再会
俺は、刑期を終えて出所した。罪状は殺人罪。さてと、どうしようか。取り敢えずは以前いた家にでも行こうか。そこが既に売却済みだったらどうするか、まぁ野宿のホームレスだろうな。
ふと、そばにあった電化製品店のテレビを見る。
とあるピアニストの話題だった。彼女は今夜、チェコの公演へ向けて旅立つらしい。
結局行く宛もなかった俺は以前いた家へと戻った。徒歩であったのでかなり時間がかかってしまい、空はもう暗く染まりきっていた。ドアの前には一人の女性が立っている。一瞬誰だろうかとも思ったが、やがて俺のあとの住人であると考え付けた。もう、ここじゃ暮らせないな。そう思い、俺はそのまま彼女の横を通りすぎようとした。が、ギリギリまで彼女に近づいたときだった。それまで暗闇で良く見えなかった、街頭の光によって顔が判別できるほどには写し出された。その顔を見た瞬間の俺は、絶句。
「なんでお前が、ここにいるんだ?」
そこにいたのは俺の一生の推し。俺の一番愛したピアニスト。先程テレビでチェコに飛び立つと行っていた演奏家。
「ようやく帰ってきましたね。遅いですよ。」
彼女のその声を俺に対して久しぶりに聞かせてくれた。
「帰ってきたさ。帰っては来たけど、お前はなんでこんなところに。」
「貴方が刑期を終えて、出所したときいて。」
「だからって、チェコ公演まですっぽかして来る必要はなかった。昔に言ったはずだ、ピアノで罪を償えと。」
「生憎と、フライトはキャンセルしましたよ。貴方に会うために。」
「馬鹿野郎!折角のチャンスを余計なことで無駄にするな!」
「余計なことではありません、確かに貴方に会うためにキャンセルしましたが、私のためでもあるんです。私は我慢できないんです。私のために人生をかけてくれた人を差し置いて、世界中のにわかファンに向けて演奏することが。だから今日は最初で最大のファンへ向けてのスペシャルライブです。」
その言葉にはなぜか懐かしさを感じていた。いつも通りを思っている俺がいた。
「さぁ、公演を始めましょう!と、その前に、お帰りなさい!」
いつぶりかの笑顔に俺は感謝をこぼしながら、
「あぁ、ただいま!」