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第四話 安息の地を求めて

や、やばい……予定通りの時期に更新出来ないかも……


一応、残酷描写のタグを追加しました。

第十雄洋丸が横須賀基地から間近に見えるようになってきた頃、はるなは『あきづき』の艦橋に数人の艦魂と共に徐々にこちらへと流れて来る第十雄洋丸を見ていた。

火災は下火状態になったとはいえ船体の所々は、赤褐色に変色しており無残な姿をさらしていた。

その様子を見ながら、はるなは昨日の事を思い出した。

昨日、ひえいと別れたはるなが『あきづき』にある艦魂とその存在を知る人だけが知っている会議室(実際はただの空き部屋)に着くとそこは喧騒に包まれていた。

その中であきづきは必死に声をあげていた。

「みんな静かにして!」

しかし、皆、先ほどの爆発が気になるのか一向に収まる気配がない。

はるなが周りの空気にのまれかけたとき、会議室のドアが大きな音とともに開かれた。

「貴様ら、いい加減に静かにせんか!!」

ドアが開かれたのと同時に響いた怒号に、部屋は一気に静まり返った。

現れた人物は腰のあたりに一振りの脇差しを差し、身にまとう制服は自衛隊の物であったが所々違いが見られる。

「いちいち騒いでいて、我々の務めが務まると思っているのか貴様ら!我々が騒いでどうする!!」

「ゆきさん、落ち着いてください」

さらに怒鳴り散らそうとする人物をあきづきは止めた。

「ゆきさんが、怒鳴り散らしても何も変わらないでしょ。みんなも、ゆきさんの言う通り少し落ち着いて」

皆を落ち着かせようと、あきづきは落ち着いた声で話しかける。

そこにいるのは、つい先ほどまではるなとはしゃぎ合っていた友人のあきづきではなく、就役以来の冷戦下、ソ連と真っ向から対立し続けた司令官のあきづきだった。

一方、あきづきに止められた相手は小さく「すまなかった」と言うと、はるなの隣の席におとなしく着くとはるな

を一瞥し礼をした。

「騒がせてしまって悪かったな」

「い、いえ……」

小さな礼であったが、威厳ともいうべきものがあり、はるなは思わず身を引いた。

その礼一つにも威厳を放つ彼女は護衛艦はるかぜ型護衛艦、二番艦の『ゆきかぜ』の艦魂である。

見た目は20歳ほどで短髪といえるほどまで短く切った黒髪とすらっとしたスタイル、日本人とアメリカ人のハーフを思わせる容姿、そして先ほどの口調もあってか非常に男らしく感じた。

