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第三話 業火に奮戦せし連合艦隊

いろいろ付け足していたら予定より少し遅れてしまいました。

サブタイの通りどこかで聞いたことのある名前が多数出てまいります。


今回は少々きつい表現がありますので苦手な方はご注意ください。

衝突の瞬間、船橋のトップにいたユウはその場でうずくまっていた。

先ほど首から噴き出した血はしばらくして止まったが、その部分から徐々にやけどが広がっていった。

「くっ!!」

首元を中心に広がる痛みを必死にこらえ、ユウは立ち上がろうとしていた。

船魂である彼女は、船と一心同体。つまり船が傷を負えば同じように傷を負うのだ。

衝突時の破口による傷と火災によるやけど、人間では耐えられないような傷でも彼女は必死に立とうとしていた。

「早く……逃げて……」

未だ彼女ユウの中には可燃物である大量のナフサやブタン、プロパンが積まれているのである。

今のところ火災は船首のみで起こっているがもし、他の積荷に引火すればさらに被害は大きくなってしまう。

ユウはその事が心配であったが、すでに船長が非難の指示を出しおり船尾の方から乗組員は飛び降りたり、救助艇に乗って脱出していった。

「良かっ―――――――――!!」

ユウがホッとした瞬間、再び爆発が起こった。


同じ頃、衝突した際にナフサを大量に浴び、まさに船そのものが業火に包まれていたパシフィック・アレスの船魂であるアレスは全身に大やけど負っていた。

「船……長……っ!!!」

衝突の際、船橋の外にいたアレスは全身大やけどでありながらも船長を心配して艦橋の中へと入ったが、そこで見た物はあまりにも悲惨な光景であった。

船橋内は衝突の際に降りかかったナフサが燃え広がりまさに地獄と化していた。

そこでは、炎に包まれた船員がのたうちまわり、またあるものはすでに動かなくなっていた。

「そ、そんな……」

アレスにとって、それはあり得ないことだと思った。

普通の人間では死ぬような状況でも船魂である彼女たちは船が沈まない限り決して死ぬことはない。

しかし、船魂でない……ただの人間である乗組員である彼らはそれには当てはまらない。

そして、それは当然、彼女が安否を気にして来た彼も同じであった。

「あ………」

アレスは見てしまった。

先ほどまで「大丈夫だ」と言ってくれていた、彼女の事を認識していた数少ない存在。

パシフィック・アレスの船長である彼がすでに動きを止め、炎にむしばまれている姿を………

「―――――――――!!!」

アレスの絶叫は再び起こった爆発によってかき消された。


突然の爆音に疲れて倒れていた、はるなとあきづきは飛び上がり、ひえいとひりゆうは音のした方に目を向けた。

人間よりも視力の良い彼女たちには、その惨状が手に取るようにわかった。

「ありゃ、ユウさんでねぇか!!」

「えっ!!」

ひりゆうの言葉に、ひえいは驚きの声を上げその場にいた一同はしばしの間、動くことが出来なかった。そして、二度目の爆発で、その場にいた全員が我に返った。

「こりゃ、やばいことになっちまっただ」

最初に動いたのは、ひりゆうで別れのあいさつもそこそこに、その場から去って行った。

またあきづきも先ほどまで、はるなをからかっていた顔ではなく真剣な面持ちになっていた。

「はるちゃん!私は自分のところに戻るわ!」

それだけを言い残すと、あきづきはそのまま転移の光の中へと消えていった。

「ま、待って、私も……」

はるなは急いで、あきづきの後を追おうとしたが足を止め、ひえいの方を振り返った。

そこには不安そうに顔をゆがませ濛々(もうもう)と上がる黒煙を見つめている、ひえいがいた。

生まれて間もないひえいにとっては、その状況はあまりにもひどいものだった。

もちろん、はるなとて初めての状況であったが妹の前と言うこともあってか必死に体裁を整えようとしていた。

「ひえい……大丈夫だから……その………」

