スカート
二人が別れ別れになったのを確認して、私は和真に声をかけた。
「……なーに、にやけてんのよ」
和真の頭をぶっ叩く。ワックスで固められた髪形は、私のチョップなんかものともしない。中学の頃はつけてなかったくせに。
生意気。
「いって!なんだよ、お前かよ」
私を一見した後に、すぐに和真は彼女の方向に視線を向けた。気に食わない。彼の視線の先には、校則を思いっきり無視して短くしたスカートを履く女子の後ろ姿があった。なんとなく対抗して、胸を張ってみるけど、和真は見もしなかった。
「……足なげえよな、武田さん。あ、違うわ。美雪」
「……そう見えるだけでしょ」
私の嫌味なんてどうでもいいのか、和真は相変わらず彼女の足を見ている。
むかつく。
その顔を見て、言いたくないことが沸々と浮き上がってきて、言葉になってしまう。
「……なんで、武田さんあんたなんかの告白受けたんだろうね。罰ゲームじゃないの」
「失礼だな、俺のアプローチが効いたんだろ、そんなん」
和真は、ようやく見つめるのを辞めて、歩き出した。私も慌てて彼に倣う。
「……つうかお前、いつから見てたんだよ」
「あんたが、武田さんのほっぺ触って、軽く引かれてたところからかな。」
「一番、見られたくないところじゃん」
「私だって見たくなかったわ。あんな可哀想な場面。ただでさえ、学校でもいちゃいちゃしてんだから、もうごちそうさまって感じなんだけど。いつ別れんの?」
「馬鹿。やめろ。」
「大体武田さん、化粧とかしてんじゃん。校則違反だよあれ。だめでしょ。」
「別にいいだろ。」
和真が少し歩くスピードを速くした。エナメルバッグに付いたバスケットボールのストラップが激しく揺れる。
高校に入学してから、和真は身長が伸びた。おのずと、歩幅も広くなる。そうなると、彼の横を並んで歩くには、私の最大全速で歩かなければならない。
「じゃあ、俺こっちだから」
軽く右手を挙げて、和真は迷いなく十字路を右に曲がっていった。私は、その後ろ姿を見つめながら、振り向けと心の中で念じる。スカートを少し上に上げる。
振り向け、振り向け、振り向け。
私の念は届かなかったらしい。
逆に、彼の姿が見えなくなるまで、私は彼の後ろ姿を見つめていた。
……罰ゲームなんかじゃないだろう。彼の努力を人一倍近くで見てきたのに、なんであんなこと言ってしまったのだろう。
高校に入ってから付け始めたワックス。
身長が伸びるからと運動神経なんて皆無なのに、バスケ部にまで入って。
彼は確実に格好良くなった。
周りは変わり始めている。
女子だって、男子だって。私はどうだろうか。いつか彼の歩くスピードにすら付いていけなくなるかもしれない。
そうなったとき、私はどうするんだろうか。
どうなるんだろうか。
いつもよりも露出された太ももに冷たい風が吹きつける。私は、こんな寒い格好ずっと続けられない。何よりも恥ずかしい。
武田さんは凄い。やっぱり私には無理だ。
スカートを元の位置に戻す。
自分の脚の長さが前よりも、スカートを上げる前よりも、短くなってしまったように感じた。




