転移
……ここは?……
目が覚めると見覚えのない部屋にいた。ゆっくりと体を起こしながらもう一度辺りを見渡す。病院かな?と思ったがそんな雰囲気でもない。
病室というよりただの部屋、それもだいぶ古風な感じの、そう思いながら部屋の中を見渡す。天井、壁、床全て木板と丸太で作ってある。病院と言うよりも山小屋に近い。
高智県は地方の田舎で間違いないが、それでもこんな病院があるとは地元の俺も聞いたことがない。小綺麗にはしているがそれらしき設備も無く、ここは病院ではなくどこかの宿泊施設か何かと考えた方が妥当だろう。
ただそうなると何故こんな所にいるのかという疑問が生まれる。
あの時のことは少し曖昧だが、目の前が大きくゆがみながら、回り始め、叫んだ所までしか記憶が無い。おそらくそこで気を失ったのだろう。
もしそこで倒れたなら救急車で病院に運ばれた可能性が高いと思うが、現状そんな感じの場所ではない。
上着はないが服もそのままだ、近くの建物にでも仮に入れられたのかと考えてみたが、そんなことをする意味があるのだろうか。
幸いにも頭はハッキリとしていて、体の方も全く問題ないみたいなので、部屋の外を少し覗いてみようと、カーテンを開け窓の外を見た。
今いる場所は建物の二階らしく、目の前の景色には生い茂った木々や小鳥、蝶が元気に飛んでいる様子がうかがえる。遠くの山々には新緑が散りばめられていた。
とここで気づいた。
今は十二月だよな、ひょっとして何か月も寝ていたとか、いやそれはここが病院じゃない以上考えにくいし、気を失った時と同じ服のままと言うのも変だ。
そうだ確認すればいいと思いつきスマホを探す。服には入ってなかったので、辺りを見回すと、ベッドの横にあった台の上に置いてあるのを見つけた。
それを早速手に取り操作を始める。
電源が切れていたので、入れたのだが電波が繋がらない。
このご時世に繋がらないなんて、山奥か地下ぐらいだと思うが、考えられるとしたら山奥か。
それでも人が入る施設に届かないなんて、ちょっと考えられない。
さらに不思議なのは着信履歴やメール等の受信も一切入ってないのだ。
俺がものすごく早く此処に運び込まれたとしても、全く入って無いこと等あるのだろうか。
いろいろと訳の分からないことだらけで、少し不安になり始めた時、正面にあるドアが開き若い女性が入ってきた。
「あっ、気が付いていたのですね。大丈夫ですか?」
そう言いながらゆっくりと近づいて来た彼女は、少し地味ではあるが可愛らしいワンピース姿で、手には刺繍の入ったロンググローブをしていた。その刺繍は何か不思議な感じで光っているように見える。
体型はスラリとしているが、出ている所は出ている。
やわらかそうな黒髪は後ろでくくり、ポニーテールにしている、髪をおろすと胸位の長さはありそうだ。
つぶらな瞳にスッとした鼻も相まみえ美人と言ってもいいだろう、年は俺と同じくらいだろうか、ただ看護師には見えないが。
「ここはどこですか?」
つい反射的に質問をしてしまったが、女性は少し微笑み優しく答えてくれた。
「ここは木白町よ。森で倒れていたあなたを父がこの家まで運んで来たの。」
「……」
おかしいな少なくとも高智県にそんな村はない、それに森で倒れていたというのも変だ。
からかわれたのか、それともなごますための冗談?そう思いつつもう少し切り込んで聞いてみた。
「えっと、ここの住所を教えてもらっていいですか。」
女性はさっきと変わらない優しい笑顔で答える。
「住所ですか?ここは吾郷藩木白町奥東野十八番地ですよ」
「……」
これはダメだ、かみ合わない、藩ってなんだ、江戸時代じゃあるまいし。
いやそう言う問題じゃない、もっと分かるように聞いてみよう。
「あの、ここは高智県ですよね。」
女性は少し怪訝な表情をしながら答える
「こうち県?剣のことですか?」
やっぱりダメだ、俺がおかしいのか?それともからかわれているのか?いや少なくとも倒れていた人間に対する冗談では済まされないレベルだ。
訳が分からない表情をしている俺を横目に、女性は変わらず優しく声を掛けてくれた。
