最後
あれから、どのくらいの時間が経っただろうか。空は夕日で紅く染まっているから、少なくとも7,8時間は経っていると思うが。夕方くらいに連絡すると言っていたのだが一向に連絡が来ない。
「流石に、遅すぎるな」
何かしらのトラブルに巻き込まれている可能性がある。であれば放置しておくのはまずい。そう思い、俺は彼女の連絡を待たずに家へと帰ったのだった。
「喜んでくれるかなぁ」
私は今、チョコレート菓子を作っている。彼にはバレンタインデーだからと言っておいたけど、今回私がチョコを作る理由はそれだけじゃない。今まで、保護してくれていたお礼だ。だからこそ楽しくもあり、少し恥ずかしくもある。
ピーンポーン
不意に家のインターフォンがならされた。今家に彼はいない。だから訪問客には私が出た。私が扉を開けると。
「なんで?なんで貴女が生きているのよ」
見知らぬ女性が土足で上がり込んできた。
「なんでうちの子が死んで、貴女が生きているのよ!」
この発言、そういうことだろう。おそらく私が殺した二人のうちのどちらかの母親なのだろう。いつか何かのタイミングで私が生きているのがバレて家まで追いかけてきたのだ。随分とストーカー紛いのことをしてくる人だが、今の私にそんなことは関係ない。女性は今、私に向かって包丁を構えているのだ。この間合いであればいつ殺されてもおかしくない。そして私は・・・
私は包丁が振り下ろされる前に気を失ってしまった。目を覚ますと目の前には先程の女性が横たわっている。
「被害者の少女は突然何者かに襲われ、殺されかけたことにより意識が混濁している」
真横から聞き覚えのある彼の声。
「ど、どういうことですか?」
「どうもこうもないさ。連続女子高生殺害事件の犯人はこの俺で、君はそれの被害者」
「私が被害者って。殺人犯は私ですよ」
「やっぱり意識の混濁状態になっているな」
「意識混濁って、冗談はやめてください。私はこれ以上、貴方に迷惑はかけられません。罪は私がちゃんと」
「じゃあ、俺からのたった1つのお願いだ。君には世界一のピアニストになってほしい」
「そんな!」
「もうじき警察が来る。それまでにもう少し、言い訳の台詞考えておくかな?」
その後、私が何を言っても彼は考えを改めなかった。しばらくしてから警察が来て彼は逮捕、私は保護という形で警察署に行く事になった・・・・・・。
「・・・改めて確認するぞ。連続女子高生殺人事件の犯人は君であっているな。」
「はい」
俺は、警察署の取調室の中で若い警官と対峙した。今から俺はこいつを欺かなければならない。欺ききって、彼女を守りきらなければならない。
「ひとつだけ聞く。凶器の包丁に彼女の指紋が付いていたのはなぜだ」
「俺が目を離した隙に勝手に触ったんじゃないんですか」
俺はあらかじめ用意していた回答をすらすらと述べた。
だが、警官はなかなか信じようとしない。
疑っているのか?だったら欺ききれないかもしれない。俺はこの警官を欺く必要がある。推しのピアニストを守るため言え!心苦しくても、自分を・・・隠し・・通せ!
「あの女、本当に使えない。なんでもするって命乞いするから生かしてやったのに、結局は全く使えない人間だった。俺がいなかったら死んでたかもしれないってのに。ただただ俺の邪魔をしただけだ」
心が・・・痛い。だけど、疑われたら敗けだ。悪を、貫け!
「結局あいつは要らなかった。生かしておける器じゃなかった」
最後の方はもう思考が止まっていた。警官が何かを言っているが分からない。
その後俺は起訴された。彼女の罪にはならなかった。俺は、貫くことができた。彼女を守りきるとができたのだ。