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第七話 三歳になりました。

 おはようございます。現在絶賛金髪ショタのカイン・レグラス・ルシェルフォンです。


 隣で寝てるのは現在絶賛赤髪ショタのヨシュア・ラグナス・ルシェルフォン。タッチの差で産まれた腹違いの弟だ。


 俺たちには共通の秘密がある。

 

 それは前世、俺とこいつは海崎和也と北谷義也として、別の世界で八年間友達だったことだ。


 お互いの学校の卒業記念で突発のノリで出発した沖縄旅行で沖縄に辿り着くことなく最悪な状況での船酔いでクソダサい死に方を歴史に残した。


 どうやら神様からすれば完全に寿命を無視って死んだらしく、クソ迷惑だからみたいな感じで二人揃って異世界転生。


 最初は気づかなかったけど、異世界では産まれたときからこいつと一緒だった。神様が『ドッキリ大成功』のプラカードを持ってる姿がありありと脳裏に浮かぶ。


 まあそんな感じで、気ままに新たな人生を楽しんでいた俺たちは。



 「領民の皆様。お初にお目にかかります。私はベガ・ゼグラフィム・ルシェルフォン辺境伯が次男。カイン・レグラス・ルシェルフォンと申します。今後、領主の息子として胸を張れる様な人間となれるように我が兄、カーネルとは別の切り口から、領土の発展と領民の幸せを考えらればなと思案しております。どうぞよろしくお願い致します。」


 「同じくお初にお目にかかります。ベガ・ゼグラフィム・ルシェルフォン辺境伯が三男。ヨシュア・ラグナス・ルシェルフォンと申します。私は領民と領主、双方を立ち支えて行けるような人間となることを目指しております。よろしくお願い致します。」