「大丈夫ですか、少し混乱しているみたいですね。今食事を持って来ますので、それを食べて落ち着いてくださいね」
そう言うと彼女は部屋を出て行った。
原因はあなたですと言いたかったが取り敢えず我慢した。
少し落ち着こう、そういえば腹も減っているし詳しく聞くのはそれからでもいい。そう自分に言い聞かせていると、ほどなく女性は帰ってきた。
食事の用意はしていたのだろう、ベッドの横に簡易テーブルを置き、準備をしてくれている。
気分も少し落ち着いてきたので頂こうかと思い食事に目をやると、再び混乱に陥った。
目の前には水とパンとスープがある。
水は問題ない、パンも普段みるパンとは少し違う気もするが許容範囲内だ。
しかしスープがおかしい。色は透き通った紫色で、具の方には真っ赤な色をしたトゲトゲの団子状のものや水色のバネみたいな物がいくつか入っている。
これはなんの嫌がらせだろうか。
俺はもしかしてとんでもない所にいるのでは、それとも彼女に恨みでも買っていたのだろうか、いやいやどうみても初対面のはずだ。
こんな可愛い子と面識があれば覚えていないはずはない。
ますます訳が分からなくなるがもう一度話してみようと思い、
「……あの、このスープは何ですか?」
「赤鳥と発条草のスープよ。とても栄養があるからすぐ元気がでるはずですよ」
はい終了。もう何を質問しても無駄だと悟る。
女性はくったくのない笑顔で説明をしてくれるのが返って怖い。
正直あの笑顔を見ると嫌がらせをしているとは、とても思えないが現実はそうとしか考えられない答えばかりだ。
と、ここにきていくつかの仮説が浮かび上がってくる。
一、これは壮大なドッキリ企画。
いやこれは俺が最初に倒れることが、前提にならないといけないのでほぼ無い。俺らを眠らすことまでドッキリに入っていたら警察案件だ。
二、倒れて運ばれる途中で誰かに拉致をされた。某国が関わっているとか。
これも今の状況からすると考えづらく、拉致をしてこんな冗談をする意味がない。
三、これはあまり考えたくはないが、もう俺は死後の世界に行っている。
ただ死後の世界はもちろん知らないが、これはあまりに現実感がありすぎる気がする。リアルなんだよな、いろんな意味で。
四、残る仮説は少し怖いが、この女性がサイコさんの可能性。
これも女性の言動と行動はそれにばっちり合うが、鍾乳洞で倒れた俺をピンポイントで狙いここに連れて来る、というのも少し無理があるような。
しかし現実その可能性が一番高いような気もしながら、ふと顔を上げ彼女の方を見る。
どうぞ召し上がってと言わんばかりの笑顔だ。
本当のサイコさんはこの笑顔をつくれるのかと思い、こちらもまけず笑顔で答えるが、たぶん少しひきつっていると思う。
とその時だった一人の男が部屋に入って来た。
「やあ、食事中にすまないがお邪魔するよ。目が覚めたと娘に聞いたんでね。」
ノックも無くいきなり男性が入って来た。
年は五十歳位だろうか、しかし中年の体型はしていない。腹が出ている訳でも、髪が薄いわけでもなくスマートでいい体型をしている。
顔も無精ひげも無く清潔感が漂っている、ダンディなおじさんという感じだ。
ただサイコさんじゃないことを祈ろう。
「いろいろ聞きたいことが君にはあるが、まず自己紹介をさせてもらうよ、私の名前は”赤峰 影徹2、こっちは娘の”那柚”だ。森の中に倒れていた君を、とりあえず私の家まで運ばしてもらった。」
森の下りは娘さんと一緒だが、何となくサイコさんとは違う気がする。
そう願いたいと言う願望かもしれないが。
「どういうことだ、という感じだね。無理もない、そのあたりを詳しく説明をしようと思うが、その前に君の名前を教えてくれないか」
まだ不信感は残っているが、現状を確認するには話を聞くしかない。
「俺の名は“御雲 勇然”です」
「御雲君か、体の方は大丈夫かい。」
「特に問題は無いと思います。」
「それは良かった。せかして悪いが早速本題に入りたいと思う。君は地球人か?」
はい二度目の終了。
サイコさんの娘でも親は違うと思いたかったが甘かった。
しかしこの状況は割とやばいかも。俺は生きてここを出られるのか?
