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第三話 貴族の邸宅の庭で野外風呂。品がない?うるせえ、元々だ。

 「なあカイン。」


 「なんだ?」


 「コンクリブロックは資材にある四角い石で代用として、湯船どうすんの。ドラム缶みたいなやつないけど。」


 確かに。しかしだな…。


 「ヨシュア、こういうときこそこの幼い身体であったことを感謝すべき時かもな。」


 「何だ?カインは宛でもあるのか?」


 「宛というより、全ての問題をなかったことにできる素晴らしい魔法だ。」


 「なッ!?」


 「ではヨシュアくん、問題です。デデン!」


 「ピロンっ!高菜ッ?」


 「問題文を読ませろ問題文を。衣類の洗濯やテレビのドッキリ系番組で人の頭に落とす時に使われるものってな〜んだ。」


 「たっ……。」


 「おっ!」




 「たったそれだけのヒントでッ…?」


 「いやわかれよ。」


 「・・・わかったぞ!酢飯作るやつの鉄版!」


 「合ってるけど!合ってるけどなんか違う!!」


 「正解教えてくれよ…俺には筋肉以外のことなんてわかんねえよ。」


 「タライだよタライ。」


 「あー!!あの縁を指で持ちながら腕立てをすると鍛えられそうなあの!!」


 「筋肉は一回置いとけ。指の筋肉は確かに憧れるけども!」


 「デデン!俺が指の筋肉でやってみたいことは?」


 「ピロンっ、十円玉を親指と他の指で挟んで曲げること。」


 「なんでわかったんだ…!?さてはお前、俺の大胸筋の機微を読んだのか…!?」


 「んなわけあるか、お互いが好きな漫画はとっくにチェックしてただろうが。」


 「なるほどなぁ!!」


 「ヨシュアはもっと頭も鍛えたら良いと思うぞ。」


 「なっ!?そんなっ!」


 「まあ冗談だ。てなわけでタライを探したいんだが、バドリフさん、タライどこにあるか知ってる?」


 施設管理担当のバドリフさん、色んな場所の鍵を持ってる。ぜひとも仲良くさせていただきたいものだ。


 「あ〜、坊ちゃま方、タライは洗濯に使います故、侍女の者たちが持っているかと。ミリーさんに尋ねれば教えてくれると思います。」


 ・・・おおっと、ここで問題が発生したな。だが俺の記憶でリカバリーが可能な範囲だ。


 せっかくだからこっちの被害を最小限に抑えるためにミリーにはハッピーな感情を錯覚してもらおう。


 「今からミリーの所に行くので、事情説明の為に一緒に来ていただけますか?悪いようにはしません。」


 「え、ええ、わかりました。」


 「持ち場管理の様な業務があるのなら少しの間待ちますので他の者にお願いしてください。」

 

 俺は自身が不利になる原因は一つでも潰してから動く人間だ。


「ミリーさんのところに結局出戻りかぁ、これどう説明するんだよカイン。俺にはどうしようもないぞ。」


 「任せろ、今回は俺に丸投げしとけばなんとかなる。」


 ミリーの悩みは知っている。無邪気に屋敷の中を歩き回りながら色んな人たちの話が勝手に入ってきてるからな。


 彼女は今年で19の歳らしいのだが、名誉男爵の娘な為にミリー本人の出は平民で、まあ職場もここなので出会いもなく、恋愛したくても時間もへったくれもねえじゃん。らしい。


 ・・・まあお館の仕事はホワイト仕様なので、理由などなくても休暇は取れるのだが、ミリーはドがつくほどの真面目だし、休暇取ったところで出会いねえじゃん!とか思ってんだろうなぁ。


