか。そのことは赤峰さんも同意見だったようだ。
「ありがたいお話ですが、はっきり言ってまだお会いしたばかり、お互い信用できるか、問題もあると思いますが。」
「心配はせずとも、こちらに危害が加えられることが無ければ、あんたらの命令に拒否はしないように言ってある。」
「しかし、私どもは火球の調査が終わると、そのまま鳳明へ向かいますので、こちらへは帰って来ません。」
「それも問題ない、調査が終わった後、何処へでも連れまわして結構じゃ、町に入る際は仮面をつけてもらう。それもダメなら郊外に放ってもらっていい。」
「ですが……」
「攻撃の六法符、『風陣』はもう一枚しか残ってないのだろう。儂の提案を受け入れてくれれば、参の伍符をもう五枚くれてもいいが、どうじゃ。」
この提案は、赤峰の心を惑わすのに十分だったみたいだ。断ろうとしていた勢いがそがれてしまった。
旅はまだ三分の一もきていないはずだ。予定外に『風神』を使ってしまっている現状に、この話は願ってもないことだ。
ただ骸族の協力者をつけないことには、もらうことは出来ない。難しい判断だ。
「そんなに困ることではないと思うがの、羽屋戸や、出てきなさい。」
「はっ。」
声と同時に後ろからもう一人骸族が現れた。
全く気がつかなかった。
羽屋戸と呼ばれる者は俺達の横に並ぶと、ひざまづき長に向かってこうべを垂れた。
長と同じような恰好をしているが、背中に全体が濃い紺色をした、一振りの刀を背負っている。
「同行させようと思っておる、羽屋戸じゃ、ほれ挨拶をせい。」
「羽屋戸だ。」
男性の声だがトーンは低く、ややぶっきらぼうな挨拶だ。声の調子だけみると、そんなに付いて来たい感じは受けない。
「まだ一緒に行くとは。」
赤峰さんは、やや戸惑った感じで答えていた。
「やれやれ、……この里は時間と空間が歪んでおる、裏から出ると孤月山の麓に出られるぞ。時間短縮にもなるのではないかな。それと羽屋戸は斬を習得しておる、心強いと思うがどうじゃ。」
「斬を習得?」
それがどういうことかは、俺はよく分からないが、赤峰さんのまさか、というふうな表情からすると、割とすごいことみたいだ。
こうしてみるとかなりゴリ押しではあるが、はっきり言って好条件のオンパレードである。
逆に疑いの目を向けたくなるが、この先のことを考えると受けない手はないように見える。
あとは赤峰さんがどう判断するかだが、断ることは勿体無い気もする。
しかし俺の体のことも考えてくれているはずなので、難しい所だと思っていたら、それを見透かしたように、長がこちらを向いて喋りだす。
「御雲とやら、負傷して傷は癒えたみたいだが、体力の回復に不安がまだあるのじゃろう。これをやるから食べなされ。」
その言葉と同時に、ここまで連れて来てもらった骸族が、後ろから現れた。
両手の上に木製の盆があり、それにはヘタの無いミカンのような青白い果物と思われるものが乗っていた。
「これは、快成樹の実ですか?」
赤峰さんが驚きの声を上げた。
「そのとおりじゃ。」
「ここにまさか快成樹があるのですか。」
「さあな、あるかもしれんし、ないかもしれん。」
「お父さん、快成樹って一体?」
「快成樹とは、病気や怪我の治療、体力回復に絶大な効果をある実がなると言われている幻の木だ。私も子供の頃一度だけ見たことはあるが、うる覚えだ。」
それが本当だとすると、これを食べて体力回復をしろと促しているのだろう。
赤峰さんの反応を見るに、本物に間違いないようだが。
もう地球と違う果物が出て来ても驚きはしないが、こんな所で出て来たものを食べると骸族になってしまうのでは、とか想像してしまう。
「かっかっかっ、それは正真正銘、快成樹の実じゃよ。毒見をしたいのは山々じゃが、あいにくの体での、食することが無理なら引っ込めるがどうする。」
体力回復してくれるなら、とてもありがたいものだが、まだ迷いはある。かといってゆっくり考える時間もなさそうだと思っていると。
「分かりました。ありがたく頂きます。」
赤峰さんはそう言うと、快成樹の実を手に取り皮をむき始めた。
むき終わると中身もミカンのように房があり、何房か分かれている。ただしその色は橙色ではなく、真っ白である。
俺が食うのかと考えている暇も与えず、その内の一つを赤峰さんは手に取り口に入れた。
