第八話 え?女の子に話しかけるには?ノリと慣れです。
「ほんとに、こんな礼服じゃブレイクダンスも出来やしねえ。」
「カインってブレイクダンスやってたっけ。」
「いや、見様見真似で前世の車庫で遊びでやってたぐらいだ。」
「あー、だからお前謎に踊りがうまかったのね・・・。」
「んなこと言われてもな。俺にも出来ないことなんて腐る程あったし。」
「ダンスでも?」
「もちろん。ブレイクダンスのクリケットは無理だったし。」
「そこまで行ってたら逆に引いてたと思う。」
「右に同じく。」
「お前のことだからなぁ!?」
どうも、転生したら天才肌の親友の弟になっていたヨシュア・ラグナス・ルシェルフォンです。何をやっても敵わないのに、勝手に新しいことポンポン始めるから、こいつに対してはその内追いかけることに飽きました。
え?この親友の情報が一つ欲しい?
・・・どうせ見てたらわかる。
「ヨシュア、着替えたか?」
「えっ!?あー、すまん、俺の上腕二頭筋が。」
「まだ育ってねぇだろ。はよ着ろ。」
・・・今回もお世話されてしまった。
大学に上がってから何回か思った「自立しよう」って。
・・・こいついたら無理だよ。
目覚まし掛けてなくても起こしてって言ったら確実に起こしてくれるし、着替えも風呂も飯も俺が起きた段階で全部用意し終えてるような男だぞ?こんなんモテないはずがないだろ!
そんなことを思いながら、ほら!今だって俺の礼服の着付けもしてくれてるし!お前!それいつ勉強したんだよ!!
ほんと、こいつの欠点は・・・。
「ほら、早く動かんとタイキックしてでも行かすぞ。」
この素直になれない残念なお口だけだよ・・・。
ちなみに『ツンデレ』とか『お前は俺のオカンか!』みたいな感じで突っ込んだら全部言い終わる前にアイアンクローが飛んでくるぞ☆ みんなも気をつけような☆
「カイン・レグラス・ルシェルフォンです。どうぞよしなに。」
「ヨシュア・ラグナス・ルシェルフォンです。どうぞよしなに。」
今日の挨拶は比較的マシだ。昨日カインに相談したら「あ?主賓とは言え、挨拶する人多いだろうし簡潔でいいんじゃね? ・・・あーもう、取り敢えず俺のやつ丸コピしろ!そんぐらいいけるだろ!」だったが、ありがとうカイン。今回も助かりましたっ!!
ちなみにカーネルのお兄さんとレイちゃんは実家のお館でお留守番している。レイちゃん、何もしなければいいけど・・・。
頭の中で不安要素を懸念していたら挨拶も一通り終わり、食事会が始まった。
んぉ?この肉やわらけ〜!
「なぁ、ヨシュア。」
「急にどうしたんだよ。」
「俺、この世界の悲しい現実に気づいちまったよ。」
何!?どうしたの!?お前が明らかに暗い顔をするなんてめちゃめちゃ珍しいぞ!?前世でも家族にノサれた日かラーメン食いっぱぐれた日ぐらいしか暗い顔をしなかったお前が!?
「どしたのよ。」
「この世界、ラーメンがない。」
その瞬間、俺の目の前が真っ白になった。
「なっ・・・!?ちょっ、世間はそれを許してくれやせんよぉ!!」
「後ハンバーガーも、うどんも、そばも、そしてうな丼も!」
そ、そんなっ!!
「そんなの、これから何を食って生きていけば良いんですかァ!!」
「決まってんだろ。」
え?
「全部食うんだよ。全部食うまで死んでも死にきれねえよ!」
ごもっともですアニキィ!
「しかしどうやってラーメンにありつくよ。」
「ケバブのおっちゃんにゴリ押しで作らせる。」
うわぁ、予想してた答えがまんまで返ってきたよ。
「しっかし、まあそれしかねえよな。」
そんな会話で今後の生活にニヤニヤしていたら、ふと向こう側に人が集まってざわついてるのに気がついた。
「ちょ、カイン、あれって。」
「野次がてら見に行くか、え?ここで待ってる?じゃあ俺一人で・・・」
「待ってぇ!俺も行くからぁ!」
いつものごとく振り回されたぜ。てかお前行動早すぎな!