はるなはしどろもどろになりながらも、ひえいを何とかしようと声をかけるがすぐに言葉に詰まってしまい俯いてしまった。

何も出来ないはるなと、矇々と立ち上る黒煙を見つめるひえい

重い沈黙が流れる中、再び爆音が響きひときわ大きな黒煙と炎が上がった。

「お姉ちゃんもう行っていいよ」

驚いたはるなは背中越しに言ったひえいに目を向けた。

「お姉ちゃんの言うとおり私は大丈夫だから……だから戻っていいよ」

「ひえい……」

「お願い……」

振り向かずに懇願するひえいに、はるなは小さく「ごめん」と言って自艦へと戻って行った。

はるながその場から転移するのを背で感じながら、ひえいは濛々と黒煙を上げる二隻の船を見た。

「……ユウさん」

一度も会ったことのない船魂じんぶつではあったが、ひえいにはこの事故が他人事とは思えない何かが芽生えていた。


誘導していた第十雄洋丸の航路を横切るようにやって来たパシフィック・アレスに気付き直前まで警告を行い二隻が衝突した衝撃と爆音を、どの船よりも一番近くで感じた『おりおん1号』は第十雄洋丸からの要請を受け、海上保安庁に連絡すると同時に乗員の救助作業を行うべく急速反転した。

衝突した二隻の周囲、特にパシフィック・アレスは第十雄代丸から流れ出たナフサにより字のごとく火達磨と化していたが、第十雄洋丸の船橋のある艦尾側はいまだ無事でそこから乗組員は避難しようとしていた。

「ユウさん……」

イオリは非難する乗組員を確認しながらユウの事を気遣い彼女の元へ向かおうとしたが、その時二度目の爆発が起きた。

「っ!!」

天高くへと昇る不気味な黒煙と、その勢いを増す炎を見てイオリは足がすくんでしまい、ユウのところへ転移することが出来なかった。それからしばらくの間、『おりおん1号』は一隻で救助活動を行っていたが、連絡を受けた海上保安庁の巡視船『まつうら』や消防船『ひりゆう』を筆頭とした巡視船や消防船、さらに応援に駆け付けた東京消防庁や横浜消防局の消防艇、そして民間の港内作業船や民間船舶等が集まり火災の消火と乗組員の救助作業を開始した。

そして、それは船魂達も同様であった。

「長官!ユウの乗組員を一人助けました!」

「よくやった!それと『長官』言うな!」

「しかし……」

誰でも船魂が見えたならば、それは非常に五月蝿いであろうやり取りをしているのは民間の船舶である『三笠』と『金剛』の船魂である。

彼女らは応援に駆け付け、脱出した乗組員の救助を行っていた。

そんな中で三笠は民間の船魂たちのリーダー的な存在であった。

その理由はかつて日露戦争で当時、世界最強と呼ばれたロシアのバルチック艦隊と連合艦隊の旗艦として戦い見事に勝利し、その後記念艦となった戦艦『三笠』と同名と言うことで仲間内では『司令長官』と呼ばれていた。

しかし、三笠本人としては自分には荷が重すぎると言い、皆に止めるように言っている。

「しかしも、かかしも、あるか!無駄口叩いている暇があるなら霧島と一緒にユウの所に行くか、衣笠と共にアレスのところに行け……いや、ここに残って他の奴らに指示をしてくれ」

現在、同じ民間船の仲間である『霧島』や『衣笠』といった一部の船の船魂たちが、衝突を起こした双方の船魂のもとへ向かって応急の手当てをしていた。

船が本体である彼女らにとってそれは基本的に意味のないことであったが、多少は痛みがマシになるということでの処置である。

三笠はそう言い切ると身を翻した。

「長官?」

「長官言うな!海保の責任者に今お前が救助した人間の事を言ってくる」

三笠はそれだけを言い残すと、その場から光の粒子を残して転移していった。


その頃、燃え上がる黒煙を見ながら一人の船魂が思わずつぶやいた。

「東京湾内はしばらく航行禁止か……」

そう言ったのは巡視船『まつうら』の船魂だった。

年は10代後半程で少しつり上がった目が、燃え上がる二隻を見つめていた。実際この事故により事故現場の周囲3.6キロは200メートル以上の大型船舶の航行が禁止され事実上、中ノ瀬航路と浦賀水道は封鎖され東京湾の出入りが出来なくなったのであった。

