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エピローグ 別れの時

月日は流れ……

2009年 秋 広島県江田島

日が暮れ暗くいなっていく中、とある海沿いの工場からうめき声が聞こえる。

「クッ……ああああああああああああ!!!」

遠くまで聞こえそうなほど大きなうめき声がする方を見るとそこには、半透明の体から光の粒子がこぼれる女性……はるなの姿があった。

退役してから約8ヵ月、元護衛艦『はるな』はその生涯を終えようとしていた。

すでに解体台に陸揚げされた船体からはすでに艦首が切断され、艦橋やマストといった艦上構造物のほとんどがその姿を消しただの鉄屑となっていた。

本来ならばここまで解体が進めば艦魂はその一生を終え消えるのだが、はるなは消えていなかった。

そのため『艦魂は艦と共に存在する』という艦魂、本来の理を無視している はるなはそれなりの代償を払う事になっていた。

しかし、はるなはそれを受け止めていた。

「……これはことわりを………曲げている私の……代償……このぐらい……」

その様な事を口に出し叱咤しながら苦しみをこらえる はるなの隣には一つの置時計があった。

はるなは苦しみをこらえながら必死に置時計に目をやると時刻は18時40分過ぎを示していた。

「……ありがとう……ひえい……くああああああああああ!!!」

時刻を確認し、無理な願いを聞いて時計を置いてくれた ひえいに感謝の言葉を述べるが、すぐに顔がゆがむ。

気を抜けば消えそうになるのを はるなは必死に抑える。

「……あと少し……あと……少しなの……だから……」

そう言って自分を励まし はるなは自分の背にある江田島を見上げる。

思えば先代の自分も江田島を背に最期を迎えたのだと思いだした。

聞いた話によれば、近くには『榛名』の慰霊碑もあるという。

「……本当……不思議………なもの……っ!?」

何かめぐりあわせの様なものを感じていた はるなは今までと違う感覚に背筋が凍りついた。

目をやればすでに足から光の粒子となり消えていく。

「……まっ……て……」

時計を見やれば長針は、まだ文字盤の9の前。

「……あと……少……し……」

『35回目の祈りをあげたい』その気持ちが、艦魂の絶対の理を破ってまで はるながこの世に残る事を支えていた。

そしてそれが終われば……

「……あ……」

ついに胸まで消えかかっているのを見て、はるなはもうだめだと思った。


その時――――――――――


「お姉ちゃん!!」

その叫びが遠のきかけた はるなの意識をつなぎとめ はるなを驚愕させた。

そこには本来ならばここにいる事の出来ない ひえいの姿があったからだ。

ひえいは先月末に起こった『くらま』の事故により、任務を代行する事となり呉にはいないはずであった。

何でという表情の はるなに ひえいは目に涙をボロボロと零しながら答えた。

「みんながね……最期はね……一緒にいて……って……」

それは36年間という護衛艦としては異例の長期間、日本を守り続けていた彼女はるなへの敬意と感謝の表れでもあった。

「……バ……カ……」

こんな大変な時に はるなはそう言いながらもその心遣いが嬉しかった。

これが ひえいと二人でやる最初で最後の弔いなのだから……

ちなみに ひえいを はるなの元へ行くように言ったのは みょうこうであった。

彼女は『くらま』が事故を起こした日、ハワイで弾道ミサイルの迎撃実験を行い見事に成功させていた。

それは はるなからの教えがあってこそであると考えていた みょうこうは最後の恩返しにと周囲からの批判覚悟で提案したのであった。


そして――――――――――


『ピピピピ…………』

18時47分を示すアラームが鳴ると はるなと ひえいの二人は無言で両手を合わせる。

はるなはチラリと隣の ひえいを見ながら「もう思い残す事はない」と思うとすでにわずかな輪郭しかない手を ひえいの頬に添えた。

驚いた表情を見せる ひえいに はるなは最後の力を振り絞りおそらく最後となるであろう言葉を口にした。

「……ありがとう……」

その言葉に はるなはそれだけを言うとゆっくりと光の粒子になっていたのが、一気に早くなり ひえいもまた同じような光に包まれ始めた。

はるながいなくなったという事はすでにここは船ではないのだ、早く転移しないと ひえいも危険である。

しかし、ひえいは許される限りのギリギリまで風に流されながら、夜空に上る光の粒子の最後の一つが見えなるまで追い続けようと決めていた。

そして光に包まれる中、涙をボロボロこぼし、真っ赤になった目が最後の光が消えたのを確認すると ひえいは呟いた。

「お姉ちゃん……またね」

その瞬間、ひえいは自艦へと戻る光を伴い消えていった。


2009年11月28日18時47分。

人間には知られる事なく はるなはこの世から旅立っていった。

はるな・その手に負いし咎の記憶をここまで読んでいただき誠にありがとうございます。

初投稿から約四ヵ月(実質的な期間だと2ヵ月?)、予定の4倍のもの期間を書いてまいりましたがいかがでしたでしょうか?