様子を見たら、ぽっちゃりした男の子が、薔薇を持って女の子にアプローチしていた。
「君を一目見てから、僕の世界はひっくり返った。なんて美しいんだ。この後一緒にお茶でも・・・。」
「・・・」
ちなみに女の子はガン無視で本を読んでいる。
「へぇ、面白そうなやつっているもんだな。それもこんなに沢山。」
お前はお前で何を言ってるんだよ!
「何が面白いんだ?」
「ん?まずはあの滑稽な道化にされている男、そしてそれをガン無視できる尋常ならざるほど虚ろ目の女の子、そして何よりもそれを物珍しさ目当てに見物客かの如く傍観してる大勢の人間。良いじゃないか、どんな人間社会よりも腐った社会縮図だぞ。」
あー、これあれだ。面白いって言ってるけど、カイン、イラツイてるなぁ。
「お前っ!外からなんだ!僕に楯突くのか!」
ほら〜、俺以外にそんな皮肉マキシマムな言い方したから〜。 基本的に大多数の人って怒っちゃうって〜。
「楯突く?いやいやそんな滅相もない。私は辺境伯の次男でただの問題児が故、そんな無礼を起こそうはずもございません。」
あーあ。こいつ、わかってて無礼やってるよなぁ。ほら見てみあっち。実家の如く俺らのお父さん、頭抱えてるよ?
「それなら一体何だと言うんだ!」
ほら、もう本能が煽られてるのを理解しているのか当人の男の子も顔真っ赤じゃん。
「私はただ、ナンパするならナンパ待ちの女の子かどうかを見極めてからナンパしろっつってんだよこの腐れ童貞。」
あちゃ〜。出ちゃったよ素が・・・。お父さん過去一青ざめてるよ。 え?俺は驚かないのかって?・・・この程度で驚いてたらあいつと八年も親友できてないって。
「お前っ!生意気なぁっ!ならお前はどう落とすと言うんだ!」
「いや、落とさねえし知らねえよ。」
出たよ!海崎時代からの必殺!相手を興奮させきったところで凍てつくほどの裏切りツッコミ!これでブチギレない人は俺はなかなか見たことないが、果たして・・・。
「お前!許さんぞ!!私と決闘しろ!!」
やっぱそうなるよねぇ!んで海崎!笑うな!漏れてるぞ!口から!口角から笑み漏れてる!!
「決闘内容は?」
「口説き対決だ!」
うわーぉ、少年、まだ自信あったのか。それはそれで一種の尊敬ができるな。
「その子がいいなら構わないぞ。」
女の子はその時だけ「それで終わるなら」みたいな諦観で頷き返した。この子、今のところ本当に面倒なだけなんだろうなぁ・・・。
「よし、じゃあお前先攻な。」
しかし少年、すまん、今回はマジで相手が悪いんだ。こいつに勝負事で勝てるわけねえんだ!だってこいつ、天才なのに無意識に努力しまくるような人間だぞ!?
後女の子、これが終わった後は、きっと君の人生は色濃く狂うだろう。色々、頑張ってね。
「ふん、日和ったか!まあいい!見ていろ!」
「あー、ひよったひよった、だから始めろ。」
まだ煽る!?もう良いでしょぉ!?
「お嬢さん、私のハートはあなたの瞳に吸い込まれてしまいました。是非、ティータイムをご一緒させて頂けないでしょうか「お断りいたします。」
そくとおぉ!!なんと固いガード!?おい、海崎でもこれは流石にきついんじゃ・・・。
「んじゃ、後攻の俺だな。」
あー、あの顔、もう堕とすまでのプランニング出来てるわ。あいつやるわ。ほんと、うちの歩くアブノーマルがすみません。
「こんにちは、僕も本を読みたくてね、相席失礼するよ。」
女の子は無反応だが否定もしていない。これはどうなんだ?実績がほぼ非モテの俺にはわからんぞ!?
・・・あれ?本読んだまま進まないけど!?