彼女は戦後、日本で建造された護衛艦(DD:Defense Destroyer)の中では2隻目にあたり、他のどの護衛艦よりも日本の海を守っていた。

艦齢からすでに第一線である護衛艦隊からは引退し、実用実験艦隊の所属であったが現在ここにいる艦魂達の中では一番の年長者でその気迫にほとんどの艦魂が呑まれるのだ。

ゆきかぜの罵倒と、あきづきの呼び掛けに室内は落ち着きを取り戻しつつあった。

落ち着き始めたその様子にあきづきは一息つくと、周りを見渡し口を開いた。

「今は何も情報がないから不安だけど……」

そこまで言って席に着いたゆきかぜに視線を向け続けた。

「ゆきさんの言うとおり私たちがここで騒ごうと状況は変わらないわ……今は情報が来るまで待ちましょう」

あきづきの言葉に皆は落ち着きを取り戻したのかそれぞれ自分の席につくか部屋の外へと出て行った。

はるなはただ自分の席に座っていたが、隣のゆきかぜが話しかけてきた。

「不安か?」

いきなりの言葉に、はるなはビクッとしたが静かにうなずいた。

いくら冷戦の時期とはいえあそこまで大きな事故を見たことのない、はるなにとっては衝撃は大きかった。

はるなの様子に、ゆきかぜは先ほどの怒鳴り声とは違う優しい声で話し始めた。

「あれはただの事故で私達には関係のないことだ、皆が無駄に騒いだのは悪かったな」

そう言ってゆきかぜははるなの頭をポンと叩いた。

「それと、ひえいはよくできた奴だ。あいつ一人でも大丈夫だろ……だけど後でもう一回顔を出してやれよ」

それだけ言うとゆきかぜは軽く笑みを浮かべ、席を立ちあきづきの方へと歩いていき何やら話し始めた。

その様子を、はるなはただポカンとして見ていた。

ゆきかぜは『後でもう一回顔を出してやれよ』と言った。

つまり、彼女ゆきかぜは先ほどまで、ひえいの所にいたのを知っていたということだ。

はるなは『いつの間に……』と心の中で思わず呟いてしまった。

しかも、自分は一言も妹であるひえいのことを話していないはずなのに自分がひえいのことを心配しているのに気付いたのだ。

あきづきと話すゆきかぜを見ながら二人とも優秀な艦魂じんぶつであるのをしみじみと感じたのだった。


「思ったよりひどいな……」

ゆきかぜの声で、はるなは回想から現実へ引き戻らされ再び小康状態になりながらも燃え続ける第十雄洋丸の方を見た。

その時ちょうど曳航をするための作業が始まったらしく巡視船とタグボートの二隻が第十雄洋丸に近づいていた。

「あの船の船魂……ユウさんは大丈夫なのかな……」

はるながポツリとつぶやいた言葉にあきづきとゆきかぜは悲痛な表情を浮かべる。

艦魂にしろ、船魂にしろ、ともに自分の本体である船体が傷つけば自身も傷つくのだ。

まして一晩経った今も燃え続けるあの火災の酷さから考えると船魂は想像もできない状態だろう。

そのことを考えながら曳航されていく船を見続ける、はるなにゆきかぜは淡々と答えた。

「おそらくひどい状況であると思うが、どのみちあの船は捨てられるだろう。」

「えっ……」

驚いた表情で振り返ったはるなに、ゆきかぜは口調を変えずに話し続ける。

「あの状況では火災が収まっても修理は無理だろう……話によると安全なところに座礁させ、積荷のナフサやプロパンなどの可燃物をすべて燃やすそうだ、その後は解体されるだろう……」

