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第十話 血と記憶

本当にこの話を書いてよかったのだろうか……

11月28日 海上自衛隊横須賀基地

ひえいは自分の艦橋からはるながいるであろう東の方角を見ていた。

先ほど あきづきの元に本日の結果が連絡されていたが、処分は明日への持ち込みになったらしい。

『明日こそは成功させます』

報告の最後に言った はるなの言葉が妙に暗かったのが印象的で不安だった。

就役してまだ1日しかたっておらず乗組員も慣れていない『ひえい』が作戦行動に出れるはずもなく、はるなと共に新たに第51護衛艦隊を新編しておきながら何も出来ないのが悔しかった。

せいぜい自分が就役してからした動きらしい動きと言えば、造船所から横須賀基地へ回航されたことぐらいである。

「お姉ちゃん……」

今も司令として辛い思いをしながら職務を全うしているであろう はるなのことを考えていると不意に誰かが転移してくるのを感じた。

振り返ると光と共にはるなの前任である、あきづきの姿があった。

あきづきは ひえいを見るといつものような笑顔で話しかけてきた。

「ひーちゃん元気出して!明日で終われば、はるちゃん達も明後日には帰ってくるんだから、ね!」

あきづきはひえいを励まそうとするが、ひえいはそんな気持ちにはなれなかった。

しばらく元気を出させようとしていた あきづきであったが ひえいの芳しくない反応に肩を落とし、艦橋のトップの縁に腰を下ろした。

「……危ないですよあきづきさん」

「ムムッ!?ここで反応するか……」

ひえいの意外なところでの反応にあきづきは顔をしかめた。

しかし、それ以上会話は続かず二人は一時無言になったが、おもむろに あきづきが話し始めた。

「嫌だよね見ているだけって……」

その言葉に ひえいは あきづきに視線を向けた。

そこにいたのはいつもの元気なあきづきではなく、はるなが感慨を受けた司令官としてのあきづきだった。

「私もね、ひーちゃんみたいな事を何度も考えたんだ『自分は何で何も出来ないんだ』って……でもね、私の知っている人はもっとつらい思いをしてきたんだよ」

あきづきの話を最初は意外そうに聞いていた、ひえいはその人物が気になった。

「一緒に楽しんだり、笑ったり、泣いたり、たまに喧嘩したり……でも、その人はそんな大切な人達と会う事はもう出来なかった」

「どうしてですか?」

「みんな亡くなったの……戦争で」

『戦争』その言葉にひえいは顔を伏せた。

彼女たち艦魂が戦争と指す場合は大抵、太平洋戦争を現している。

当時の日本はアメリカ、イギリスと共に世界三大海軍に名を連ねていたが、戦争によって主力艦のほとんどを失った。

そして、残っていた艦も稼働するものは賠償艦として日本を離れ、傷ついた艦は解体されこの世を去ったのだ。

「その人は世界的にも有名で『英雄』とも言われた人だったけど、何も出来なくてただ見ているしか出来なかったって」

そこまでの話を受け、ひえいはハッとした。

「あ、あきづきさん、その人はもしかして……」

ひえいの反応に、あきづきはにやりと笑って言った。

「ひーちゃんが思っている人で当たっていると思うよ」

そう言ってあきづきは基地から向かって東側、ちょうど『その人』の名がついた公園の方に目を向けたのだった。


一方、あきづき達への報告を終えた はるなは ゆきかぜ等と共に会議室にいたが部屋のなかは暗い影が落ちており、その暗さは『はるな』艦内にある司令部以上であった。

ゆきかぜは目をつむったまま腕を組み、たかつきと もちづきは雷撃に失敗した事を詫び続ける、なるしおの面倒を見ていたがその顔には苦渋の表情が隠れていた。

そして彼女たちをまとめている はるなは、顔を落とし席に座ったままで はるなに対し何かと諭させる ゆきかぜは、今回は何も言わずにただ様子を見ていた。

実は皆が集まる前に砲撃前の態度についての話をしたのだが、その時から現在の調子で最初は何度かその姿勢を正そうとしたが、はるなは一切反応せず会議室に集まったのはいいが結局何もできず今の状態となっていた。