「ふむ。 執事長、すまないがここで少し作業をしても良いかな?本で見た事を実践したくてね。」
「はぁ、構いませんが。」
あいつ何するんだよ!・・・出た!あいつがこの前クラップキングさんからゴリ押しで頂いてた金属加工具セットじゃん!何すんのあいつ!?
「席の上でやると危ないので、少々外しますね。」
あいつマジでナンパしてるんだよな!?何してんのアイツ!?
でもあれなんだよ。あの演技の顔を貼り付けてるってことは、あいつは諦めてないどころか、多分これは作戦の途中でしかない。俺にはさっぱりこの先のことなんて読めないけどな!!
あ、心の中で突っ込んでる間にあいつ金属加工終えやがった。
「ふぅ、ごめんね。相席してたのに作業でほっぽりだして。」
「・・・いえ。」
ほんとにそうだよ! ・・・でも、あの子の声、初めて聞いたよな?警戒心を解くための時間だったのか!?
「何の本を読んでるのか、良かったら教えてくれない?」
あの貼り付けた演技顔ってことは、あいつ、本の内容知ってるぞ。絶対知ってるぞ!うちの書斎にあれと同じ表紙の本見たことあるし!!
「えっと、裁縫です。」
「裁縫かぁ。何か作りたいものでもあるの?」
「・・・まぁ。」
「そっか。君は優しい子なんだね。」
おい!脈絡おかしいだろ!どう考えたら優しい子に行き着くんだよ!?
「え・・・?」
「その手を見てたらわかるよ。何回も失敗したことがある人の手だ。そんなに失敗してもやるのは、きっと誰かの為に裁縫をやりたいからだろう?」
さり気なく手にタッチ!?アイツまじ度胸の塊かよ!?
「っ・・・!」
「僕は君のことをよく知らないから、誰のためなのかはわからないけど、人に喜んでもらいたくて何かを頑張るってことは、君が優しい何よりの証拠だよ。」
あいつ・・・やっぱりエスパーだろ。女の子の目が潤んだよ!?これ、もう墜ちたよね!?あいつ!また刺される確率を上げやがって!!
「お、母さん。」
あいつ!こういう時に深追いせずに優しい眼差しで聞く姿勢を取るなよ!お前は天才だなほんとにおぉい!!
「お母さん、身体が弱くて、でもいつも頑張ってて、私、何かお返ししたいなって思って、お母さんは裁縫が得意だったから、髪の毛を飾るアクセサリーを裁縫で作ろうって思ったんだけど、私、不器用だからっ、針に糸が通せなくてっ!!」
「・・・そっか、頑張ったんだね。」
もう完全にあいつのペースだよ。完全勝利してるよあいつ。
ただ俺は知っている。
あいつは勝ちが決まった勝負でも、自分の勝負に一ミリも妥協しない男ということを。
「糸が通せるようになれば、楽しくなるかな?」
「なる、かも。でも私、糸が・・・」
「そう言うと思ってね。こんなモノを作ったんだ。」
あいつ!あれさっきの金属加工で作ったやつじゃん!!
「これは?」
「使ってみたらわかるよ。僕が手伝おうと思うけど、手、触っても大丈夫?」
「・・・うん。お願いします。」
さっきまでいた野次も今ではただ静かに二人を見守っている。 え?少年?相手が悪過ぎたのを悟ったのか今そこで石化してるよ。 お父さんは態度がコロッと変わって俺らの自慢をしてる。おい、さっきまで頭抱えてたの知ってるからね。俺が報告せずとも多分カインも見てただろうから、後で付け込まれても知らないよ。
「この小道具はね、糸を通しやすくする魔法の鍵みたいなものなんだ。」
・・・っておい!あれ家庭科とかで使う糸通しじゃねえか!!あいつ!貴族のパーティで周りの目も憚らずに糸通し作ってたの!?えぇ!? ってかやっぱり最初から最後まで、あいつのプランニング通りに事が進んでるんだな!これだから天才はよぉ!!