 三歳になりました。



 「いや〜、カイン、今回のはマジのマジで助かった。」


 「お前なぁ、内容考え終わったらすぐ寝ようとしやがったからな。昨日必死に暗記させた甲斐があったよ。」


 「マジありがとう。昨日のアレがなかったらどうしようもないぐらい台詞飛んでた。」


 「まあ難はやり過ごせたから良いんじゃね?」


 「まあやり過ごせたけどさぁ、この固っ苦しい礼服、来週も着るのがマジキツイって。」


 「いや、すげえわかる。けど来週の主賓はある意味俺たちもそれに入るからマジで礼服脱げねえ。」


 「はぁ、まじきつい。」


 そう、来週は三つの歳を迎えた貴族の子息や令嬢が社交的に集まるようなパーティらしい。

 まああれだ、親サイドは貴族特有のズブズブの癒着とかが起こりそうな「懇意にさせていただいて・・・」的なアレだ。


 「めんどくせえなぁ。」


 「この後どうする?」


 「あー、そうだな。取り敢えずケバブ食いに行くか。」


 「賛成。」


 俺たちは街に繰り出した。



 「いらっしゃい!ってカイン卿にヨシュア卿!お二人も人が悪いですよ。あんな事を隠してるなんて。」


 「まああれはカインの出来ごころみたいなもんですし、親父さんにはお世話になってるしケバブうまいから普通に今まで通りカインにヨシュアで良いですよ。」


 「ああ、寧ろ敬われても反応しづらいからおっちゃんは今まで通りでいいよ。」


 「えっ・・・良いのかい?領主様とかに聞かなくて。」


 「あー、事情含めて聞いてみてください。きっと『あー、あいつらには敬語はいらん。そんな気を回してたら回してる側の気が狂う』とか言われますから。」


 「そうだな、あ、ケバブうま。」


 「いやだからケバブじゃなくて肉塊一本焼きね?」


 「良いじゃねえかケバブの方が覚えやすいし、なあヨシュア。」


 「そうですよ親父さん!こっちの名前のほうが浸透しますよ!」


 「うーん、しかしなぁ。」


 「ダメだよカイン君、肉塊一本焼きは肉塊一本焼きなんだから。」


 「ん、アルエットじゃん。元気か?」


 「うん、お陰様で。ってかカイン君今日三歳になったんだね。知らなかったよ。」


 「アルエット、お父さんは二人がお貴族様だったことに知らなくて驚いたんだけど・・・。」


 「あー・・・まぁ、私は助けてもらった時にカイン君が言ってたから。」


 「え!?知ってたのに敬語はなかったのかい?」


 「いや、なかったというか、なかったコトにされたと言いますか・・・。」


 「さっきのおっちゃんと同じ感じでゴリ押して敬語いらないって決めただけだよ。」


 「・・・あぁ、うん。」


 「ごめんね親父さん、カインは我が強いから。」


 「いや、構わないよ。ヨシュア君も我は強いし。」


 「嘘ぉ!?」


 「良かったなヨシュア。正当な評価だ。」


 「やだぁ!!」


 「お前、おっちゃんの真心籠もった正当な評価だぞぉ?」


 「こういう時に限って常識的な何かをぶつけないで!?」




 「んでまぁ、肉塊一本焼きはケバブってのは通らないと。」


 「まあ、流石にそれはそうなるかな。」


 「うーん、まず肉塊一本焼きってのはどういう基準を持って肉塊一本焼きになるんだ?」


 「え?」


 「いや、由来とかその辺。どっかで違う何かをぶち込めればケバブってメニューが独立して出せそうだろ?」


 「あ、それ良いね!」


 「君たちもうケバブって言いたいだけでしょ・・・。」


 「まあまあお父さん、教えてあげてよ。」


 「うーん、そうだね。肉塊一本焼きは、南国特産のミートブルっていう魔物の牛の肉を素材のまま巨大なブロックごと串に挿して焼く伝統料理なんだ。」


 「ほーん、伝統料理ねぇ。ちなみにおっちゃんはその伝統料理をガチで継いでる人なの?」


 「いやいや、教えてもらいはしたけど、この料理が美味しいから店をやってるんだよ。」


 「じゃあまだ弄りたい放題じゃん。」


 「イケるんじゃない!?これケバブイケるんじゃない!?」


 「君たち、何か考えがあるのかい?」


 「まあ、味付け一択だな。」


 「わかる。」


 「あれは素材が素晴らしいのに、一体どんな味付けが。」


 「よしヨシュア、マジカルバナナの要領で交互に味付けに使えそうなもの出すぞ。尽きたら終わりだ。」


 「乗った!ケバブの為にッ!!」


 「え、ちょ、ちょっと」


 「はいスタート〜。 塩」


 「レモン汁」


 「ジャン」


 「タレ」


 「なんのタレだよ・・・。 にんにく、しょうが、唐辛子などを混ぜ込んだ焼肉とかに漬けるタレ。」


 「くっ・・・。 バター醤油」


 「あー、ありだな。 ミートソース。」


 「あーそれは強い!  ・・・ダメだ。ギブで。」


 「まあ後は薬味の刻みネギとかも多分美味いな。まあこんな感じだおっちゃん。色々ある。」


 「は、はぁ、君たち、本当に三歳なんだよね?」


 「まあ実際にそうだな。」


 「逆に三歳だからこその身体だしね。まだトレーニング抑えないと身長が・・・。」


 「じゃあもっと抑えような。」


 「でも、カイン君もヨシュア君も本当に物知りだよね。」


 「ん?まあ、色々見てきたからな。」


 「俺のはほとんどカインの受け売りだよ。」


 「いーじゃねーか受け売りでも。今その受け売りの知識が役に立ったんだよ。誇れよ。」


 「受け売り元の人にそれを言われてもなぁ・・・。」