 だからそれをついでに俺たちのやらかしを正当化し、今後とも末永く保護(まも)ってもらうのだ。


 「カイン、お前どうやったらそんな他人の都合のいい活用方法を見つけられるんだよ。」


 「ん?んなもん癖だよ癖。俺からしたら見つけようとしなくても態度に出てたり顔に出てたりする。」


 「普通はそれ、わかるもんじゃないと思うけど!?」


 「そうなのか?他人が他人に向けてる感情とか内に込めてる悩みとかは声色とか口元の動きとか背筋とかである程度わかるぞ。」


 「はえ〜…。お前にわかんねえこととかあるのかよ。」


 「そりゃ人間だからあるわ。俺に向けられた好意的な感情は今も昔もわかった試しがない。なんでだろうな?他人のことならすぐわかるのに。」


 「くっ!このリアル学園ラブコメ主人公が!」


 「それヨシュア以外にもよく言われてたんだけど、マジで未だにわからんのよな。俺のこと好きな女の子なんて存在せんかったやん。」


 「・・・お前が刺されたら骨は拾っといてやるよ。」


 「刺されるかよ!あんな経験は二度もいらん!」


 「あの〜、坊ちゃま方。」


 「ああバドリフさん、すまない。準備ができているようだし、向かおうか。」


 バドリフさんは若い男性の職員。ヨシュア(こいつ)が好みそうなゴリゴリのマッチョメンではないが、前世の女性達がキャッキャウフフ噂しそうな細マッチョ糸目イケメンである。ちなみに鍛えぶりはさり気なくタッチした時の腹筋の硬さで確認済みだ。しかもこのイケメン、ミリーのことが気になっていると来た。男どもの恋バナであの挙動の変化は恋に近い何かはあるのは確認済みだ。つまりこれは、俺たちの遊びに全面的に賛同してくれるような心象を得るためにこいつらくっつけて『なんて素晴らしい御方なんだ!』と思い込ませる作業のようなものである。


 「ミリー、ごめんなさい。別のことに興味が移って部屋を抜け出してしまいました。」


 その作戦のファーストステップとして、俺はマジの謝罪を行動プログラムとして実行している。


 怒られることが確定している時点で謝罪は怒られるよりも先に速攻として叩き込む。これは前世の家庭を平穏に過ごすために身に付けた俺の処世術。その名も。


 『怒られる前に謝る。』


 ちなみにただ謝るのではなく、何が悪かったのか、何故そんな事をしたのか、ついでに次からは〇〇するようにしますなどの改善点などを具体的に述べる所までがミソだ。


 ただ、一度に全てを述べきると相手は混乱してしまい、成り立つ会話も成り立たなくなる。なので言葉は小出しにしていくのもミソだ。


 「あなた達が勝手に行動すると、私の首が跳ねられちゃうんですよ〜!!」


 等と、ミリーはこのように供述しており、まあクビじゃなくてマジもんの首が跳ねられるんだろうな。俺たち一応貴族らしいし。


 「ミリー、ごめんなさい、次からはしたいことがあったらまずミリーに言うことにするね。その時にバドリフさんにも手伝ってもらうこともあると思うから、バドリフさんもお願いね。」


 「っ!はいっ!」


 「それで、その興味の内容を教えていただいてもよろしいでしょうか?」


 「うん!あのね、水浴びの水が暖かかったら肩まで浸かって気持ちいいかなって思って!僕らが入れそうなタライを探してたんだ!」


 「まあ!そうだったのですね!」


 そこからは自分でもちょっと引くぐらいにトントン拍子だった。


 あれよあれよとミリーとバドリフが全て済ませてしまった。


 「カイン、お前すげえな。」


 「俺も予想を超えすぎてよくわからんよ。」


 「あの演技力はマジで引いたぞ。」


 「許せ、一種の世渡りの術だ。子どもは子どもらしさを演じないと、可愛がられるものも可愛がられない。」


 「はえ〜、それで、今回の作戦の感想は?」


 「ん?不完全燃焼だ。」


 「はぁ!?どこミスったのお前?ってレベルなんだけど!?」


 「いや〜、ミリーがもう少し小言が多いと思って準備しておいた謝罪と言い訳のパターンの9割を消費せずに事が進んだから、対人会話と思えないぐらいトントン拍子で不完全燃焼だったってだけだよ。」


 「そりゃお前、あれだよ、俺たち一応貴族のムッスコだし言い過ぎたら不敬だ何だでリアル首チョンパだろ?」


 「・・・あー、そっか。」


 「なんで一番わかりそうなところだけ今の今までわかってなかったんだよ!!」


 「俺に聞くな、灯台下暗し、そういうときもある。」


 「・・・目が泳いでる辺りマジでそこだけ見えてなかったんだな。」


 「うるせえ!前世の実家では立ち位置が跡取り息子なのに蓋を開けたらフルタイム執事みたいな生活だったんだから俺だってこのギャップに順応するのにすごい時間かかるの!オッケー?」