まつうらがそのようなことを考えている間にも二隻は強風にあおられ、徐々に横須賀方面へと流され始めていた。

そしてこの事態を打開するため二隻の曳航が決まりその作業を指揮することになったのがまつうらだったのだが……

「これじゃ曳航索を取り付けられないな……」

まつうらの言うとおり炎に包まれたパシフィック・アレスは鎮火するまで曳航は不能。第十雄洋丸も艦尾付近はいまだ無事であったが、いつ別のタンクに引火するかわからず非常に危険な状態であった。

ただ消火を待つことしかできない、まつうらの元に一人の船魂が現れた。

「どうした、ひりゆう?」

「だめだ、とてもでねぇがこのままではしばらくは火を消すことが出来ん!」

「なんだと!?」

ひりゆうの言葉にまつうらは額に皺を寄せ不機嫌そうに問い返し、ひりゆうは焦った様子で答えた。

「消火の人手が足りん」

「だからどうしてだ!?応援を要請したんだろ!!」

もはや怒鳴りともとれるまつうらの叫びに、ひりゆうも大きな声を出して答えた。

「この風と波では小型の消防艇らはこれんと!今いるオラらだけでは限界があるっ!!」

ひりゆうの言葉に、まつうらは固まった。

消火作業現場の風速は13メートル、波の高さは1.5〜2.メートルだった。

小型の消防艇が作業をするには危険な状況と判断され、4隻の小型消防艇は後戻りをせざるを得なくひりゆうの妹である『しようりゆう』(読みはしょうりゅう)と『なんりゆう』、そして応援に来た消防艇の1隻でしか消化活動ができなかった。

そのあまりにも絶望的な現状に、まつうらは唇を噛みひりゆうもまた黙ってしまいしばらくの間二人は沈黙していた。

その状況の中、別の船魂がやってきた。

「あなたは?」

芳しくない状況にイライラし始めたまつうらは厳しい語気で訪ねた。

「今回、曳航作業を担当することになった『大安丸』です」

まつうらの厳しい口調にも動ずることなく、凛とした表情で大同丸は答えてきた。

「その大安丸さんがどうした?」

まつうらは不機嫌もあらわに聞き返す。

「曳航はいつ可能になるのでしょうか?」

淡々と言う大安丸のその一言にまつうらは胸倉に掴みかかった。

「貴様ぁ!あの状況を見ていないのか!」

「だからこそ聞いているのです。私達はいつになったら、あのタンカーを曳航できるのかと」

燃え盛る二隻を指差し怒号を飛ばすまつうらと、それを気にもせず淡々と言い返す大安丸。

その二人の様子を最初はおとなしく見ていたひりゆうがついに怒鳴った。

「二人ともいい加減にせ!」

その声に二人はひりゆうを睨みつけた。

「貴様ら消防船がちんたらしているのがいけないんだろうが!」

「いい加減戻った方がいいのでは?」

怒りの矛先をひりゆうに向けた二人であったが、ひりゆうは臆することもなく言い返した。

「確かにオラらが力不足であることは認める!だけんど二人がここでいい争っても状況は変わらん!!」

そのひりゆうの言葉をうけ二人は首をうなだれた。

確かにここで二人が言い争ったからと言って、炎の勢いが収まるわけではない。

そう言うとひりゆうは身をひるがえした。

「二人はここで見とれ!こうなったら、今ここにいるオラら消防船や消防艇の根性見せたる!」

「待て、ひりゆう!」

まつうらの制止を振り切って、ひりゆうは自船へと転移した。


消防船『ひりゆう』

9年前に起きたタンカー、ヘイムバード号の火災を教訓に建造され5年前に就役された消防船である。

最大の特徴は安定性を得るために船体を二つ横につなげた双胴船体で、左右の艦首と船橋部分に1基ずつ

装備、さらに船体中央部には15万t級のタンカーにも対応できるように15メートルのも及ぶ放水櫓ほうすいやぐらを設け、その途中に2基、最上部には2基の合計7基もの放水銃が装備されていた。