そんなことを考えている間にも赤峰は話を続ける。
「おいおい、その変な目はやめてくれ。君の気持は分かる、私も同じようなことを言われたらそうなるだろう。しかしその反応からして御雲君は地球人で間違いないようだね。それがどういうことか順を追って説明するから落ち着いて聞いてくれ。」
どうやら丁寧に説明をしてくれるらしい。話を聞き流してどう脱出するかを考えよう。
「そして君が信じようが信じまいがこれから言うことは真実だ。まずここは地球ではない。君が倒れていた森は、霧海の森と言われていて昔から時々君のような人、つまり地球から来る人間が現れる場所なんだ。森には薄明の神殿と呼ばれる所があり、その場所に地球人が来ると神殿から一筋の光が天に向かって伸びる、事実その現象が起きたので森に入ると、言い伝え通り薄明の神殿に君は倒れていた。さらに服装もこの辺では見かけない服を着ていた。以上の点から私は君が地球から来たと踏んだ訳だがどうだろう。」
聞き流すつもりだったが、つい聞き入ってしまった。
作り話にしても、もう少し信用出来そうなのを持って来るべきだと思ったが、次の話で展開が変わって来る
「今の御雲君にこの話を信じてくれと言うのも難しいだろう。そこで一つ証拠を見せようと思う。そこの窓から空を見上げてくれないか。」
もう無視しても良かったが、サイコさんに反抗的な態度を取って、怒らしては不味いなと思い、俺は訝りながら言われた通り空を見上げた。
雲一つない青空に太陽が二つ見える。
二つ?あり得ない。
よく見てみると太陽は、大きさも明るさも違うがあるのは間違いない。
一つはいつも見ている太陽と同じ感じだが、もう一つはそれよりも一回りは小さい。輝きもその分劣っているみたいだ。ただ今まで見たことの無い景色であることは間違いない。
そして驚く俺をさとすように赤峰さんは話を続けた。
「君達の地球には太陽は一つだと聞いている。ちなみに月も二つある、夜になったら確かめてみるといい。これで少しは信用してもらえたかな。」
嘘だ。心の中でそう呟いていた。
そう思い窓に手を伸ばしたが、俺の手に太陽の暖かさや、僅かであるが影も二重に写っている。
突きつけられる現実がまがい物の可能性を崩していく。
建物や食事は作ることは出来るだろう、季節だって南半球にいるとすれば理解できる。
だが太陽の件はどうしようもない現実として目の前に立ちはだかった。
力なくもう一度外を見上げるが残念ながらやはり二つ見える。
何か他の仕掛けがあるはずと思いたい自分と、恐らくそれはないと諦めている自分がせめぎ合っている。
しかし次第に諦めの自分が勝ち始め、ゆっくりと底なし沼に落ちて行くような不安が心の中に広がり始める。
それでも何とかここは地球だ、と思い浮かんできた疑問を赤峰に問いただす。
「ここが……地球じゃなかったら、どうしてあなた方は日本語で話しているのです。」
「その話は簡単だ。我々の祖先も地球からこの世界に飛ばされて来た地球人だからだ。日本人は特に多く来ていて、私の直系も日本人だ。故に日本語を喋れる。」
ここには地球から来た人間がいて赤峰さん達はその子孫。
そんなバカな話があるかと思いたいが、俺みたいな状況が昔から繰り返されていたなら否定は出来ない。
いや否定よりも肯定が頭の中を駆け巡ろうとしていた。だがまだ何か他におかしな点があるはずだと、考えようとしていた時。
「心配しなくても大丈夫ですよ。」
声を掛けてくれたのは那柚さんだった。笑顔でこちらを向いている。
この話が本当だとすると、彼女は最初からおかしなことなんて言ってなかった。
俺が変な目を向けているのも気づいていただろうに、変わりなく接してくれていた。
誰だ、サイコさんなんて思った奴は。
俺は自分が恥ずかしかった。
「地球のことは詳しく知りませんが、ここも似たような環境だと聞きます。でなければ私達のご先祖様は暮らしていけなかったはずです。慣れるまでは私達が御雲さんをお手伝いしていきます。元気出してください。」