「ちょっと待ってください!積荷をあのまま燃やすってことは……」

「ああ、それまであの船魂は苦しみ続けるだろう」

どこまでも落ち着いた口調で淡々と話すゆきかぜに、はるなは怒りのまなざしを向けた。

「どうしてそんなに冷静でいられるの!あの人は苦しんでいるんですよ!」

はるなの言葉にゆきかぜは一端目を閉じ深呼吸するとはるなを鋭い目で睨みつけた。

「それがどうした!」

ゆきかぜの怒号にはるなはビクッと肩を震わせた。

「作業をする人間、彼らには我々は見えていない。彼らが見ているのは私たちではない、一隻のタンカーをどうするかを考えているんだ!」

「でも……」

「でも、ではない!」

ゆきかぜの一括に、はるなは肩をすくませた。

その一括は近くにいるあきづきも少し顔をこわばらせていた。

「我々がすべきことはこの国を守る、この国のために働くことだ!平時の事故でタンカーの一隻や二隻がどうとなろうと知ったことではない!」

トドメとも言わんばかりに、ゆきかぜは近くの手すりを叩いた。

すると、はるなはゆきかぜの気迫に負け、目に涙をためながらどこかへ転移していった。

はるながいなくなり、二人だけになったのをあきづきが確認するとゆきかぜに話しかけた。

「ごめんなさいゆきさん。あんなこと言わせて」

「気にするな」

あきづきの謝罪を受け流すゆきかぜは脇差しを見つめた。

ゆきかぜ自身、事故を起こした第十雄洋丸のことを全く心配していないわけではない。

同じく船に宿るものとして、心配している。

しかし、最終的に物事を決めるのは人間だ、いくら彼女たちが騒ごうと物事は関係なく進むのだ。

「私はあの方から『艦魂と人間の感じるものは違う』その事を教えられた」

誰にでもなく語り出したゆきかぜに、あきづきが目を向けるとそっと手にした短刀を、目を細め見つめていた。

「あの人は自身の願いをかなえることはできなかったが……この脇差しを私に託してくれた」

それを聞いてあきづきは、ゆきかぜの手にする脇差を見つめた。

あの脇差が、ゆきかぜにとってどれだけ大切なもので意味のあるものか、あきづきはよく知っていた。

「だからこそ私は……」

脇差しを腰に差し直し、ゆきかぜは第十雄洋丸へと目を向けた。

そこでは曳航作業のため、身の危険を顧みず第十雄洋丸に乗り移り曳航索を取り付ける人間とそれを不安そうに見つめる船魂がいた。

「……私の感じたこと、出来ることをする」

そう言いきったゆきかぜの短い髪が風に小さく揺られ、曳航索が取り付けるべく一隻のタグボートが炎を出す第十雄洋丸の船尾へとゆっくり近づいて行った。




この時、第十雄洋丸に接近していたのは『大安丸』であった。

『大安丸』の船長は衝撃を与えない様に慎重に操舵して大安丸へと接舷させ自ら第十雄洋丸に触れ、まだ船尾まで火が回ってないことを確認し二人の作業員を乗り込ませ曳航索を取り付けさせた。

そしてこの時、船魂の大安丸はユウの様子を見るべく彼女がいるという船橋へ、手に広がる若干の熱に耐えながら向かった。

大安丸が船橋のトップに行くと他の船魂から話に聞いた通りユウがいたが、その姿のユウを見て大安丸は目をそむけたくなった。。

「……っ!」

そこには首元を中心に上半身のほとんどに包帯を巻いている少女、ユウが背を壁に預け横たわっており周囲には肉の焼けるようなにおいが少しあった。

一応、ここに来る前に手当をした船魂たちからユウの様態を聞いていたがこれほどまでとは思っていなかった。

話によれば、いくら包帯を変えても巻かれた包帯はにじみ出る血によって少しずつ赤く染まり、やけどもじわじわと広がっているらしかったが、実際に見てみると赤黒く変色した包帯とその下から見える焼け爛れた皮膚は生々しく、話とはまったく違っていた。

大安丸が固まっているとその存在に気付いたユウが話しかけてきた。

「…あな…た……は?」

苦痛に耐えるように出てきた声は弱々しく、傍にいる大安丸ですら聞き取るのが難しいと思えた。

大安丸はユウに負担をかけないよう、近くで腰を下ろし話しかけた。

「あなたを今回曳航する大安丸と言います」

「曳……航?」

苦しみながらも『曳航』と言う言葉にユウは反応し、大安丸は頷いた。

「はい。これからあなたの事を千葉の富津沖の浅瀬に曳航します」

「…………分かり…ました」

しばらくの間が空いた返事ではあったが、ユウは弱々しくもしっかりと頷いた。

大安丸は一息をついて曳航の概要を説明した。

曳航は自分や巡視船の『まつうら』が行うということ、曳航が危険なためそれほど速力が出ないということなどを説明し、それが終わるころには曳航索の取付が終わったらしく『大安丸』が離れて行くのを感じた。

「では私はこれで」

そう言い大安丸が礼をして去ろうとした時、小さな声をかけられた。

「ごめん…なさい……」

その声に、大安丸は立ち止まり振り返るとユウが涙を流しながら謝っていた。

「本当に…ごめんな…さい……」

ユウの謝罪に、大安丸は驚くとしばし沈黙したのち深々と礼をしてその場から去って行った。

その後、第十雄洋丸の曳航を開始した『まつうら』と『大安丸』の二隻であったが、その作業は難航した。

いつ再び爆発するともしれないタンカーを曳航する以上、何よりも慎重さが求められている状態でなんと、火災の熱でナイロン製の曳航索が溶け切れてしまったのだ。

そのため大安丸は再び第十雄洋丸に接舷、曳航索を取り付けたのち、再び溶けて切れることの無いように、『ひりゆう』ら消防船が曳航柵に水をかけながら曳航する事となったが、それは連日炎と戦い続ける人々や船魂たちにとっては酷であった。

そんな中、再び取り付けられた曳航索に放水をする中、ひりゆうはユウのいる船橋を見た。

「ユウさん……」

船橋を見る、ひりゆうの顔には疲労の色と悔しさが見え隠れした。

つい先ほど再開された曳航作業は、再び曳航索が切れる事のない様に『まつうら』が先導しながら指揮を執り、曳航は『大安丸』と同社の『大成丸』が時速500メートルという速度でゆっくりかつ慎重に曳航は行われていた。