会議室に全員が集まってどのくらい経っただろうか。

今まで もちづきと共に なるしおの世話をしていた たかつきが立ち上がるとはるなを気にしながら ゆきかぜに近づいてきた。

「あの……ゆきかぜさん……」

「言っとくが私は代行しないぞ」

たかつきの問いかけに ゆきかぜは目をつむったままであったが即答した。

あくまで ゆきかぜは はるなの補佐であり、会議を完全に仕切る事はないのだ。

「でも……」

不満を続けようとしたが、ゆきかぜは片目を開くと たかつきを睨みつけ言い放った。

「現状では誰ひとり欠けるわけにはいかない。ましてそれが指揮する司令という立場ならなおさらだ……分かっているな はるな」

たかつきに話していた ゆきかぜであったが、最後の言葉は はるなに向かって言った。

すると はるなはおもむろに立ち上がった。

「……少し、席をはずします」

そう言うと はるなは入口へと向かうが、たかつきが肩に手を掛けた。

「はるな司令!」

「……すぐに、戻ります」

はるなはうつろな表情でそう言うと たかつきの手を払って会議室を出て行った。

今までと違う はるなの様子を改めて感じた一同は何も言えなくなり、開かれたドアが閉まると室内は再び暗い空気に包まれたのであった。


はるなは会議室を出ると艦首へと向かった。

そこからは大火災を起こしながらも沈む気配の見えない第十雄洋丸を見る事ができた。

「何をしているんだろう私……」

はるなはそう言うと大きなため息をついた。

先ほどは自分の事を心配している ゆきかぜの指摘を無視し、たかつきをほぼ無視する形をとってしまった。

本当はあの様な態度を取るつもりではなかったのだが、気づいたらあの様な形になってしまっていたのだ。

それではいけないと はるなは頭を振り大きく深呼吸をした。

「みんなを指揮するのは私にしかできない事なんだから……」

そう自分に言い聞かせ はるなは会議室に戻ろうと踵を返したが、すぐにその足を止めた。

その理由は はるなの前に2人の艦魂……いや、船魂がいたからだ。

はるなはこの2人が現在第十雄洋丸を監視している巡視船の船魂であるとすぐに分かった。

「こんな時に海を見ているなんていい気なものね」

2人いるうちの1人が唐突に話しかけてきたが、その口調はあからさまな敵意があった。

はるなは違うと言おうと口を開きかけようとしたが、その次に発せられた言葉に止められた。

「あれだけ攻撃していて……本当に沈める気あるの?」

その言葉に はるなは顔をゆがませた。

『本当に沈める気があるのか?』

それは はるなにとって……いや、今回の作戦に参加している艦魂にとっては最も辛い言葉であった。

実際にほぼ的でしかない第十雄洋丸への攻撃をいくつかはずし沈めていないのだからそう言われても仕方がなかった。

「あるんじゃないのかしら?」

そう言ったのは隣にいた船魂で はるなは意外そうに見つめ最初に話していた船魂はそちらに顔を向けた。

「本当?」

「ええ」

そう言うとその船魂は はるなを悲しそうに見つめ言った。

「せっかくの標的なんだから、じっくりと痛めつけるだけ痛めつけて沈めるのよ」

「!!」

まさかの言葉に はるなの瞳は凍りついた。

その はるなの様子を知ってか2人の船魂は言いたい事を言い続ける。

「そうか、こんな時でもないと堂々と撃てないからね~」

「そうだよ」

「てことはわざと外したりしたのかな?」

「多分そうじゃない?」

どんどん放たれる心もとない言葉を受けながら はるなはじっと聞き続け心の中で思った。

そんなわけない、みんな第十雄洋丸のために必死だった。

まして なるしおは、魚雷をはずした事を今でも悔やんでいるのに……それなのに……

しかし、これだけ言われながらも はるなは歯を食いしばり、拳を握りしめ耐えていた。

それはここで何を言ってもこの2人は言い訳としかとらえないだろうとはるなが考えたからであった。

「早く沈めてあげればいいのにね」

「仕方ないわよ、所詮……」

そこまで言うと1人が必死に耐える はるなを向き、口を開いた。

「役立たずの自衛隊の戦争ごっこだもの」

『戦争ごっこ』その言葉を聞いた瞬間、はるなは顔を覆いその場に崩れ落ちた。

そして今まで浴びされてきた言葉が頭に広がった。

わざと外した?痛めつけるだけ痛めつける?戦争ごっこ?

違う、今までそんな事はしていない、なのに何故そう言われなければならないのだろうか?

事実をありのままに見ているはずの彼女たちに何故そう言われるのだろうか?

沈められないからなのか?彼女ユウを沈めればそう言われなくなるのだろうか?