 「大丈夫だ。知ってても絶対使わないような知識だって沢山ある。」


 「例えば?」


 「四号機スロの〇斗は7より〇斗のバー揃えたほうが当たりとか。」


 「うっわ本当に役に立ちそうにねえ。」


 「だってニチェとか中押しとかエイリヤンとかダナゾとか言われてもわかんないでしょ?」


 「逆にカインは何で知ってるんだ。」


 「前世のガキの頃に親父に叩き込まれたんだよ。」


 「ああ・・・察したわ。」


 「おう、こればっかりは察しろ。そんな感じでおっちゃん、これらでメニューの改良はどうだ?」


 「うーん、確かにトッピングスタイルにしてメニュー展開すればアリかもしれない。」


 「アリ寄りのアリだ、そしてケバブだ、行列だ。」


 「うーん、これでも料理人の端くれ、やるだけやってみよう。」


 「よし。頼むぜおっちゃん。」


 「本当に、カイン(こいつ)の天然の人心掌握は洒落にならんぜ・・・。」


 「お前、ケバブをケバブとして食いたくないの?」


 「食いたいッ!堂々とケバブうまいっ!て外で言いたいッ!!」


 「だろ?じゃあ深く考えずにやっちまおうぜ。」


 「おう!怖さなんてもうかなぐり捨ててやる!」


 「カイン君って凄いんだけどたまに怖いよね。」


 「んなことねぇよ。普通だ普通。」


 「アルエットちゃん。こいつに一番ピッタリな突っ込みセリフを教えて上げよう」


 「ヨシュア君、それって?」


 「お前のような普通がいるか!!だ。」


 「た、確かに・・・。」


 「おかしいよな?色んな奴が言ってたけど俺はノーマルの集大成みたいな人間だぞ?」


 「どこがだよ!アブノーマルが服着て歩いてるような存在だろぉ!!」


 「まあそれ言ったらヨシュアも大概アブノーマルだし血縁上はそのアブノーマルが服着て歩いてるようなやつの腹違いの弟だからなお前。」


 「うわぁぁぁぁ!!やだぁぁぁぁ!!」


 「頭抱えんな!俺だってお前と兄弟とか嬉しかねえよ!!」


 「そうだよな!?そうだよな!?」


 「ああ、俺とお前はフレンズ。オウケイ?」


 「オウケイオウケイ!」


 「お前はフレンドであり俺の弟。つまり立ち位置は下。オウケイ?」

 

 「オウケ…くない!ノー!ノー!審議!チャレンジ!」


 「いや、チャレンジしたらタッチの差が証明されるだけだぞ。」


 「ノォォォォォ!!」


 「ふふふっ、どうしてでしょう。二人のやり取りはまるで旅芸人方のショーのように笑顔になれます。」


 「おう、見てる人が笑えりゃそれで良いと思う。」


 「お前相変わらずだなぁ。」


 「まあ本能みたいなもんだしな。」


 「んじゃ他にも散策するから、おっちゃんまたな。」


 「あ、ああ、うん。またね。」



 「やっぱり彼らは嵐のような子達だよね・・・。」


 アルエットのお父さんは今日も苦笑いを浮かべていた。




 「それで、カインは何を探してるんだ?」


 「ん?いや、この前の視察で見かけた魔導具が面白そうでな。それを作ってるやつを探してる。」


 「名前は?」


 「実名かはわからんけど、屋号は『クラップキング』頭文字にスを付ければガラクタの王様って意味合いになるな。」


 「あー、なんだかんだこの世界、英語に近い言語とかゴロゴロ転がってるしなぁ。」


 「そういうこと。 ん?何だあいつ。」


 表通りからかなり外れた細い路地で、散乱してるゴミをニヤニヤしながら拾ってるやつがいた。


 「見るからにやばそうだけど、どうするんだよカイン。」


 「なんか面白そうなモノ考えてそうだから話しかける。」


 「ウッソだろお前!?度胸えぐいって。」


 「なぁ、ちょっと良いか。」


 「ってもう話しかけに行ってるし!」


 「ん?アンタなんか用あんの?」


 「いや、魔導具技師のクラップキングを探してこの辺りを歩いていたんだが、偶然面白そうなことを考えてそうな君が目に入ったから声をかけた。」


 「クラップキングを知ってんの!?どこで知ったん!?」


 「あー、この前露店で売ってた魔導具だ。ちょっと魔導具の知識だけ本で齧った身なんだが、その魔導具の組み方に興味があってな。」


 「ちなみにその魔導具は?」


 「超風動ドリル」


 「・・・!!アンタ今からうち来て!!」


 「おー、わかった。ほら、ヨシュア行くぞー。」


 「話進むのが早いよ! はぁ、なんであいつはいっつも他人との距離の縮まる時間が違和感なくバグってんだよ・・・。」




 「父ちゃん!クラップキングを訪ねてきた人がおる!」


 「あぁ!?どうせまた半端なモン注文しに来ただけじゃろうが!追い返しとけ!」


 「今回はちゃうねん!超風動ドリルを見て探してはったらしいねん!」


 「なんやて!?・・・取り敢えず案内し。」




 「良う来たな。って思ってたけど、お披露目会に出とった領主様の息子やんけ!!どえれーの連れてきよって!」


 あー、癖強の職人気質だな。


 「クラップキングさんで間違いありませんか?」


 「ああ、せやけど、お貴族様がこんなことに何の用ですかい?」


 ・・・まあ幼さの偏見で突っ返されないのは有り難いな。


 「こんなところなどと、実は先日、超風動ドリルという掘削用の魔導具を露店で見かけまして、その構造と仕組みの発想に感銘を受けて、今回、ちょっと商品作ってみない?のノリで提案しに来ました。」