「えっお父さん?」
那柚さんが制する間もなかった。
「これは美味い。」
そう言って口の中で十分堪能した後、快成樹の実を飲み込んだ。
恐らく赤峰さんは俺が迷っているとみて、毒見をしてくれたのだろう。
もし何かあれば那柚さんがとても悲しむだろうに、申し訳ない気持ちで一杯になった。
「御雲君、これは快成樹の実で間違いないと思う。食べたばかりだが体に力が湧いて来る感じがする。食べてみないか。」
そう言って快成樹の実を俺に手渡そうとした。
ここまでしてくれて食べない訳にはいかない。
俺は覚悟を決めそれを手に取り口に入れた。
美味い、ミカンよりもやわらかな触感に、甘さも上だ。今まで食べたどの果物よりもおいしいかもしれない。
俺は次々に口に入れ最後の一房になった。
とここで視線が気になった。
那柚さんが俺の方をじっと見ているのである
特に口にはしてないが、顔には私も食べたいと書いていた。
「那、那柚さんも食べます?」
「いいのですか、では頂きますね。」
あっと言う間に口に入れ頬張り、今度は赤峰さんが制する間もなかった。
これで三人共食べたのだから何かあっても一蓮托生である。
しかしそれは杞憂だとすぐ分かる。
すぐに全身が熱くなるような気がし、体の底から力が沸き上がる感じがしてきた。
「どうじゃ、気に入ってもらえたかの。」
「ありがとうございます。快成樹の実、確かに頂きました。」
「では。」
「はい。同行者をお受けいたします。」
「おおっ、そうかそうか、よろしく頼む。では羽屋戸よ、お前に渡したいものがある。こっちに来なさい。」
羽屋戸はそう言われると立ち上がり、本殿の奥に向かって行く、長の後をついていった。俺達三人しかいなくなった所で赤峰さんが話し出す。
「すまない、同行者を勝手に決めてしまって。」
「快成樹の実も食べたし、あの条件で断ることなんて出来なかったでしょ。それよりあの羽屋戸さんは信用できるのかしら。」
俺も同意見である。
「これは私の考えだが、火球の調査、もしくは火球その物が目的なら、自分達で行ってもいいはずだし、私達の後をつけ調査した後、それを横取りすることもできるはずだ。何しろ『察知』に反応しないのだからな。」
確かにそうだ。『察知』で気づけない以上近づいて来ても分からない。これはかなり怖い、逆に味方であるなら心強い。
「それにあの佇まい、只者ではないだろう。その気になればここで私達を始末することができたはずだ。そう考えると付いて行くことに、何か重要な意味があるのだろう。」
赤峰さんの意見は的を射ていて、反論の余地はない。
ところであの意味を聞いてみよう。
「あの斬って何ですか。」
「斬とは、この世界の武術だ。武術は武具の種類によって違い斬、突、撃の三つがあり、それぞれの技に四つの位がある。斬は剣、刀等を扱い極めることを目的とする武術。羽屋戸君がどれほど技を習得しているかは知らないが、一つを得るだけでもかなり難しい。」
「お父さんは今まで見たことあるの。」
「そうだな、私も斬の習得者に会ったことはあるが、技は一回しか見たことがない。むやみやたらに見せるものではなく、自分が必要な時にしか出さないそうだ。ところで御雲君、体の調子はどんな感じだい。」
「自分でも信じられない位、力がわいてきている気がします。快成樹の実ってすごいですね。」
「それは良かった。つくづくここは不思議な所だな。時間があればじっくり調べたいところだ。」
それはやめてほしいと、俺と那柚さんは苦笑いをした。
などと話している内に羽屋戸は帰って来た。
入るときは簡単な布を纏っただけだったが、今は体に紺色のローブを身に着け頭はフードで隠している。足にはブーツを履き、手には手袋をつけている。手袋は素契紋ではない。
そして肝心の顔には、黒一色の面をつけていた。目の部分に穴が開いているだけで、これはこれで不気味さが漂う。
しかしこれで見た目は、完全に骸骨の部分が消えていた。
それと、背中の刀は二本になっていた。
一本は今まで背負っていた腰位までの長さのかたなで、もう一本はそれよりも長く膝近くまである、こちらは黒でほぼ統一されているが、鍔だけは真紅に染まっていた。
「またせた。」
羽屋戸が俺達の前まで来て、短く発した。長とは違いあまり喋るタイプではないみたいだ。
