二人目
死んだ
福永南美は死んだ。呆気なかった。手応えも特になにもなかったが、高揚感だけは私を包み込んでいてくれた。
私は包丁の刃をタオルで包んで鞄にいれた。怨みを込めて彼女を埋めた土を思いっきり踏みつけてから学校をあとにした。
家に着くと着替えて、返り血の付着した服を洗濯した。その後、手に付いた洗い落としていたときだった。ようやく窓の外が白々と光り出した。朝が来たのだ。私はいつも通りの生活をこなし始める。いつも通りの生活を装って動く。そんなこんなでゆっくりと朝食を食べ終わった午前7時、再びスマホが電話の着信を伝えた。
「もしもし」
なにも知らないフリ、いつも通りの声色を意識する。
「もしもし?私なのだけど、岩佐三里」
電話の相手の岩佐はいじめグループの下っ端実行犯。
「いま、福永様の所在が分からなくて。上の人にも聞いてはみたけど全員。で、アンタ知ってないかと思って」
「すみませんが、分かりかねます。ですが、心当たりならいくつかあるので案内しますよ。そうですね、口頭では伝えにくいので30分後に・・・にいてください」
場所を指定して、私は電話を切った。次はこいつに復讐してやる。狙いどおり福永を殺したことで下っ端たちはあわてている。このまま復讐をすれば、美琴をいじめて自殺に追いやったふざけた組織を壊滅させることができる。私は再び〔復讐〕の準備をするのだった。
その場所は、朝にも関わらず光が殆ど差し込んでいなかった。薄暗くじめじめとした不穏な空気が周辺を包んでいる。そこに、彼女はいた。私は後ろからゆっくり近づいてその女、岩佐三里に包丁を突きつけた。もう迷いはない。冷酷にその女にも告げる。
「動かないでください。私は今、包丁を持っています」
私のその言葉に、岩佐はすぐさま取り乱した。
「なんで、やめて!謝るから、今までの事謝るから」
なるほど。悪行の自覚はあったらしい。
「じゃあひとつ聞くぞ。」
「分かった。なんでも答えるから、私を助けて。」
「なぜ美琴をいじめ続けた?なぜ福永に付いた!」
すると、岩佐は怯えた声で囁くように言葉を並べた。
「南美ちゃんに見捨てられちゃったら、私がいじめられる側になるし、高校は孤独じゃ生きていけないから。それに、南美ちゃんには恩義もあるから、今さら裏切れなくて。だから、本当にごめんなさい。」
まったく、聞いて呆れる内容だ。そんな自分中心な考え
「許せるかよ。そんな理由、良く言えたな、私に!」
響いた私の叫び声に紛れて背中を貫く音がした。
「・・・・・・・・・え?」
数秒後、背中に包丁が刺さったまま、岩佐は死んだ。
「よし、死にましたね。」
私は福永の時と同じ手順で死体を処理した。私はまた包丁をタオルで包んで鞄にねじ込む。その場を去る私の顔には満足の表情が貼り付けられていただろう。
『和倉高校2年生の福永南美さんが行方不明者として警察に届け出されました。現在警察では同じタイミングで連絡の取れなくなった、同じく和倉高校2年生の二人がなにかしらを知っているとみて捜査を進めています。』
バレてしまった。連絡の取れなくなった二人というのはおそらく先ほど殺した岩佐と私だろう。逃げるか?だかどこに逃げる。私に逃げるアテなどは一切ないぞ。しかし今はそんなことはいっていられない。日本の警察はとても優秀だ。時期に私のところにまで手が延びるだろう。そうなれば必ず、何もかもがバレてしまう。とにかく今はやみくもに逃げるしかない。誰も私のことを知らないような、遠くの土地まで。そう決意した私は、家を転がり出た。