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魔王が居座るせいで始まりの町から出られません  作者: 団 卑弥呼
【第2部】運命の出会い
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第十三章① ようやく憧れのポートに到着!

 二日後の昼前に、俺はポートに到着した。あのままホーシー一団と高速船に乗っていたら昨日の午後には到着していただろう。一般船に乗り替えたので、到着が少し遅れた。まあ、急ぐ旅でもないから、何も問題ない。でもクレディたちと一緒に来ればよかったと、到着時に後悔した。


 ポートは俺の予想を裏切る街だった。もちろんいい意味で!


 まず街自体がでかい。俺がいた王都もそれなりに大きいと思ったが、都市国家のポートは、国土全部が一つの町だった。全体は二十区で構成しており、一つの区が王都くらい大きい。

 この時はじめて、俺は田舎出身だと気づいた。俺の故郷は、国内で自給自足が成立しており、交易が少ない。それなりに裕福だし満ち足りていると思っていたが、安定しているだけで発展はしなかったのだ。年に一度の春光節は、とても大きな祭りだと思っていた。でもポートでは、毎日が春光節以上の賑わいを見せていた。結局俺の故郷は、北方にある小国に過ぎなかったのだ。


 船を降りた瞬間、俺はしばらく歩き出せなかったね。とにかく気圧された。もう何が何だかわからなすぎて、しばらくは馬鹿みたいに突っ立って、街を眺めていたんだ。でもいつまでも立ち止まってはいられない。まずはクレディがいるという学園に向かった。


 クレディと別れる時、戻ったらすぐに学園へ来るようにと言われた。守衛に話をつけておくので、すぐに研究室へ通してもらえるはずだと。

 わざわざ言付けなくても、俺に部屋の場所を教えたらいいのに。大げさだと思っていたが、学園を見て納得した。


 都市の中央、天に向かってそびえ立つ塔がクレディの所属する学園らしい。学園の敷地だけで一区あり、周辺施設を含めると五区分の大きさがある。学園だけで、町の四分の一を占めているのだ。これでは初来訪者が迷うのは当然だ。

 学園には複数の入門ゲートがあり、俺は最初に見つけたゲートから中へ入った。敷地内に入ってすぐの場所に、小さな小屋がある。看板に守衛室と書かれていた。



 俺は監視窓を軽くノックした。少し間があって、窓を開き、中年の守衛が顔を出した。青色のローブを着て、いかにも魔術師という風体だった。

「どちらさん?」

「アズールと申します。クレディさんに面会をお願いしたいのですが」

「少々お待ちください」


 守衛は辞書のように分厚いノートを取り出すと、何かを探した。そして発見すると、俺に向かって笑顔を見せた。

「こちらへどうぞ」


 小屋からぞろぞろと青色ローブの守衛が出てきて、俺を小屋の後ろに案内した。行ってビックリ。守衛室裏の地面には、巨大な魔法陣が書かれていた。


「ドアの前にお立ちください」

 魔法陣の真ん中に、ポツンとドアが立っている。どの角度から見ても、ただのドア。置いてある場所以外、特別なことは何もなかった。


 守衛とともにドアの前まで来ると、守衛は目の高さにあるプレートに数字を書き足した。そしてすぐに魔法陣の外に出た。他の守衛たちは俺を囲むように円の外側に立ち、何かブツブツ呪文を唱えている。異様な光景で、なんだか怖くなってきた。頭上のルルもブルブル震え、俺の懐の中に逃げ込んだ。

「カッ!」

 守衛が最後の言葉を叫ぶやいなや、ドア全体が青く光った。


「さ、どうぞ」

 遠巻きに守衛から促され、俺はドアを開けた。すると不思議。ドアの向こうは外ではなく、とある廊下だった。正面にはドアがあり、ネームプレートにはクレディの文字。わけがわからないままドアをくぐると、ドアの光が消えた。俺がやってきた向こう側は、ただの壁になっていた。


 俺は混乱した。今では転移魔法の一種とわかるんだけど、当時はまったく理解できなくてさ。ただ目的地に着いたということだけはわかったから、俺は目の前のドアをノックした。



 はいと懐かしい声がして、ドアが開いた。クレディは俺を見るなり、全体重をかけて抱きついてきた。

「アズールさん! よく来ましたね。お待ちしてましたよ」

 いきなりだったのでクレディを支えきれず、俺は後ろに倒れてしまった。潰されたルルがギャッと短い悲鳴をあげた。それに気づいて、クレディは俺から離れた。

「ごめんなさい。つい嬉しくなっちゃって」

「この国の挨拶って熱烈なんだな」

 そう悪態をつきながら、俺はクレディの部屋へ入った。


 こんな感じで軽く話しているが、クレディはポートきっての優秀な植物学者だ。未知の生態系解明のために編成されたホーシー一団に属していたのだから、その実力はお墨付きである。ポートでは学問を何よりも優遇しており、学者は一等の待遇を受けられる。

 そんなクレディの研究室は、本当に広かった。俺の家がすっぽり入って、さらにそれ以上の空きスペースがある。それほどの広さがあるにも関わらず、部屋の中は窮屈だ。壁面の書棚にはみっちみちに本が詰まり、床のそこらじゅうに標本が転がっている。箱に入った標本がうず高く積まれ、部屋の中に何本もの塔ができていた。ドアの真正面には大きな窓があり、窓の前にクレディの机がある。ドアから机までの道以外、室内に足の踏み場はなかった。だから俺たちはジャングル内よりも慎重な足運びで、机まで進む必要があった。


 机の脇にはスツールがあり、座面に本が積み上げられている。クレディはその本をどかすと、俺に座るよう促した。お言葉に甘えて俺は座った。クレディも自分の椅子に座ると、俺の方へ向き直った。


「もうずいぶん離れていた気がしますね。元気でしたか」

「ああ、まあ。クレディは元気そうだな」

「僕? 僕はこの通り元気ですよ。やっぱり自宅のベッドで眠ると疲れがとれますね。ってこれじゃあ僕、お年寄りみたいだ。あはは」


 よほど再会が嬉しいのか、クレディは終始ご機嫌だった。俺が聞かなくても、ポートに戻ってからのことを勝手に教えてくれた。


 幸い呪術で身体が崩れた仲間は、全員一命をとりとめたらしい。怨念回収のため、じわじわじわじわ痛めつけたのが結果としてよかったそうだ。身体の欠損は元には戻らないが、それでも日常生活は問題なく送れるらしい。片足を失ったロイは補助具を付けることで、自分で歩けるらしい。

 それを聞いて、俺はホッとした。あれだけ身体を傷つけられたら、いっそ死んだ方が楽だと絶望したかもしれない。俺が助けたことで残酷な選択をさせたかもしれないと、どこか後ろ暗い気持ちを抱いていたんだ。


 クレディはそれからも様々なことを教えてくれたが、突然あっと声を上げて固まった。


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