そこまで考えた はるなはまるで科学者が長年の悩みを解決した時のような、嬉しそうな顔をした。

「……だったら」

ぼそりと呟くとゆらりと立ち上がった。

今までとあからさまに違う はるなの様子に2人の船魂は足を引いた。

「お、おい?」

「どうし……」

「あなた達、何しているの!!」

2人の船魂が恐る恐る はるなに声を掛けようとした時、突然響いた大声に2人は振り返りしまったという顔をした。

そこに現れたのは はるな達と共に報道員をのせ横須賀を出港した巡視船『いず』の船魂だった。

いずは 探していた同僚を見つけると問答無用で2人を捕まえた。

するとなかなか帰って来ない はるなを心配していた ゆきかぜ達もいきなりの大声に何事かとその場にあらわれた。

「一体どうしたんだ?」

ゆきかぜは大体予想は付いていたが いずに事情を尋ねた。

一方、聞かれた いずは「すみません」というと、自分が頭を下げると同時に捕まえた2人の頭を無理やり下げさせた。

「私の同僚が司令殿に今日の事でご迷惑をおかけしたようで……本当に申し訳ありません」

いずの答えにやっぱり、と言った様子で腕を組んだ。

海上保安庁の船魂の中には、今回の事件で自分達が何もできず海上自衛隊に処分を任されたことを不満に思うものもいた。

おそらく今 いずに頭を押さえられている2人はそんな船魂で、たまたま一人でいた はるなにその鬱憤を様々な侮辱と共にぶちまけたのだろう。

そして ゆきかぜはよほどひどい事を言われたであろう はるなを探した。

が―――――――――――

「はるな?」

ゆきかぜの様子にその場にいた全員が、慌てて周囲を見渡す。

さっきまでいたはずの はるながいないのだ。

一体どこに……全員がそう思った瞬間、連続した爆発音が響いた。

そして全員が一斉に第十雄洋丸に視線を向ける。

大火災を起こしながらも今まで第十雄洋丸は平然としていたが、先ほどの爆発をきっかけに連続した爆発が起こり始め、その急激な変化に乗組員の動きもあわただしくなってきた。

