第四話 魔法じゃん!ロマンじゃん!ロマンがあったらまず試すのは本能だよなぁ!!
「お前たちはもう少し貴族としての自覚を持て…頼むから。」
と、額にシワが寄って頭を抱えた辺境伯に泣き言の雰囲気で言われた。
流石に俺の行動でこの人の評判を落とすのは非常によろしくない。ということで…
「父上、礼節は必ず身につけます。ですが私からお願いが御座います。」
「お、おう、なんだ、言ってみなさい。」
「私めに書斎で読書をする許可がほしいのです。」
「ああ、そんなことか、構わんぞ。」
「つきましてはもう一つ、見聞を広げるために館周辺の街に僕とヨシュアで出向きたいのですが」
「それはダメだ。頼むから!まだダメだ。」
くっ…。まあ行動が行動だったしな。これからはこっちの信頼を勝ち取りに行くか。
「わかりました、では、許可が出るまでは館の中で勉学に励もうと思います。」
「ああ、頼む。」
「では失礼します。」
まあ俺たちはあれだ、こんなに流暢で直立二足歩行もできているが、身体自体はまだ二歳だ。
普通に考えて二歳児が街に繰り出せるわけがない。まあ俺たちがいくら普通じゃなくともこんな貴族の息子としては限りなく問題児みたいなやつをまだ外には出したくないのも凄くわかる。
まだ時間なんて腐る程ある。今すぐ外に出る必要はない。ククク、魔法を覚えてやる!
「カイン、お前も終わったか。」
「まあな、ヨシュアはどうだった?」
「ああ、俺はとにかく謝ったよ、マジすんませんでした!って感じで。」
「あー、やりそうだな。」
「おまっ、ちなみにカインは?」
「謝った後に書斎で読書する許可をもらえた。」
「相変わらずちゃっかりしてんなぁ。」
「口が勝手にやってくれるんだ。」
「思考が早すぎて口が都合よく動いてくれるだっけ?」
「あーそれそれ。」
「俺からしたら大概チートだよ。」
「その分普段から思考が止まらないから慢性的に頭痛だぞ。」
「・・・諸刃だな。」
「そういうこと、それでヨシュア、書斎行くか?」
「いや、風呂文化もできたことだし、そろそろ体作りしたい。」
「そうか、まあ良いんじゃね。」
「んじゃ行ってくるわ、取り敢えず走り込みしてから腕立てやるから。」
「あー、一つだけあれだ、成長前に筋トレやり過ぎると高身長になれないからなー。13歳ぐらいからがベストだと思うぞ〜。」
「なっ!?後、11年・・・。すまんカイン、今からコールドスリープ先探してくる。」
「そんなもん多分ないから諦めろ。んじゃ後でな。間違ってもプロテインなんてものは作るなよ。」
「くっ…!仕方ないっ!仕方ないとも!身体が出来るまでの辛抱だ!仕方ない!っともぉ!!」
ヨシュアは床に四つん這いになり台パンしながら床に吠えてる。うん、通常運転だな。
書斎に行くとカーネルのアニキがいた。
血は繋がってるとは言え、俺に兄がいるという感覚がはじめまして過ぎて弟らしい行動は流石にわからない。愛されそうなイメージは湧く。
ちなみに歳は俺とヨシュアの2つ年上。つまり今は絶賛四歳。多分転生者じゃない普通の兄。理由?
『カーネルさん!エックスとゼロが向かった座標でイレギュラーがぁっ!!妹さんの身が危ないです!!』
「・・・?」
だったからだ。まあ固有名詞云々はあれだが、話しかけたのは日本語だったし、名前も入れてたから何かしら反応があってもおかしくはなかったのだが、あれは呼ばれてる反応じゃなく、なんか言ってるな。ぐらいの反応なので、日本語は伝わってない。つまりこの魂は現地人だ。
・・・ただ記憶の底で滲んでしまったあの花の名前だからなぁ・・・。実は伝わってほしかった気持ちも少しあった。泣けるんだぜ、あそこ。
「カーネル兄さんも勉学中ですか?」
そんなオタク的思考回路を一旦俺の頭の中のゴールにシュートして会話を始める。
「ん?ああ、カインか。そうだね、僕は嫡男だから領地の未来や諸外国の関係を学ばなきゃいけないんだよね。」
カーネルのアニキは普段からすごく落ち着いている。俺やヨシュアの異質っぷりに辺境伯や辺境伯婦人方は逐一『なんだこのガキ…。』って顔をすることが多いのだが、カーネルのアニキだけは特に目立った反応はしない。俺とヨシュア以外に他の幼児を知らないだけ?それは言わないことがお約束だゾッ!
「そうですか。兄さんは流石ですね。実は僕も勉学に励みたいのですが、まだ文字を読むことができないのです。兄さんの読んでいる本を、読み聞かせていただけますか?」
こうすることで俺は文字を覚えられる。カーネルのアニキは音読することで内容をより深く覚えられる。Win-Winの関係じゃないか。
「わかった。こちらにおいで。」
俺はアニキの隣に移って本を見た。
「ッ!!」
そうじゃん。いくら嫡男とは言えアニキも四歳じゃん。
「そしたら読むぞ。『むかしむかしとある大国にそれはそれは美しいと評判の王女が〜 』」
絵本じゃん!そうだよね!アニキとは言え四歳だもんね!!絵本読めてえらいね!!
