第十三章② めでたしめでたし…で終わっていいですか?え、ダメ?
「それってもったいないと思わない?」
「何がですか?」
「君には才能があるんだからさ、その才能を使おうよ」
「はあ」
才能と言われても、俺には心当たりがない。
「それにドルドネとの交易だって、お小遣い稼ぎじゃもったいないよ。ちゃんとやれば大商売になる。とんでもない利益が出るんだよ。で、ドルドネの言葉が話せるのは、この街に君しかいないんだよ。超チャンスじゃん!」
「はあ……」
ガガは一人で熱くなっているが、俺にはそこまで熱くなれる理由がわからない。だからよほど間抜けな顔をしていたんだろうな。ガガは咳払いすると、改めて俺に笑顔を向けた。
「だからね。アズールくんが嫌じゃなかったら、僕からお仕事をお願いしたいんだ」
「どういったことでしょう?」
「クレディくんの助手になってよ」
「は?」
「もちろん形だけでいいんだ。植物学を学ばなくたっていい。いや、学んでもらってもいいんだけどね。そこは任せるよ。なんだったら全部の学部の授業を聞いたっていいんだから。ああ、本題から逸れたね。クレディくんは今さ、ドルドネ独自の生態系を調査しているんだけど、言語面からサポートしてほしいんだよ。もちろんホーシー一団全員の力になってくれると嬉しいな。調査のサポートついでに、交易を続けてくれたらいい。そうしたら生活費が二重に稼げるよね。とってもいいと思わない?」
「魅力的なお話ですが、なぜクレディの助手なんでしょう? あ、嫌とかではなくて、俺には植物学の知識はないですし」
「だって君、魔法薬に詳しいんでしょ。ドルドネの薬草で、たくさん魔法薬を作ったそうじゃないか。だったら大丈夫だよ。クレディくんはああ見えても植物学の権威だから、どんな植物でも守備範囲内だし。ついでに薬草の分野も研究してみたらどうかな。きっと楽しいよ」
思わぬ提案に、俺はなんて返していいのかわからなかった。その動揺を察知したのだろう、ガガは高笑いすると俺の肩を叩いた。
「まあ、すぐには決められないよね。今晩はゆっくり休んで、その気になったら教えてよ。君ならいつでも大歓迎だからさ。あ、ついでにその可愛いネコちゃんもね!」
その後は今晩の宿泊予定とか俺の出身地のこととか、簡単な雑談をしてから俺は退室した。
秘書室ではクレディと秘書が興味津々な視線で俺を見つめてきたけど、俺はなんだか話したくなかった。自分でさえ情報を飲み込めてないのだから。今口を開いたら、ますます混乱しそうだった。
まあ結論から言うと、ガガの提案にオーケーしたんだけどね。数日後にガガを再訪してその旨を伝えたら、また全力でハグされたよ。決断した時にはクレディにも抱きつかれたし、みんな抱きつくのが大好きだな!
で、その後の俺はクレディの助手として、ドルドネとの交易を行った。時には通訳。時には薬草の採取。時には分析や資料整理。クレディは俺に時間をくれたから、合間を縫って他学部や授業にも潜り込むことができた。
もう見るものすべてが新鮮だったよね。魔法一つとっても、俺の国とは微妙に違う。俺の国は体内から魔力を放出する術がメインだけど、ポートでは魔力を込めた道具を使うのが一般的で、便利な道具が街中に流通していた。こうすることで、魔力が低い人間でも魔法の恩恵を受けることができる。魔力消費も抑えられるし、非常に効率がいい道具というわけだ。
そうそう。学園で使われる、転移魔法のドアもその一部。俺も移動用の鍵をもらったから、学内を縦横無尽に駆け巡ったね。実はずっと、なぜ守衛が鍵を使わないのかずっと疑問に思ってたんだけど、謎が解けた。鍵を持てるのはよほど信頼がある学園関係者だけらしいんだ。教授とか助手とか。守衛は部外者と接することがあり、鍵を奪われると一大事だから、わざわざ毎回魔法を発動させているらしい。いくら便利になっても、色々あるもんだよな!
そんな鍵一本に、どれほどの技術が詰め込まれているのだろう。魔法道具にも興味が出てきたし、俺は毎日が楽しくて仕方なかった。
ポートで俺は、ようやく充実した日々を手に入れたんだ……ってところで話を終わりたいんだけど、やっぱりアレの話をしなきゃならないよな。うん。本当は嫌だけど。でもこの後の展開に関わるし。……わかった。気まずいけど話すよ。俺と奥さんとの馴れ初めを──