「こんな時に一体……」

いきなり消えた はるなに対し ゆきかぜが愚痴を言おうとした瞬間、あり得ない事が脳裏に浮かんだ。

「まさか……」

ゆきかぜは たかつきにその場を任せ急いで転移を開始した。

場所は第十雄洋丸、そこに はるながいると信じて……


ゆきかぜが思った通り はるなの姿は第十雄洋丸にあった。

はるなは いずや ゆきかぜの登場で場が混乱している間に第十雄洋丸のブリッジへと転移していたのだ。

そして はるなが見下ろす視線の先には昨日からの攻撃を受け続け、無残な姿となったユウがいた。

全身の各所には砲撃や爆撃で出来たと思われる爆ぜた様な裂傷が走り、魚雷の攻撃時に出来たと思われるひと際大きな穴がわき腹にあり肋骨が見えていた。

周囲には肉片が飛び、血の池の様な大きな血だまりが出来ており、炎に照らされるなかでユウは意識を失っていたが胸はかすかではあるが上下に動いていた。

それはこの様な姿でもまだユウが生きているということの証明でもあった。

「…………」

はるなはその動きを認めると無言のまま刀を振り上げた。

「……死んで」

そう言って振りおろされた刀は、ぼろぼろになったユウの両足を切断した。

切断された足はごろごろと転がり、傷口からは血が噴き出し はるなを赤く染めた瞬間、第十雄洋丸で連続した爆発が起きユウの体に新たな裂傷が出来る。

その様子に はるなは狂喜じみた笑みを浮かべた。

基本的に艦魂や船魂が傷ついても本体である船体への影響はないが、たまに艦魂や船魂の調子が悪いと機関の調子がすぐれない事がある。

つまり艦魂や船魂に何らかの影響があっても、それが全くないわけではないということである。

そう考えた はるなは弱っている ユウに止めを刺せば第十雄洋丸が沈むと考えたのであった。

そして、その考えは見事に当たっている事が先ほど証明されたのだった。

「……すぐに楽にさせてあげますよ」

はるなは狂喜の笑みを浮かべたままユウの胸元めがけ何度も刀を振り下ろした。

刀の刃はユウの肉を研ぎ、骨を断たせそのたびに第十雄洋丸の爆発がブリッジを揺らす。

しかし、まだ沈む様子は見られなかった。

やはり、船魂への攻撃では本体への攻撃ほど大きなダメージは与えられない様であった。

「……だったら」

はるなはそう言うと無造作にユウの頭をつかみ上げ、大きな傷がある首に刃を当てた。

「……これで最後よ」

はるなはユウの首を落とすべく刀を大きく振り上げると傷口めがけ振り下ろした。


が―――――――――――


血に濡れた刃はくろがねに輝く別の刃に止められ はるなの表情がゆがんだ。

「戯れ事はここまでにしておけよ、はるな」

そう言い放つのは ユウとはるなの間に割り込んだ ゆきかぜであった。

第十雄洋丸の異変を感じ取った ゆきかぜは咄嗟に自艦に戻ると、自分の武器を顕現させ第十雄洋丸へと転移してきた。

そこで今まさにユウの首を跳ね飛ばそうとしている炎に照らされた はるなを見つけ咄嗟に間に割り込み左手の脇差しで防いだのであった。

これは護衛艦の艦魂の中で1,2を争う実力を持つ ゆきかぜだからこそ出来た事である。

ゆきかぜは はるなを睨みつけると右手の刀で突きを放ったが、はるなはそれを軽やかにかわした。

「なっ……」

この距離での突きを はるながかわした事に ゆきかぜは驚愕したが、それだけでは終わらなかった。

はるなは突きをかわすと同時に突き出された右腕をけり飛ばし、その衝撃で ゆきかぜは刀を落とした。

ゆきかぜは咄嗟に間合いを取ると右腕を押さえ はるなを睨みつけた。

「貴様……本当に はるなか?」

先ほどからの はるなの動きに ゆきかぜは戸惑っていた。

はるなの実力は低いわけではないが、ゆきかぜと比べれば明らかに劣っていたはずであった。

しかし、現状は全く違い逆に ゆきかぜを圧倒していた。

そして、ゆきかぜの問いは言葉ではなく行動で返された。

炎が照らす中、はるなは一気に ゆきかぜとの間合いを詰めに入る。

ゆきかぜは咄嗟に残された脇差しで防御に入るが、はるなは ゆきかぜの左腕を蹴り上げ防御の態勢を崩した。

ゆきかぜはすぐに立て直そうとするが、左腕の付け根に鈍い衝撃と激痛が走った。

「グッ……」

ゆきかぜは呻きをこらえながら左腕の付け根に目をやるとそこには はるなの刀が突き刺さっていた。

耐えきれなくなった左手から脇差しが滑り落ちると はるなは脇差しを遠くへと蹴り飛ばし更にはそのまま刀を動かし傷口を広げる。

「がぁぁぁっ……」

傷口を広げる激痛に ゆきかぜは呻くと膝をついた。

はるなは ゆきかぜが膝をついたのを確認すると刀を引き抜き、ユウの方へ踵を返す。

その様子を見ながら ゆきかぜはある事に気付いた。

『さっきの戦い方、まさか……』

刀と蹴りを多用した戦いをする艦魂を ゆきかぜは先代の雪風からもらった書記で知らされていた。

だがそれがいまさら分ったところで今はどうしようも出来ない状況であった。

左腕は完全に潰され、右腕はかろうじて動くがそれほど激しくは動けないうえ刀と脇差しは遠く離れた場所にある。

残された物はただ一つ……


ユウに止めを刺そうと歩みを進めていた はるなは不意に振り返った。

「……まだ邪魔をするの?」

残念そうな表情で振り返った はるなは立ち上がった ゆきかぜを見た。