まだ頭の中は整理が出来ていない。百パーセントここが地球じゃないと思っている訳でもない。
しかし何かを突き止めるとしても、まず生きなければならない。生きていくとしたら誰かの助けがないと無理だろう。
幾分落ち着きひとまず彼らのこと信じてみようと思った時、ふとここに来た経緯が浮かんでくる。そしてあの鍾乳洞での出来事を思い出していた。
「すみません、取り乱してしまって。一つ聞きたいのですが俺がここに飛ばされた時、三人の友達と一緒でした。他に、俺の他に誰かいませんでしたか。」
期待と不安を入り混じらせながらの質問だったが、赤峰さんは首を振って答えた。
「いたのは君一人だったよ。さっきも話したが君が居た場所は、薄明の神殿の中だった。ここは入口が一つだけだ。私が入った時、その扉はしばらく開けた形跡もなかったし、念のため神殿の周りも調べたが誰もいなかったよ。」
「そうですか……もしかしたらと思ったのですが。」
来ていたら良かったと言えるかどうかは別としても、やはり少し残念な気がしていた時、赤峰が諭すように話しだした。
「ただ、薄明の神殿と似たような、遺跡はここだけじゃなく幾つかある。ひょっとしたらそこに飛ばされている可能性もあるので、もしそれらしき情報があれば連絡することは約束しよう。」
赤峰さんの言葉は嬉しかった。俺を懐柔する意味もあったかもしれないが、疑ってかかっても切りが無い。
現時点では赤峰さん達を信じて行動するしかないと思った。
もし俺に何かをするつもりだったら、寝ている間に出来たはずだ。怪しい所が出てくるのであれば、その時考えればいい。
「ありがとうございます。」
「少し元気が出て来たようだね。では今から簡単にこの世界のことについて話そうと思う。時間があまりないので、かいつまんでになるが、聞いてくれ。」
「分かりました」
まだ元気な返事は出来ないが、とりあえず今は自分の置かれている状況を確認しよう。
「まず、ここはアネミラという星だ。大きさは地球ほどと考えられている。この星には一つの大きな大陸があり、そこに四つの国がある。ここはその中の一つ“仁翻”国、元日本人が大多数を占める国で名前も倣っている。それと人間が治める国がもう一つ“トバリフ”国、ここは日本人が半分、欧米人が半分といった所だ。それからこの世界に最初から住んでいた異種族の国、ルベルタとコルヌイ国の二つ、ここは我々と交流もしている。最後にもう一つアルクスト国があるが、ここは大陸から離れた島にある、こちらと交流はいっさい無いのでどういった国かは不明だ。言語については、日本語が喋れればアルクス以外なら、大体何処でも通じると思ってもらっていい。」
「異種族もいるのに日本語が通じるのですか。」
「それは、この世界に地球人が、最初に飛ばされて来た時代に遡る。約千年前という話だが、その数は大規模で約一万人位だと言われている。今では想像もつかないが村ごと来た所もあるらしい。千年の間、祖先達は開拓を進め子孫を増やし何とか繁栄して来た。その中で人口の七~八割を占めていた日本人の言語である日本語が主流となり、この世界では共通言語となったと言われている。異種族との交流は当初からあったらしく、こちらと交易をしている内に日本語が通じるようになったという訳だ。」
日本語が共通言語とは、地球では考えられないが、この状況下を考えるとありがたい話だ。成り行きも理解できる。こうなると異種族のことが気になるな。
「異種族とはどんな者なのですか?」
「そうだな。大きな分類でまとめると言うと人間と大差ない。文明度も当時来た日本人と変わらなかったみたいだ。町に出ると会うこともあるだろうから、自分の目で見た方が早いだろう。」
確かにここで説明を聞くより、見た方が早い気もする。聞いた感じだと町に居るみたいだしな。
「今いるこの国は、ほぼ日本人の国だとさっきも話したが、いくつかの藩に分かれており、それぞれの藩を治める長がいる。そしてそれを束ねるのが仁翻国の君主だ。」
藩は江戸時代から来た人に倣ったのだろうか。長は殿様で、君主は関白あたりか。その辺はおいおい聞くことにしよう。