「もう準備はいいのか。」
赤峰さんが確認をしてくれている。
「問題ない。あと骸族に基本衣食住は必要ない。よって旅先で我の食事はいらぬし。寝ることもないので寝床も必要ない。ここの里にある建物は人間だった時の名残だ。」
ここでまた新たな事実が出て来た。
骸族はどうやら元々人間だったようだ。
人間の骸骨なので当然と言えば当然だが、この世界では骸族という固有人種がいても、不思議ではないとも思っていた。
「分かった。すまないが出口まで案内してくれるか。」
羽屋戸は何も言わず、頷くと進みだした。
その後を俺達も付いて行く。どうも来た時と違う方向なので長が言っていた裏口に向かっているのだろう。
物の数分で歩みは終わり、入り口とは明らかに違う門に着いた。いや門と言うより勝手口に近い。木製で人が一人通れる位の片開きの扉があるだけだ。
「ここから出る。」
羽屋戸はやはり必要最小限しか話さない人物らしい。
「ここを出ると孤月山に。」
「そうだ。」
大幅な短縮が出来てうれしいのだが、時間と空間が歪んでいるこの里なら琥珀湖までつなぐことは、出来なかったのだろうかと思ってしまった。
「行くぞ。」
静かにそう言って羽屋戸は扉を開け外に出た。
外に出ると里の中を覆っていた霧はもちろん無かったが、もう夕方が近いらしくだいぶ日が傾いていた。
見上げるとあまり木々が生えていない山々がそびえ立っている。
標高はそれほど高くないみたいだが、足場が悪そうなので登りたいとは、あまり思えない。
中腹より少し下に穴が開いているのが見える。
「ここは、確かに孤月山の麓で間違いない。あそこに見えているのは孤月の洞窟の入口だ。」
赤峰さんが言うのだから、間違いないだろう。
その時だった那柚さんが声を上げる。
「里が……」
後ろを振り向くと霧海の森が広がっているだけで、骸族の里は姿形もない。
「まさに幻の里だな。」
呟くように赤峰さんは言った。
けれども感慨に浸る様子もなかった羽屋戸は、俺達もすっかり忘れていた物を出してくれる。
「これを長から預かっていた、渡しておく。」
くれたのは六法符である。
長が言っていた通り伍符の参が五枚ある。
これから先、これがあると無いのとでは大違いと言うのは、まだこちらに来て日が浅い俺でも分かる。
赤峰さんは礼をいいそれを受け取った。
「今日はあの孤月の洞窟まで行き、入口を利用して泊まることにしよう。」
反対意見が出るはずもなく、それにみんな従った。
夕飯を食べた後、赤峰さんが孤月の洞窟について簡単に話し始めた。
「羽屋戸君はこの洞窟は入ったことは?」
「無い。それと私のことは羽屋戸でいい。」
「了解したが私はもう少し羽屋戸君と呼ばせてもらうよ」
何かこだわりがあるのだろうか。
「ではこの洞窟について簡単に説明しようと思う。この洞窟は孤月山を縦断している。抜けると琥珀湖が見える。多分半日も歩けば出口に着くはずだ。途中何ヵ所か分かれ道があるが、道は私が知っているので安心してくれ。ただそんなに多くはないだろうが、魔強獣は遭遇する可能性はある。みんな警戒は怠らないように注意してくれ。出発は明日、日が昇ってからにする。あと見張りは四人で交代しようと思う。」
「我がする。あとは休んでくれ。」
羽屋戸が声を上げた。
確か寝なくていいと言っていたし、夕食もとってない。
しかし会って間もない者に任せるのは不安だ。
「信用できないなら、誰か起きていてもいい。無駄な体力を使うだけだがな。」
痛い所をついてきた。途中で起きて見張りをすれば、やはり気力も体力も使う。睡眠が必要でない羽屋戸はうってつけの役回りだと思うが。
「しかし羽屋戸君は、六法符を使えないのだろう。敵が気配を消して近づいてきたらどうする。」
「『察知』ほどではないが、気配は感じることが出来るし、夜目もきく。大丈夫だ。」
少し赤峰さんは悩んでいたが結論を出した。
「分かった。羽屋戸君に任せよう。何か近づいてきたら知らせてくれ。」
「了解だ。」
羽屋戸に一任することにしたらしい。
あそこまで言うのだから自信があるのだろう。
それにここで信用しなければ、後々しこりが残りそうだ。
ただ俺はこんな所で寝るのは初めてなので、寝付けるかどうか心配だったが杞憂だった。。