・・・ただ言葉を覚えるという当初の目的は達成できるな。助かるぞアニキ。
そして俺は文字を覚えた。
文字と表現の法則性さえわかればなんとやら…だったな。
「兄さん、ありがとうございました。とてもわかり易い読み聞かせでした。兄さんは人に語り聞かせるのが上手ですね!」
「そうか?良かった。俺も頑張った甲斐があったよ。」
・・・まあこれは珍しく嘘偽りがない言葉だ。ガチで読むのうまかったよこの人。
前世云々で年上と思えることはほとんどないが、面倒見が良い人だからな。俺は好きだぞ。
「兄さん、それでは僕は失礼します。」
「ああ、またいつでもおいで。」
そうして用件を終えた俺は書斎を後にした。
・・・あの優男はモテるぞ。
そう思いながらさり気なく持ち出した魔法教本を数冊持ち、部屋に戻り始めた。
・・・この身体にこの数の本は想像以上に重かったよ。
バドリフさんとミリーが一緒に手伝ってくれた。感謝の気持ちに『ありがとう。こんなにさり気なく誰かに手を差し伸べて助けることができるようなバドリフさんやミリーと結婚できる相手はさぞ幸せだろうに。』と言葉を置き土産として投げかけていい感じになってたところでそそくさと部屋に戻った。
部屋に戻った。
「にひゃくっ…くじゅうっ…にっ!!」
奴は腕立てをしていた。
「おいヨシュア、前世とは勝手が違うんだからまずは普通の腕立てで慣らそうぜ。」
こんな言葉が出る俺も相当コイツに毒されてる。
「いやっ!いいっ!!今俺の筋肉が悦んてるんだっ!!」
「筋肉が喜ぶのは置いといて、支える指の本数減らして腕立てとか一発目でやり始めるのは生粋のトレーニーだから。やり過ぎで身長止まるぞ。」
俺がそう言うとヨシュアは石化した。
「んでカイン、その本はなんだ?」
風呂にぶち込まれてさっぱりして帰ってきたヨシュアが俺の読んでる本の内容を聞いてきた。
「ん?魔法の解説本みたいなやつ。」
「読めんの?」
「文字はさっき覚えた。」
「俺が腕立てしてる間にッ!?」
「カーネルのアニキに教えてもらったんだよ。」
「言葉巧みに糸を引いてるお前の姿がありありと目に浮かぶッ!」
「間違ってはないけど失礼だな。まあ、そんなわけで俺は読むから。適切な体勢で休養でも取っとくことを勧める。」
「ああ、お言葉に甘えるよ。今度文字教えてくれ。」
「余裕だ。お前の数学は誰が教えたと思ってる。」
「お前しかいねー。」
ヨシュアは寝た。良く寝て良く食べて良く動く。健康優良児の塊め。
「さて、と。何々?」
俺は教本を黙読した。欲しい内容だったのでスルスル読める。
「読了。と」
なるほど。まずは身体の魔力を自認することが必要っぽいなぁ。
・・・しかしどうやって?
うーん。なにかヒントは。・・・はっ!
『君の腕に蛇口ついてないでしょうが。』
俺がミリーの魔法に対して言った言葉、もしこのイメージなら、人間の身体の核である心臓から血液が運ばれるように心臓から蛇口のような栓を開けて水が溢れ出すイメージで。
「魔法名は、初級は〇〇ボールで水はアクア?まぁいいや。」
「アクアボール」
魔法名は言った。イメージもした。
「・・・出たな。金魚とか飼えそうなスペースの水の塊。」
ただあれだ。出たのは良いけど。
どこにこの水、捨て置こう。
取り敢えずその辺にポシャったらまたしっぽりがっつり怒られそうだし、ミリーに相談するか。
手のひらの上にキープしたまま、部屋を出てすぐ呼び出す。
「ミリー。」
「はい。どうされましたかカイン坊ちゃま、坊ちゃま!?」
「いや〜、水魔法試してみたら出たんだけど、引っ込め方もわかんないしその辺に撃つのもまずいかなぁって。落としていい所ある?」
「しょ、少々お待ちください!!領主様ぁぁぁ〜!!」
おい!怒られないためにこっそり捨て置きたかったのにパパ上を呼んだら意味ないじゃん!?
「ど、どうしたのだミリーよ。」
「火急の用件なんです!カイン様が、カイン様が!!」
「今度は何をやらかしたんだあいつは!?」
「ええっ!?今度はカインだけなの!?ヨシュアは!?」
「ヨシュア様は室内で寝ておりました!」
「カイーン!どうしてなのおおお!!」
・・・地獄絵図だな。
「カイン、一体今度は何をやらか・・・」
パパ上は俺を見て絶句した。
「はい、父上、申し訳ございません。魔法を試してみたら出たのですが、引っ込め方もわからないのでどこに放出したら良いのかなと思い、ミリーに相談した顛末です。」
「ふ、ふむ。そうか。窓を開けるから窓の外で良い。あっちの方角なら森しか無い。」
あれ?怒られなかった。
「わかりました。ありがとうございます。」
言われたとおりに開けられた窓の方向に水弾を飛ばした。ふぅ、やっと手元が落ち着いたぜ。
「・・・あいつは物分りが良いのかいたずら好きなのか私にはわからん・・・。」
「ええ。ですがどちらにせよ破天荒なのには変わりありませんわ。」
その頃、俺たちの親は揃って頭を抱えていたと言う。