有一使えるであろう右手には一本の脇差しが握られていた。

それは ゆきかぜが最も大切にしている一振り、雪風の脇差しだった。

しかし、ゆきかぜは脇差しを構えずむしろ はるなに脇差しが見えるように見せた。

「この脇差しを覚えていますか……」

はるなは 先ほどと若干変わった ゆきかぜの態度を不思議そうに感じながらに脇差しに視線を向ける。

はるなの視線が脇差しに向けられた事を確認すると ゆきかぜは意を決し口を開いた。

「はるな、いや……榛名殿」

ゆきかぜの口から出た同じ発音でも持つ意味の違う言葉に はるなの表情は固まった。

ただ自分の名前を呼ばれたはずなのに何かがおかしい。

「し、知らないわよ!」

そうだ、あの脇差しを自分は知らない……あの脇差しなんて……

次の瞬間、いきなり頭の中にある情景が映し出された。

『私から一本を取った駆逐艦の艦魂は初めてだったよ……』

「っ!?」

目の前には今は無きかつての日本海軍の軍服を身にまとった艦魂が一人。

そして、その艦魂に話しかける声はよく知っている声……

『私から一本取った記念に受け取って』

目の前の艦魂は差し出された脇差しを驚いた様子で見ていた。

『ハハハ……そう驚かないで』

この笑い声、話し方、これは……

「私?」

何故、自分がこの艦魂に脇差しを与えているのだろう……

『私はもう海原を掛ける事もない……だからこそこれを受け取ってくれ』

そう言われその艦魂は恐る恐る脇差しに手を掛けた。

そして、その様子を自分と同じ声の主は満足そうにうなずいた。

『司令を……大和を頼むわ』

司令、大和、懐かしい響き……そうだ今、目の前にいるのは……

『雪風』

次の瞬間、場面がいきなり変わり、全身に激痛が走る。

周囲を見渡せばすぐそばに島が、そして上空には幾重もの弾幕が張られその合間を紺色の機体に白い星が描かれた無数のプロペラ機が飛んでいた。

そして、それらの一部の機体が一斉に自分めがけ突っ込んでくる。

『落ちろぉぉぉぉぉぉぉ!!』

次の瞬間、今まで見た事のない大きさの砲が火を吹くが一機も落とす事は出来なかった。

そして弾幕をくぐりぬけてきた機体から爆弾が投下され、ゆっくりとした速度で自分を直撃した。

「いやああああああああああああああああああああ!!」

「はるな!」

はるなは叫び声を上げるとそのまま血だまりの中に倒れ込み ゆきかぜが駆け付け何とか引き起こす。

「しっかりしろ!は……」

ゆきかぜが名前を呼ぼうとした瞬間、今までのとはケタ違いの大爆発が起こった。

その衝撃に ゆきかぜは はるなを抱えたまま壁に叩きつけられた。

痛みをこらえながら ゆきかぜが周囲を確認すると艦尾から徐々に浸水していくのが感じられた。

まさかと思い見渡すとそこには、飛び出た骨すら全身の血で真っ赤に染まり、見るも無残な……いや、もはや人とは言えないユウの姿があった。

「くっ……」

ゆきかぜは吐き気をこらえると はるなを支え皆が待っているであろう『はるな』へと転移した。


その頃、『はるな』をはじめとする第十雄洋丸を見守っていた全ての艦船はあわただしく、潜行して様子をうかがっていた『なるしお』も緊急浮上をして事の経緯を見守っているほどであった。

その様子や連続して起こる爆発に報道員は連続してシャッターを切り、乗組員もまた爆発が起こるたびにどよめいた。

そしてひと際、大きな大爆発に誰もが驚愕した。

その大爆発は第十雄洋丸の3,4番のタンクで起きたもので300mもの火柱が立ち上った程であった。

一方、ゆきかぜにこの場を任された たかつきは いずたちと別れ、艦魂全員がいつものようにはるなの艦橋トップに集まっていた。

爆発する様子を心配そうに見守っていたが、目の前に転移の時に現れる光の粒子が集まってくるのに気がついた。

「ゆきかぜ……」

戻って来た事に気づき喜びかけた たかつきであったが肩口から出血し、血まみれの はるなを見て絶句した。

その反応は全員同じで困惑した様子であったが、再びの大爆発に全員がそちらへと顔を向けた。

今度の爆発は2番タンクで起こったらしく、そのころには第十雄洋丸のブリッジは後方で一体化していた煙突もろとも水没していたがその勢いは止まらなかった。

ゆきかぜは はるなを近くの壁に寄り掛からせると背筋を伸ばし第十雄洋丸を見た。

第十雄洋丸は船首を上にほぼ直角の状態となると炎を抱えたまま沈んでいく。

「第十雄洋丸に敬礼!」

痛みをこらえながらも放たれた ゆきかぜ声に全員が背筋を伸ばし第十雄洋丸へ敬礼を送った。

そして周囲の艦船の乗組員もまた1人、1人、第十雄洋丸に対して敬礼を送った。

その際、処分部隊からは『悲しみの譜』が奏でられ、出来る限りの範囲で第十雄洋丸への弔いが行われた。


18時47分

第十雄洋丸は事故から20日間にも及ぶ大火災を起こした第十位雄洋丸は、多数の艦船の乗組員と十四夜の月に看取られ、その身に纏った炎と共に波間から消した。

北緯33度40分、東経145度55分の水深、約6000メートルの海底で永遠の眠りにつく事になった彼女が残したのは月光が照らす薄い油の膜だけであった。

次で最終話です。

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