 「はぁ、ちなみにどういうところに感銘を?」


 「本で齧った程度の知識ですが、あの魔導具は他の一般的なものとは違い、基本的な動作に風魔法を付与しているだけではなく、動力に魔力そのものを付与し、回転数を調整できる仕様となっているところですね。」


 「・・・!! なるほど。・・・シア!このお客さんに茶出せ。」


 お客として認められたようだな。良かったぜ。


 だからヨシュア、俺の真横でそんなガチガチに震えんなって。


 「ところで、どんなモノを考えてるんですかい?」


 「ああ、3つでセットのようなものなんだけど、クラップキングさんならきっと気に入るようなものだと思うんだ。実はー」



 「お客さん、そりゃアンタ、天才ですかいな。」


 「いや、俺は普通だよ。でも良いだろ?」


 「ええ、3つの魔導具の発想もこの時代だったら受け入れられるモノだし、魔導具に他の類を見ない素材を使うのもワクワクする。そして何より、今後も応用が馬鹿みたいに効きそうなこの魔導ケーブル。あんた、やべえよ。」


 「それはどうも。クラップキングさん。形が出来たらでいいから教えてくれるかい?顔を出しに行くから。」


 「いんや、俺からお館に行かせてくれ。通してさえくれればお客さんに説明できる。」


 「わかった。伝えておくよ。」


 俺はクラップキングと固い握手を交わした。


 「それじゃ、楽しみにしてるよ。出来と宣伝次第では、うちの方で商売利権の契約とかあるかもしれないから、そこは留意しておいてね。」


 「了解したで。それじゃ完成次第で!」


 「うん、それじゃまたの機会に。ほら、ヨシュア帰るぞ。」


 「お、お〜。」


 緊張のし過ぎで干からびてるなコイツ。




 「父ちゃん?」


 「シア、ありゃあ神童とか言う次元ちゃうで。バケモンも萎縮するほどの、マジもんの怪物や。 ほんまにすごいの拾ってきよって。わしが日和りかけたわ。」


 「そう言うてる割にはえらい目ギラついとんで。」


 「いやぁ、こりゃ魂が燃えとるわ。」




 「カインなんで緊張しないの!?」


 「してたけど。」


 「おまっ、それは流石に嘘だろぉ!」


 「いや、割とガチだな。」


 「どこが緊張してたんだよぉ!」


 「いや〜?こんな喋り方になってない時は大体緊張してるぞ。」


 「じゃあなんで声は出るんだよ!?」


 「俺にとって声が出ない場面は緊張じゃなくてもう恐怖だからなぁ。一度そのハードルにぶち当たってみればそれより下の緊張とかは声出るようになるよ。」


 「とんでもない荒療治だなぁ・・・。」


 「え?やるって?」


 「やりません!!やりませんから許して!!」


 「流石に冗談だ。」


 「てかさカイン、あれって、あれよな?」


 「あー、どう見てもアレだな。」


 「まさか風魔法の振動を利用して音を出す魔導具と拡声器と楽器とはねぇ。もしかして意外と音楽やる気ある?俺の祈り届いた?」


 「うるせぇ。」


 「いやーもう!素直じゃないねぇ!このこのぉ!」


 「俺の頼んだ試作品だけ調整してもらってヨシュアにだけ刃のような風魔法が届くようにしようかなぁ。」


 「いやガチでほんとにマジですみませんでしたどうか許してください情状酌量の余地のご容赦をぉ!」


 「冗談だ。」


 「ありがとうございますぅ!」



 「さて、今日も門限セーフだ。」


 「そうだなぁ、来週嫌だなぁ。」


 「俺も嫌だよ。礼服動き辛えもん。ダンスも絶賛叩き込まれ中だしな。」


 「良いじゃんカインはもうほぼほぼマスターしてるし!」


 「お前なぁ、練習と本番では経験の差でモノが違いすぎるからあんまり関係ないと思うぞ?」


 「でも俺はまだ覚えられてないんだよぉぉ。」


 「大丈夫だ。」


 「カインン!!」


 「明日から俺も一緒に叩き込んでやる。」


 「グヘェッ!!」




 ヨシュアは叩き込まれ過ぎて、ダンスを覚えた代償に筋トレの時間を失いました。

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