「どう?簡単でしょ?」
「っ!ありがとう!私でも簡単にできた!!」
「いいよ。君のプレゼントには、お母さんへの真心が詰まってるんだから。貰えるお母さんはきっと凄く幸せになると思う。」
「そ、そうかな。」
「君は優しい。だから大丈夫。」
「・・・うん。ありがとう。貴方に何かお礼がしたいのだけれど。」
「お礼?うーん、そしたらお礼に、君の名前を教えて、そして僕の名前も覚えてほしいな。」
あ、これは女の子が完堕ちの目をしてらっしゃる。乙女の眼差しだよあれ。
「私はミザリア、マシルド公爵が令嬢。ミザリア・ユラ・マシルドです。貴方は!?」
「ん?僕はカイン。ルシェルフォン辺境伯が次男。カイン・レグラス・ルシェルフォンです。ミザリア。響きが綺麗で、良い名前だ。今後とも仲良くしてね。」
「・・・はっ、はいっ!!カインさん!」
「そんな、カインさんだなんて、もっとフランクにカインでいいよ。」
「えっ、いや、あの、カイン、くん。」
「ありがとう。また後でね、ミザリア。」
勝敗は火を見るよりも明らかだった。
少年もプライドが高そうだったのに圧倒的な敗北の前に「すみませんでしたぁ!」と、よくある舎弟ムーブ。
「なあ、お前どっからあれ仕込んでたの。」
「ん?そんなのあの子の手と本の表紙と目の疲れ具合と口角を真一文字にキープしようとしてるのを確認した時点で仕込んだに決まってんだろ。」
「俺、やっぱりお前が一番怖いよ。」
「何が怖いんだよ。普通だ普通。」
「お前のような普通がいるかぁ!!!」
「いるよ。」
「いねえよぉっ!!」
俺は今日も天才へのツッコミをやめない。
「カイン様ァッ!!」
脇から五体投地でさっきの少年がやってきた。
「私を弟子にしてくださいっ!」
「断る。」
わーお、相変わらず辛辣ぅ!
「どうしてですかっ!?」
「・・・なんか嫌だから。」
とどまる所を知らない辛辣ムーブゥ!
「では、どうすれば貴方のようにモテるか、アドバイスを一つ!どうか!」
「俺はモテん!!」
うっわ、少年にアイアンクローかましたよこいつ。
「お前はモテてんだよ!ふざけんな!その内女だけでは飽き足らず男からも刺されるぞ!?」
「誰であろうと俺を刺す権利はなくね?」
「いや、そうなんだけど、そうじゃないじゃん!?」
「うーん。俺はモテないからモテるアドバイスはできない。でも人間っぽい最低限のアドバイスならできるぞ。」
うわぁ頑なぁ…。
「お願いしますっ!それだけでもぉっ!!」
「痩せろ。後ちょっと筋肉はつけとこうね。」
ズバッと言ったねぇ!でも・・・
「筋肉はいいぞ!筋肉は全てを解決する!」
すまん、俺も眩い筋肉には逆らえないぜ!!
「まあいかんせん俺ら三歳だけども、あれだよ。こいつみたいにやりすぎてもアレだが、その歳から太り過ぎもそれはそれで問題だからな。」
っておぉい!?
「おまっ!筋肉を愚弄するかっ!!」
「してねえよ、より格好いい筋肉つけたいなら成長してからにしろっ!」
・・・ごもっともです。
「ニコラス殿下、そろそろお開きのお時間です。」
「ふむ、そうか、ご苦労。・・・師匠!あなたにご教授して頂ける日を待ちわびております!!なにとぞぉぉ!!」
少年去っていったよ。
ん?殿下?
「ヨシュア、どうやら俺がノシたあのガキ、殿下らしい。」
「カイーーン!やらかしたお前が一番震えてんじゃねぇよぉ!!!」
「どうしよ、俺不敬罪かな。三歳にして早くも首チョンパかな。早かったな第二の人生。」
「諦めるな!弁解の余地はあんまりないけど、多分いける!」
「あんまりないってことは、どうしようもなくね?」
その後、何もなくパーティは閉会し、俺とカインは馬車に乗ってお館に帰りました。
その日から、お父さんは胃薬を嗜むようになったようです。すまんて辺境伯。