「それとこの世界は色んなことが地球に似ている。一日は二十四時間、一年は三百六十日、気候も暑さ寒さはあるが、ほぼどの土地でも暮らしていける。水もあるし食料も形は違うかもしれないが、味が似ている食べ物も沢山ある。」
確かに地球と変わらないことが多いようだ。
そのことが返って混乱を招いているともいえる。
食べ物も見た目は食欲をそそらないが、味は大丈夫なのだろう、多分。
この世界のことが何となく分かってきたが、どうしても聞いておきたいことがあった。
「いろいろ説明ありがとうございます、一つ聞きたいのですが、地球には帰れる方法はあるのですか。」
僅かに沈黙が漂ったが、ゆっくりと赤峰が話し出す。
「その件については諦めてもらう方がいいだろう。君と同じようにここに来た人達で、帰りたいと思った人は当然一人や二人ではない。地球人なら誰しもが思うことだ。しかし先人達はありとあらゆる手段と可能性を求めて、帰ろうと試みたが全て失敗に終わっている。勿論私達が知らない所で、成功している可能性がゼロとは言わないが、限りなく低いだろう。そのことにこれからの人生を費やすよりも、ここでより良く暮らしていくことを考えた方がいいと私は思う。」
やはりと言う感じだった。
いやよく考えてみると帰れないのは当たり前のことかもしれない。
この世界から地球に帰った人がいたなら、地球でなにかしら記録や伝承が残っていてもおかしくはない。帰っても変人扱いされて相手にされなかったら別だが、少なくともまともに大勢が帰れる手段は無いのだろう。
それでも、何か帰れる手段があるのではないかと一瞬期待はしたのだが、無情にも希望は潰えたといっていい。
ゼロでは無い、それは先人達が挑戦していなければ、やる価値も少しはあるだろう。
しかし今まで発見されなかったものが新たに見つかるという可能性は限りなく少ないはずだ。
僅かの可能性にこれからの人生を賭けるのか、それともこの世界で新しい生活をしていくのか、迷う所はあるが此処での生活が、悪くないなら後者の方がいいだろう。
「そうですね、残念な気持ちはありますが、この世界で生きて行くことを第一に考えていこ
うと思います。もちろんチャンスがあればその時は考えますが、あるかないかも分からない物を探して時間を費やすのも馬鹿らしいですから。」
言葉にして言ってみると、内心迷っていた心にも踏ん切りがつき、気持ちが幾分楽になる。
「分かった。ここでの生活のことはしばらく私達に任せてくれ。」
赤峰さんはとても親切な人らしい、ありがたいことだ。
だがあまりの親切さに少し穿った気持ちも出て来る。
「あのう、こんなことを聞くのもあれですが赤峰さんは、俺のことを助けてくれて本当に感謝しているのですが、何か目的とかあるのですか?」
それを聞くとやや苦笑いをしながら答えた。
「心配しなくてもいい。何回も言うようだが、この世界には地球からやって来る人がいる。その地球人は先祖と同じ血を引いていて、それを助けるために国が率先して保護をしている。私はそんな人達が現れた時、手助けするよう国に頼まれている者だと思っていてくれていい。無論それだけが仕事じゃないが。とりあえず今日はここまでにしよう、私も用事があるし、詰め込み過ぎても頭が回らないだろう。少し出かけるが何かあったら那柚に言ってくれ。」
そう言われて那柚さんの方を見ると彼女はにっこりとして
「よろしくお願いしますね。この世界に早くなれるようお手伝いしますので、焦らずに行きましょう。父の支度がありますので私も一度下に降りて行きますが、何かあったら呼んで下さい」
そう言うと割と急いでいたらしく、すぐに二人とも部屋から出て行った。
ここで暮らしていく決心はしたが、やはり一人になると不安感が募って来る。
これから一体どうなるのだろう。うまくここで生きていけるのだろうか、双月や雷稀はどうなったのだろう、諦めたとはいえ本当に帰る方法はないのだろうか。
そんなことを考えならベッドに横になった。
ん?もしかしてこの家に彼女と二人きりになるのか。