 「あーうん、そうだったな。なんだっけ、お姉さんに二回手を叩かれたら」


 「ホットコーヒーミルクもセットで。」


 「三回はなんだっ」


 「コンビニに行って私のアイス買ってこい、メールで食べたいアイスの画像と名前送る。」


 「・・・なぁ、お前の家って一応、家族なんだよな?」


 「そうだろ?他の家族の形なんて見たこと無いし見れるもんでもねえから俺にはそんな形わからん。」


 「そうか・・・。って、俺ん家に嫌ほど来てただろ!」


 「あー、行ってたわ。近所にある祖父の作業場レベルで行き来してたわ」


 「ちなみに俺ん家はお前がいてもいなくてもあんなんだぞ。」


 「まあ、それはそれで裏表なくて良くね。」


 「お前の家は行っても行ってもわかんなかったもんなぁ。」


 「まあ家は誰が来ても『他人にボロを出さない』だからな。姉も母上様も親父がいる時は背景と同化してたし。」


 「ちなみに親父さんがいないときは?」


 「俺を顎で使ってた。」


 「だと思ったよ。」


 「ま。風呂入る前に暗い話するメリットないし、ミリー達の準備の様子見に行こうぜ。」


 「おう。」



 俺たちは風呂準備場に向かった


 「・・・ミリー?」


 そこではミリーが手から水を出していた、怪奇現象だ。


 「ああ、坊ちゃま。まだですよ。」


 「あのねミリー、まだですよじゃなくて、なんで手から水が出てるのよ。君の腕に蛇口ついてないでしょうが。」


 「あらあら坊ちゃま、これは魔法ですよ。」


 ま、魔法ッ!?だとッ!?


 異世界転生あるあるだと思ってはいたがこの世界にもやはり存在したと言うのかッ!!!


 「なぁカイン!魔法ってあれか!!漫画とかでよく見たアレか!」


 「ってヨシュア!あれしかねえだろ!よし!これで俺もモシャスやドラゴラムを使うんだ!!」


 「ってカイン、俺は魔法を見るのは好きだけど俺が欲しいのは筋肉だから俺は覚えようとは…」


 「頼むヨシュア!俺と一緒に土下座してくれ!」


 

 ・・・というわけで。


 「お願いします!ミリーさん!いや、ミリー様!いえ、ミリー絶対司教様!私めに、魔法の技術をお教えくださいませ!!」


 「お願いします〜。」


 「あっ、えっ…?えっと、坊ちゃま方!?」


 「なにか不満が…?・・・はっ!私めの態度に不敬がございましたか!いやはや申し訳ございません!ただいま靴を舐めさせていただきます!どうか私めに容赦を!!」


 「ははぁ〜。」


 「カイン坊ちゃま何を!?ああっ!ヨシュア坊ちゃまも止めてくださいまし!!バドリフさん!生温かい眼差しで絶妙な距離感を取らないで!ああっ!誰かお助けを〜!!!」


 後日、俺らは辺境伯(パパ上)にこってりしっぽり怒られた。


 ちなみに風呂は入った。なんならその後館で流行った。


 ミリーとバドリフさんは俺ら関連で話すことが増えたそうだ。まあ、悪くないんじゃね。

 ・・・魔法を見て興奮して平民に土下座した俺ら以外は全部うまく行ったよ。


 「カイン、丸投げした俺が言えることじゃないけど、やらかしたな。」


 「同感だ、今回の巻き込みは俺が悪い。すまん。」


 「今更だな。このぐらいで疲れてたら前世で八年もお前の友達やってねえよ。」


 「ありがとう助かる。」









ーーーーーーーーーーー


 ちょい話


 「ちなみに俺が欲しているものは俺の顔に書いているか?」


 「あー、めちゃめちゃわかりやすく書いてるぞ。」


 「な、なんだってぇーーっ!?」


 「筋肉と彼女欲しいって顔が言ってる。」


 「なんでわかるんだよぉぉーー!!」


 (すまんな、お前のだけは付き合いの長さ故の経験則だ。)


 「逆に他の人たちがわかるのにお前のことわからんかったらそれはそれで問題だろうが。」


 「たぁしかにぃ!」


 「だろ?そういうことよ。」


 「はえ〜。」

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