相変わらずの表現不足&誤字脱字の上、自己締め切りに迫られた後半あたりは1話分に無理やり詰め込んだ事によって、何が何だか分からなくなっていると思いますがごめんなさい。

実際、後半の話が書き終わって見直していて『あれ?こんなの書いたっけ?』と驚く事が少しばかりありました(汗

また、当初はここでパーっと艦魂のドタバタをやろうと考えていたのですが、様々な諸事情により割愛させていただきます(ネタが思いつかなかったというわけではありません!)

代わりに はるなの簡易年表を作ってみたのですがいやはや……分からない事ばかりです。

作っていて気付いたのですが『はるな』は訓練以外で主砲を2回使用しています。

第十雄洋丸と能登半島不審船事件(詳しくは簡易年表を参照)ですが、両方とも海上自衛隊が初体験した出来事です。

これを見ていてやはり『はるな』は先代の『榛名』同様、日本に最後まで尽くしてくれたのではと改めて感じました。


はるなが完結したという事でキティの再始動!と行きたいところなのですが現在、思う所がありしばしお待ちください。

4月までには再開できると思いますので、気になる方は活動報告をこまめにチェックしておいて下さい。

一応、キティの連載一周年を記念した変なものもあります(変なものって……)

最後になりますが、本当にここまで読んでいただきありがとうございます。

ご意見ご感想、誤字脱字等々でもいいので感想、もしくはメッセージをお待ちしておりますのでご気楽にどうぞ。

約四ヵ月間お付き合いいただき、ありがとうございました。

今後ともよろしくお願いします。



DDH-141 ヘリコプター搭載型護衛艦『はるな』簡易年表

注意:1983年~84年の動きがはっきりしないので一部割愛しました


1970年3月19日

 三菱重工業長崎造船所で起工

1972年2月1日

 同造船所で進水、艦名が『はるな』となる

1973年2月22日

 就役

同年2月18日

 第一護衛隊群の直轄艦となり佐世保で任務に就く(ただし母港は横須賀)

1974年11月27日

 『ひえい』と共に第一護衛隊群第51護衛隊を新編

同年11月28日

 『ゆきかぜ』『たかつき』『もちづき』『なるしお』等と共に第十雄洋丸を攻撃し、撃沈する

1981年3月27日

 『しらね』と共に第1護衛艦群第51護衛隊を新編

1984年3月30日

 第三護衛隊群直轄艦となる(母港を舞鶴に変更)

同年8月7日~13日

 日米対潜特別訓練に多数の護衛艦と共に参加

1986年3月31日

 三菱重工長崎造船所でFRAM(Fleet Rehabilitation and Modernization):艦齢延長改装工事を翌年の10月まで行い艦齢を約8年延長する

1990年4月~6月

 環太平洋合同演習、通称:リムパック90に多数の護衛艦と共に参加

1999年3月23日

 『みょうこう』『あぶくま』と共に能登半島沖不審船事件に対処。

 海上自衛隊初の海上警備行動を行い不審船に対し主砲による警告射撃を行った。

2002年2月~6月

 『さわかぜ』『ときわ』(補給船)と共にテロ特別措置法に基づき派遣、給油活動を行う

2003年7月~10月

 『あさぎり』『とわだ』(補給船)と共にテロ特別措置法に基づき派遣、給油活動を行う

2004年6月~7月

 環太平洋合同演習、通称:リムパック04に多数の護衛艦と共に参加

2007年8月21日

 ウラジオストクの太平洋艦隊基地に親善訪問を行う

2008年3月26日

 海上自衛再編に伴い第三護衛隊群直轄艦から第三護衛群第三護衛隊に配属される

2008年5月~8月

 環太平洋合同演習、通称:リムパック08に多数の護衛艦と共に参加

2009年3月18日

 除籍、36年間勤めた国防の任を解かれる

2009年10月

 解体のため舞鶴より江田島に曳航のち解体作業開始

2010年1月

 解体終了

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