轟々と黒煙を上げ燃え盛る炎を前にひりゆうは櫓の最上部に紙垂かみしでをてに仁王立ちになり、近くに居る妹たちに大きな声で声をかけた。

「しようりゆう!なんりゆう!オラらひりゆう三姉妹の力を見せるだ!」

そう言って手にしていた紙垂を空に向け掲げた。

船魂や艦魂の強い意志は時として乗組員の士気などに影響すると言われており、艦魂に至っては艦魂が狙い定めた敵に対しては驚異の命中率を誇ると言われている。

そして船魂であるひりゆうもまた同じであった。

「おらの名前はひりゆう……空を駆ける飛龍の名を冠し、火を納めることを願って誕生した消防船じゃ!」

『龍』という存在には昔から、水を操る力があるといわれており、海上で水を操り火を消す事を目的とする彼女らが『龍』の名を冠することは、まさに最適のといえただろう。

その、ひりゆうの強い思いが込められると同時に『ひりゆう』につけられたすべての放水銃から消火剤が噴射された。

「はあぁぁぁぁ!」

気合を発すると、ともに燃え盛る炎に消火剤が覆いかぶさり、周りでも同じように奮闘する消防船や消防艇の船魂たちが声を上げていた。

「これで終わらん!」

ひりゆうがそう叫ぶと『ひりゆう』の船体から霧状の水が散水れされ船体を覆い、そのまま第十雄洋丸へと突撃を開始した。

「ユウさん、待ってろ……オイラらがその炎を消したる!」

その思いが通じたのか、しばらくするとまるで彼女たちの勢いに押されるかのように炎の勢いが弱まってきた。

それをまつうらと大安丸はじっと見ていた。

「……ひりゆう」

そう呟くまつうらの隣にいた大安丸は身をひるがえした。

それに気付いたまつうらは振り返らずに声をあげた。

「さっきはすまなかった。その……少しイラついていた」

「気にしていない。……お互い様です」

二人が言い交わしたあと、一瞬だけ無言の間が生まれ、人々の声と放水、火災で船が燃える音だけが二人の間を満たすがそれはすぐに破られた。

「ここか、責任者は?」

そこに来たのは報告をしにやってきた三笠だった。

「ん、取り込み中だった?」

まつうらと大安丸の二人の様子から、気まずい雰囲気を感じた三笠であったが、当の大安丸は三笠を一瞥すると。

いや、と言いまつうらに一礼すると、大安丸は自船へと戻っていた。

一方、まつうらは大安丸が転移したのを確認すると三笠に目を向け、少し不機嫌そうに口を開いた。

「民間の方が、どうかしましたか?」

「さっき、仲間の一人が乗組員の一人を救助したので報告を……」

「……ご協力感謝する」

三笠からの報告を聞いて、まつうらは軽く息をつき礼を述べると燃え盛る二隻へと目を移した。

その後、ひりゆうら消防船艇の活躍により炎の勢いは徐々に収まり、9日の午後七時には大安丸らの手によって第十雄洋丸の右舷艦首に食い込んでいたパシフィック・アレスか引き離され、パシフィック・アレスは翌日の10日に何とか火災の鎮火に成功したものの、その後の調査の結果機関室に居て火災から難を逃れた1人を残し船長を含めた、計28人の死亡が確認された。

一方、第十雄洋丸の乗組員は船橋付近と船尾が無事であったため7人がやけどを負ったものの、乗組員34名が無事に救助されたが、脱出の際に5人の乗組員が溺死してしまった。

そして第十雄洋丸は炎の勢いは弱まりはしたものの、依然燃え続けており爆発の危険が伴っていた。

そのため曳航するのは難しく、風と潮流に一晩流された第十雄洋丸は気がつけば衝突地点から南西に約5キロの地点。

はるなら、海上自衛隊の基地がある横須賀の1.8キロの地点まで接近しており、二次災害の危険が俄かに漂い始めていた。

次回の内容はさまざまな出来事が入っているため次の更新は22日を予定しております。

しかし、執筆の状況によっては予定を変更する可能性がありますのでその際は活動報告に書かせていただきます。

何らかのご指摘があればぜひお願いします。

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