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魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
【第2部】運命の出会い
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第十四章② 美談で終わらないのが人生

 家賃不要で、いつまでもいてくれと夫妻に頼まれた。さすがに悪いから払おうとしたんだけど、頑として受け取ってくれなくて。だからその金を貯めて、いつでも渡せるようにしていた。


 こうなったのも何かの縁だと、クレディはサアナを俺の世話役に任命した。まあ、先にサアナの方から立候補されたそうだけど。だから学園でも家でも、サアナが俺の面倒を見てくれた。この街は巨大すぎるから、サアナのサポートは本当に助かったね。



 しばらくポートに滞在して、俺はこの生活がとても気に入った。あの時、学園長の提案を受け入れて、本当によかったと思う。


 この街には、俺の知らないことがたくさんある。多くを知るには、助手という立場は非常に都合がよかった。学生なら一つの学部でしか学べないけど、助手ならどの授業も聞き放題だしね。ドルドネでの活躍があったから、俺は学園内ではちょっとした有名人になった。だから有名な教授も、進んで俺に個人授業したり有意義な談義をしてくれたよ。当初の目的だった魔力操作も習得したし、呪術や魔法道具についても学んだ。


 それでもポートの叡智をすべて学ぶには時間が足りない。学習のために旅の無期限延期を決めた時は、学園長はじめ、クレディや助手、ホーシー一団の面々、そしてサアナと両親にも抱きつかれたよ。みんな本当に喜んでくれたな。


 あと、サアナが俺の学びを応援してくれたのも、本当に励みになった。

 家に帰ると、サアナが今日は何について学んだか尋ねるんだ。だから俺たちは、家に帰ってからも小難しい話ばかりしていた。サアナの両親たちは俺たちのやりとりを聞いて首を傾げていたけど、サアナは専門外のことも熱心に聞き入っていた。次第にはもっと深く理解したいからと、専門外のことも自主的に学んでいたね。最初はフワフワな印象のサアナだったけど、学問に向かう姿勢は本当に真剣なんだ。だから俺はサアナが年頃の異性だということも忘れて、いつも語り合っていた。



 俺たちにとっては普通のことだったけど、周りから見るとそうでもなかったらしい。ある日の朝食時、サアナの母さんがこう言ったんだ。

「二人は付き合ってるの?」


 あまりに唐突だったから、俺は固まってしまった。でもサアナはあっけらかんと答えたんだ。

「そのうちね」

 両親も驚いていたけど、俺の方がよっぽど驚いた。


 そんな動揺が露骨に態度に表れてたんだろうな。自室に戻る時、サアナから考えておいてねと言われたよ。恥ずかしい話だけれど、この時初めて、俺はサアナを年頃の女性として意識した。



 で、それからは、なんかそんな雰囲気になって。今まで以上に、一緒にいるのが自然な感じになって。

 そもそも俺は、彼女が欲しいとか考えてなかったんだよ。というか、俺の仕事に対して理解してくれるような人じゃないと続かないと思ってた。

 でもよく考えたら、俺を理解してくれる異性は身近にいたんだよな。まあ、サアナの方は明言されないだけで、とっくに俺と付き合っているつもりだったらしいんだけど。



 そんなこんなで、激動の一年が終わろうとしていた。

 雪が降り始めて、今年も終わりそうだと噛みしめていた頃、サアナから突如妊娠を告げられた。もう嬉しいとかやっちまったとか、色んなことが瞬時に脳内を駆け巡ったよ。

 でも俺の心は決まっていた。サアナを抱きしめて、結婚しようと告げた。遅いよと言いつつ、サアナは笑って抱き返してくれた。俺が十五歳になった、少し後のことだった。



 サアナは十四歳で男児を出産した。この時に知ったが、サアナは多産の家系らしい。サアナに兄弟がいないから、てっきり一人っ子だと思っていた。(まあ、実際は兄と姉たちが早期に独立しただけなんだけど)


 長男出産を皮切りに、ポコポコと子供が生まれて……。気づけば俺は、二十歳を迎える前に四児の父となっていた。まあ、ドルドネとの交易のおかげで莫大な収入があったから、生活には困らなかったけどね。


 ちょっと話は変わるんだけど、父となったことで俺の意識も大きく変わった。より仕事に力を入れようと思ったんだ。

 学園長の言う通り、原住民の言語が話せる俺は、ドルドネとの交易を独占状態。研究団の通訳を買って出たり、ドルドネからの留学生を多数受け入れた。幸い義実家は学生を受け入れる体制が整っていたし、喜んで受け入れてくれた。ポートとドルドネを繋ぐことで、俺にはさらなる利益が入ってきた。


 俺がポートにやってきた十年目に、両地の国交を祝して、俺は名誉市民として表彰された。俺の活動がそのままポートとドルドネとの歴史になっているとして、ドルドネからもポートからも感謝されたんだ。そこからはポートの有識者として評議会にも参加するなど、社会的地位と名誉も手に入れた。


 でも俺にとって何より嬉しかったのが、奥さんと子供が喜ぶこと。父さんはスゴイって褒めてくれたり、子供たちとささやかなパーティーをしたのが何よりの思い出になった。


 こうして俺は幸せな日々を送った。………ってことで話が終われば、最高の美談なんだろうな。でも残念ながら、そうはいかない。運命ってのは、本当に厄介だと思うよ。ここから先の話は、また別の機会に。俺もちょっと精神的にきついから、落ち着いたらまた話をさせてくれ。



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