その間、ひりゆうは黒煙を上げ燃える第十雄洋丸の姿を見ていることしかできなかった。

消火の際に『必ず消す』と言ったにもかかわらず消す事が出来ず、今はただ曳航の手伝いをする事しかできない事がつらかった。

「すまんな……ユウさん……オラの力不足のせいで苦しめちまって………」

彼女たち『ひりゆう』型消防船3隻は、この様なタンカー事故を想定して備えられていたはずなのに結局、力不足であった。

もちろん、パシフィック・アレスの火災を鎮火させたり第十雄洋丸の炎のをここまで弱めたのは彼女たちのおかげであったが、己の託された事を出来なかった事を悔やむ、ひりゆうにとっては許せなかった。

「でも、そんな自分でもいまだに託された事はある!」

ひりゆうはそう自分自身に言い聞かせ、曳航索への放水に意識を集中させた。

「ユウさんの体を無事に移動させる!オラの仕事はまだ終わっとらん!」

ひりゆうは目に涙をためながら力強くそう叫んだ。

それが大好きだった飲み会にもう二度と参加する事がかなわなくなった、彼女ユウに友人として自分が出来るせめてもの事なのだから……。


そして炎を消す事の出来ない第十雄洋丸は長い時間をかけながらも11月18日、千葉県富津沖約9キロ、水深10メートルの地点に座礁させることに成功した。

座礁の際の衝撃で残った積荷に引火することが懸念されたが、少しでもその可能性を少なくするために座礁の予定地点の海底が砂質の土壌で船底にダメージを与えることも少ない場所を選んだ。

また、ほかの船舶への影響も無く安全であるという観点から航路からも離す事が決まっていた。

そして、わざわざここに曳航した理由は、船内に残されたすべてのナフサやプロパンを燃やしつくす事であった。

しかし、未だに多量の可燃物を抱え、いつ爆発するともわからないうえに、オイルフェンスで防いでいるとはいえ漏れ出るナフサなどを理由に沿岸の海苔養殖業者などからの抗議が多数寄せられた。

それを受け今回の事件を受け持つ海上保安庁第三管区本部は、19日に会議を開き第十雄洋丸を野島崎の東、約200キロの太平洋へと移すことを決定。

離礁の際の衝撃で爆発する可能性があるので作業はかつて、戦時中の瀬戸内海で謎の爆沈を遂げた戦艦『陸奥』の主砲の引き上げなどをしたサルベージ会社に任される事となった。

さらにこの時、第十雄洋丸の船主である会社から「第十雄洋丸を処分してほしい」との要望を受け、処分の方法も考慮され始めていた。

そして翌20日の午前8頃に第十雄洋丸はサルベージ会社指揮の元、タンク内への消火剤の注入し6隻のタグボートによる作業により無事に離礁、再度の爆発に気をつけながら慎重に曳航され無事に東京湾外へと曳航する事にことに成功。

第十雄洋丸は荒れることなく穏やかな太平洋へ、最後の航海に出たことであったがそれは長くは続かなかった。

離礁して約十二時間後の午後7時40分過ぎ、第十雄洋丸は強烈な爆音と共に再び大爆発を起こした。

21日、海上保安庁は『これ以上の曳航は危険』と判断して曳航を断念、第十雄洋丸は二隻の巡視船が見守る中、黒潮の海流に乗り太平洋を炎上しながら流されることになった。

そして11月22日、海上保安庁はこのままでは付近を航行する艦船への二次被害の恐れと、環境に悪影響があるとして防衛庁に第十雄洋丸の処分を要請した。

その要請を受け当時防衛庁長官だった宇野宗佑長官は、その日の内に海上自衛艦隊に災害派遣として第十雄洋丸の『撃沈処分』を決定。

それは自衛隊創設後としては初めて且つ異例の火器の使用を許可された命令であった。

前書きでも書きましたが執筆が大幅に遅れておりますが一応、次回の予定は26日の16時を予定しております。

 誤字脱字等があれば指摘お願いします。


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